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第一七話
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そうして俺の意識はグラマーの補修講義へと戻った。今回一緒に補講を受ける生徒は俺以外なんと三人しかいない。ちなみに全員男子。これは講義からきつそうだ。
篠崎先生が教壇でテキストを広げ徐に口を開く。
「じゃあ今回はここにいる全員できていなかったifの仮定法過去完了と仮定法過去の違いをおさらいしていくぞ」
グラマーは専門用語の日本語からして意味不明で嫌いだ。「過去」なのに「仮定」で「完了」しているとか本当にわけがわからない。
先生が一つ例題を書き、講義を始めるので必死に黒板を見たりノートを取るなどしつつも頭の中では理解が追い付いていない。やばい。さっぱり分からない。心の中で冷や汗をかいていると
「じゃあ、今の解説のおさらいとして__、芦屋、この問題を解いてみろ」と突然当てられ、俺の心拍数は急上昇した。
恐る恐る黒板の前まで来たものの、問題文を見てもさっぱり分からない。先程の講義が理解できなかったのだから当たり前だ。人間、ど真剣に悩むと頭の中が真っ白になる。あああ、静まり返った教室の空気と背中に感じるクラスメイトの視線が痛い。
完全に固まってしまった俺を見て、先生は「ここはややこしいからな。ゆっくりいくぞ。とりあえず前半だけ解いてみろ。後半の文章を見て__」と言いながら後ろをくるりと振り返る。
「お前らも同じところで間違ってるんだからな、分かってないだろ、よく聞いてノート取れよ。次の小テストで出るぞ」
後半のセリフを聞いて、なんとなく他人事としてぼけっとしていた他の生徒達があわててノートを取りだす。
・・・もしかして、だけど助け舟を出してくれたのか?
つまづきながらもなんとか問題を解くと、
「じゃあ文章の後半部分は白井」
と篠崎先生は別の生徒を指し、俺は早々に席に戻る事ができた。
講義後に配られた一度目の小テストは、先生が言った通り先程の例文と似た問題が出されたので、俺を含む生徒全員満点を取り追試は免れた。ほっと緩んだ空気の中、退室する生徒達と共に俺も出ようとすると、
「あーあ、ここ難しいからあともう一回くらい小テスト受けさせたかったんだけどなー」
と篠崎先生のつぶやきが聞こえ、思わず振り返る。苦笑した先生と目が合った。
やっぱりそうか。
礼を言うのもおかしいと、とっさに何も言えずまごついていると先生が近寄りぽん、と俺の肩を叩く。
「久々に芦屋が補修だったからな。難しいテストを用意して一人居残りさせたかったんだが」
思わず俺はしかめつらになり「げえ、冗談だろ」と本音を漏らした。あ、やばい。
「いいなその顔」
先生は肩に乗せていた手を俺のあごにかけクイと持ち上げる。そのままふ、と吐息があたるほど顔を近づけ低い声で囁いた。
「二人だけの授業ならいくらでも教えてやれるんだが」
「失礼します!! 」
無理やり身体を離した俺は、大急ぎで教室を飛び出した。
篠崎先生が教壇でテキストを広げ徐に口を開く。
「じゃあ今回はここにいる全員できていなかったifの仮定法過去完了と仮定法過去の違いをおさらいしていくぞ」
グラマーは専門用語の日本語からして意味不明で嫌いだ。「過去」なのに「仮定」で「完了」しているとか本当にわけがわからない。
先生が一つ例題を書き、講義を始めるので必死に黒板を見たりノートを取るなどしつつも頭の中では理解が追い付いていない。やばい。さっぱり分からない。心の中で冷や汗をかいていると
「じゃあ、今の解説のおさらいとして__、芦屋、この問題を解いてみろ」と突然当てられ、俺の心拍数は急上昇した。
恐る恐る黒板の前まで来たものの、問題文を見てもさっぱり分からない。先程の講義が理解できなかったのだから当たり前だ。人間、ど真剣に悩むと頭の中が真っ白になる。あああ、静まり返った教室の空気と背中に感じるクラスメイトの視線が痛い。
完全に固まってしまった俺を見て、先生は「ここはややこしいからな。ゆっくりいくぞ。とりあえず前半だけ解いてみろ。後半の文章を見て__」と言いながら後ろをくるりと振り返る。
「お前らも同じところで間違ってるんだからな、分かってないだろ、よく聞いてノート取れよ。次の小テストで出るぞ」
後半のセリフを聞いて、なんとなく他人事としてぼけっとしていた他の生徒達があわててノートを取りだす。
・・・もしかして、だけど助け舟を出してくれたのか?
つまづきながらもなんとか問題を解くと、
「じゃあ文章の後半部分は白井」
と篠崎先生は別の生徒を指し、俺は早々に席に戻る事ができた。
講義後に配られた一度目の小テストは、先生が言った通り先程の例文と似た問題が出されたので、俺を含む生徒全員満点を取り追試は免れた。ほっと緩んだ空気の中、退室する生徒達と共に俺も出ようとすると、
「あーあ、ここ難しいからあともう一回くらい小テスト受けさせたかったんだけどなー」
と篠崎先生のつぶやきが聞こえ、思わず振り返る。苦笑した先生と目が合った。
やっぱりそうか。
礼を言うのもおかしいと、とっさに何も言えずまごついていると先生が近寄りぽん、と俺の肩を叩く。
「久々に芦屋が補修だったからな。難しいテストを用意して一人居残りさせたかったんだが」
思わず俺はしかめつらになり「げえ、冗談だろ」と本音を漏らした。あ、やばい。
「いいなその顔」
先生は肩に乗せていた手を俺のあごにかけクイと持ち上げる。そのままふ、と吐息があたるほど顔を近づけ低い声で囁いた。
「二人だけの授業ならいくらでも教えてやれるんだが」
「失礼します!! 」
無理やり身体を離した俺は、大急ぎで教室を飛び出した。
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