12 / 33
第十一話
しおりを挟む
同じく心配そうに隣を見ていた秀平もタローの剣幕に押されて
「じゃあ、やるか」とのんびりとこちらを向いた。
頷いて、長袖シャツの袖口を軽くまくりあげる。当たり前だが俺もタローも制服のブレザーは脱いできていた。足を前後に開き軽く腰を落として、いいよ、と秀平に声を掛けた。両手は下げたままだ。
秀平はそんな俺を見て、ふ、と目を細める。いつも無表情だから分かりにくいんだが、なんか今一瞬笑ったような気がするが気のせいだよな。
「いくぞ」
と秀平が俺に向って両手でボールを高く投げる。俺は腰を低く落とすと同時に両手を上げた。おでこの前で両の手の平を上に向け、両手指で三角形の形を作りそのまま落ちて来るボールを受ける。と同時に曲げていた両腕と両足を伸ばしオーバートスで秀平に返した。彼は俺からのトスをなんなく、同じくオーバートスで返す。げぇ。高けえ。ボールが高いと受けるこっちは重いんだよなと思いながら再び同じように返す。
そうやって何度もパスを繰り返す度に、秀平が上手い事が分かって来た。まず無駄な動きがない。こちらが多少ミスして右や左にボールが曲がっても、反射神経がいいのかボールの軌道をあらかじめ読んでいるのか、最小限の動きで身体の正面でボールを受ける。体幹がしっかりとしているのか足腰と両腕をしっかり曲げ、腕の力だけではなく体全体で球を受け取り飛ばすから、軽くパスする体でとんでもなく高さが出る。それでいて俺がいる位置にきちんと球が返ってくるから、こちらはほとんど動かなくていい。
適当にミスってくらたらいいものを無駄に上手いからパスが繋がってばかりで全然終わる気がしない。久しぶりだから息が上がってくる。
いい加減やめてくんないかなと言う所で秀平がぽつりと声を上げた。
「アタック。やってみるか」
「え?」
俺からパスしたボールを両手で受け取ると、手招きしながらすたすたとコートまで先に歩いて行ってしまう。隣を見ると、タローは必死でパス練習していたから俺にだけ声をかけたらしい。仕方なく彼の後についていった。
「制服だから動きづらいんだけど・・・」
「大丈夫」
俺たちがコートに寄ると他の部員が楽しそうに場所を空けてくれた。だからゆるいんだって。あー、もうやるしかねぇな。
トスを出してくれるらしく、秀平がネットのそばに立つ。俺はコートの半分くらい後ろの位置に立った。やや背中を丸めて身体を前傾させ、右足を前に出す。
「いくぞ」
秀平がネットの端からネット中央に向けてオーバートスを上げた、と同時に俺はボールの落下点へ向かって左足、右足と大きく踏み出し、次に両足で地面を蹴った同時に両腕を後ろから前へ大きく振り上げ飛び上がる。右腕を引き、落ちて来る球の中心を右の手の平でとらえ、瞬間、思い切り右腕を振り下ろした。ボールはネット向こうの反対側のコートにドンと言う音と共に突き刺さった。
おー、と周りから感嘆の声が響く。タローがいつの間にか野次馬の中に入っていて口をあんぐり開けていた。
「うまいな」と秀平が相変わらず感情の読めない顔で近づいて来る。今日1日見ていて分かったが、彼は無表情でぼそぼそしゃべるというだけで、悪い奴ではなさそうだ。感情が読みづらいのが難点だが。
「ポジションどこだった?」
「・・・センター」
「リョータ、バレーやってたの!?」
興奮した様子で顔を真っ赤にしたタローが慌てて駆け寄り、俺と秀平の間に割って入った。
「うん。中学の時」
「なんで教えてくれなかったの!?」
「なんでって。聞かれた事なかったし」
元の世界でも、高校では自分がバレー経験者だとは誰にも言っていなかった。理由は単純で、バレー部の勧誘が嫌で黙っていた事と、それを抜きにしてもわざわざ言う機会がなかったからだ。バイトして学校以外の世界を知りたかったから、高校では帰宅部になると決めていた。また、男子は体育の授業でバレーがない事もあり誰にもばれなかった。
そんな事情は明かさず黙る俺をよそにタローはプリプリ怒っている。
「もう、言ってよ!一人初心者で恥かいたじゃん」
「言う暇もなかったし」
「僕にも心の準備ってもんがさあ!」
「どんな準備だよ」
「おい、そろそろいいか」
言い合いしている俺とタローに、秀平がのっそりと声をかける。彼の後ろを見れば、部員達がじゃんけんしてチーム分けをしている。これから練習試合のようだ。俺の視線をたどり事態に気付いたタローは、秀平を見上げると「もう時間だね、ありがと」と笑って礼を言い、次に奥に向って大きな声で「ありがとっしたー!!」と言いながら腰をおって深々とおじぎした。俺も慌てて礼をする。
おう、またなーと言う気のいい返事を聞きながら秀平に手を振り、俺とタローは体育館の外へ出た。
「じゃあ、やるか」とのんびりとこちらを向いた。
頷いて、長袖シャツの袖口を軽くまくりあげる。当たり前だが俺もタローも制服のブレザーは脱いできていた。足を前後に開き軽く腰を落として、いいよ、と秀平に声を掛けた。両手は下げたままだ。
秀平はそんな俺を見て、ふ、と目を細める。いつも無表情だから分かりにくいんだが、なんか今一瞬笑ったような気がするが気のせいだよな。
「いくぞ」
と秀平が俺に向って両手でボールを高く投げる。俺は腰を低く落とすと同時に両手を上げた。おでこの前で両の手の平を上に向け、両手指で三角形の形を作りそのまま落ちて来るボールを受ける。と同時に曲げていた両腕と両足を伸ばしオーバートスで秀平に返した。彼は俺からのトスをなんなく、同じくオーバートスで返す。げぇ。高けえ。ボールが高いと受けるこっちは重いんだよなと思いながら再び同じように返す。
そうやって何度もパスを繰り返す度に、秀平が上手い事が分かって来た。まず無駄な動きがない。こちらが多少ミスして右や左にボールが曲がっても、反射神経がいいのかボールの軌道をあらかじめ読んでいるのか、最小限の動きで身体の正面でボールを受ける。体幹がしっかりとしているのか足腰と両腕をしっかり曲げ、腕の力だけではなく体全体で球を受け取り飛ばすから、軽くパスする体でとんでもなく高さが出る。それでいて俺がいる位置にきちんと球が返ってくるから、こちらはほとんど動かなくていい。
適当にミスってくらたらいいものを無駄に上手いからパスが繋がってばかりで全然終わる気がしない。久しぶりだから息が上がってくる。
いい加減やめてくんないかなと言う所で秀平がぽつりと声を上げた。
「アタック。やってみるか」
「え?」
俺からパスしたボールを両手で受け取ると、手招きしながらすたすたとコートまで先に歩いて行ってしまう。隣を見ると、タローは必死でパス練習していたから俺にだけ声をかけたらしい。仕方なく彼の後についていった。
「制服だから動きづらいんだけど・・・」
「大丈夫」
俺たちがコートに寄ると他の部員が楽しそうに場所を空けてくれた。だからゆるいんだって。あー、もうやるしかねぇな。
トスを出してくれるらしく、秀平がネットのそばに立つ。俺はコートの半分くらい後ろの位置に立った。やや背中を丸めて身体を前傾させ、右足を前に出す。
「いくぞ」
秀平がネットの端からネット中央に向けてオーバートスを上げた、と同時に俺はボールの落下点へ向かって左足、右足と大きく踏み出し、次に両足で地面を蹴った同時に両腕を後ろから前へ大きく振り上げ飛び上がる。右腕を引き、落ちて来る球の中心を右の手の平でとらえ、瞬間、思い切り右腕を振り下ろした。ボールはネット向こうの反対側のコートにドンと言う音と共に突き刺さった。
おー、と周りから感嘆の声が響く。タローがいつの間にか野次馬の中に入っていて口をあんぐり開けていた。
「うまいな」と秀平が相変わらず感情の読めない顔で近づいて来る。今日1日見ていて分かったが、彼は無表情でぼそぼそしゃべるというだけで、悪い奴ではなさそうだ。感情が読みづらいのが難点だが。
「ポジションどこだった?」
「・・・センター」
「リョータ、バレーやってたの!?」
興奮した様子で顔を真っ赤にしたタローが慌てて駆け寄り、俺と秀平の間に割って入った。
「うん。中学の時」
「なんで教えてくれなかったの!?」
「なんでって。聞かれた事なかったし」
元の世界でも、高校では自分がバレー経験者だとは誰にも言っていなかった。理由は単純で、バレー部の勧誘が嫌で黙っていた事と、それを抜きにしてもわざわざ言う機会がなかったからだ。バイトして学校以外の世界を知りたかったから、高校では帰宅部になると決めていた。また、男子は体育の授業でバレーがない事もあり誰にもばれなかった。
そんな事情は明かさず黙る俺をよそにタローはプリプリ怒っている。
「もう、言ってよ!一人初心者で恥かいたじゃん」
「言う暇もなかったし」
「僕にも心の準備ってもんがさあ!」
「どんな準備だよ」
「おい、そろそろいいか」
言い合いしている俺とタローに、秀平がのっそりと声をかける。彼の後ろを見れば、部員達がじゃんけんしてチーム分けをしている。これから練習試合のようだ。俺の視線をたどり事態に気付いたタローは、秀平を見上げると「もう時間だね、ありがと」と笑って礼を言い、次に奥に向って大きな声で「ありがとっしたー!!」と言いながら腰をおって深々とおじぎした。俺も慌てて礼をする。
おう、またなーと言う気のいい返事を聞きながら秀平に手を振り、俺とタローは体育館の外へ出た。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
真冬の痛悔
白鳩 唯斗
BL
闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。
ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。
主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。
むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
推しを擁護したくて何が悪い!
人生1919回血迷った人
BL
所謂王道学園と呼ばれる東雲学園で風紀委員副委員長として活動している彩凪知晴には学園内に推しがいる。
その推しである鈴谷凛は我儘でぶりっ子な性格の悪いお坊ちゃんだという噂が流れており、実際の性格はともかく学園中の嫌われ者だ。
理不尽な悪意を受ける凛を知晴は陰ながら支えたいと思っており、バレないように後をつけたり知らない所で凛への悪意を排除していたりしてした。
そんな中、学園の人気者たちに何故か好かれる転校生が転入してきて学園は荒れに荒れる。ある日、転校生に嫉妬した生徒会長親衛隊員である生徒が転校生を呼び出して──────────。
「凛に危害を加えるやつは許さない。」
※王道学園モノですがBLかと言われるとL要素が少なすぎます。BLよりも王道学園の設定が好きなだけの腐った奴による小説です。
※簡潔にこの話を書くと嫌われからの総愛され系親衛隊隊長のことが推しとして大好きなクールビューティで寡黙な主人公が制裁現場を上手く推しを擁護して解決する話です。
転生令息の、のんびりまったりな日々
かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。
※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。
痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。
※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる