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「眠い!」
ドアを開けた北澤は、本当に眠そうだった。
「眠いなー、もう。お前よく休日に早起きできるな。ほら、入れ入れ」
パジャマ姿、ぼさぼさ頭の北澤は、のろのろと部屋へ歩いて行く。僕も後に続く。
彼はベッドに着くと、そのまま倒れこんだ。
「寝る。適当にやっといて」
そう言われても。僕は尋ねる。
「朝飯・・・ない? 食べてなくて」
北澤が顔を少しだけこちらに向ける。
「えー? 家にいるのに。食べてこいよ」
「食べるものなくってさ」
さすがに親と喧嘩して、とはこの歳では言えない。
「貧乏だねえ。・・・戸棚にパンあるよ」
僕は小さなキッチンへ行き、扉を開ける。
「悪いな。・・・、あ、くるみパンがある」
「それはだめ。食パンあるだろ」
「ああ。これね」
食パンの袋を開け、一枚取り出す。
北澤がふとんの間から右手をにゅっと出し、僕の後ろにある冷蔵庫を指し示した。
「マーガリンはそこ。コーヒーもあげよう」
「悪いな」
「親切だから。クーラーつけといて」
僕は食パンをトースターに入れ、冷蔵庫からアイスコーヒーのペットボトルとマーガリンを取り出し、エアコンのスイッチを入れた。
コップに入れたコーヒーに少しだけ牛乳を入れ、一気に飲み干す。
ふと、北澤も飲むだろうかと思った。
「北澤。・・・寝た? 」
ペットボトルとコップを持ってベッドに近付く。
北澤は体を壁側に向けたまま、ぴくりともしない。
寝たかな。
ベッドの近くにある丸テーブルにボトルとカップを置き、青色のクッションによいしょと座る。僕の指定席だ。
背中を壁にもたれかけながら、部屋をぐるりと見回す。
小さい、シンプルな部屋。全く飾り気がないのが清々しい。
黒いパイプベッドと、北澤。目を右に移す。シルバーの小さなコンポと、周りに積み上げられたCD。J-POP、フレンチポップス、アメリカンロック、映画音楽、なぜかモーツァルト。
苦笑する。あまりにもばらばらで。北澤はお気に入りの歌手と言うのがいない。音楽や歌ならあるけれど。だから傍目には選択に自己主張はないように見える。しかし北澤的には基準があるらしい。「美しいか否か」だそうだ。
他に目をやる。小さなTV。隅には高さが僕の腰くらいの、本棚がある。中には図書館のシールがついた本、外国のペーパーバック、英和/和英辞典、エアメールの束、そして、アルバム。
意外に北澤はよく本を読む。ほとんどが推理小説で、国内外問わずに読む。恋愛小説は「べたべたしているから」、現代文学は「堅苦しいから」、偉人伝は「他人の話を読んでもつまらないから」ほとんど読まない。意外に、と言ったのはその読書量の割には漢字の読み書きをよく間違えるからだ。本人は「読み仮名をふっていない方が悪い」と開き直っている。
僕は立ち上がり、本棚のアルバムを一冊取り出した。彼が今まで旅行した様々な国が写っている。ほとんど日本を出た事のない僕は、アルバムをよく見せてもらう。アメリカのベーグルショップのショーウィンドウ、ギリシャの白い壁の家とその前で寝そべる猫、オーストラリアの熱い日差しの中、サンタの格好で演奏するオーケストラ・・・。ページをめくる度に小旅行へと連れて行ってくれる。写真の中の北澤を見た。これ以上はないというぐらいの笑顔で現地の人々と写っている。旅行にはいつも一人で行くのに、いつのまにか友人を作ってくる。北澤らしい。
ベッド上の彼を見た。まだ眠っているようだ。
ドアを開けた北澤は、本当に眠そうだった。
「眠いなー、もう。お前よく休日に早起きできるな。ほら、入れ入れ」
パジャマ姿、ぼさぼさ頭の北澤は、のろのろと部屋へ歩いて行く。僕も後に続く。
彼はベッドに着くと、そのまま倒れこんだ。
「寝る。適当にやっといて」
そう言われても。僕は尋ねる。
「朝飯・・・ない? 食べてなくて」
北澤が顔を少しだけこちらに向ける。
「えー? 家にいるのに。食べてこいよ」
「食べるものなくってさ」
さすがに親と喧嘩して、とはこの歳では言えない。
「貧乏だねえ。・・・戸棚にパンあるよ」
僕は小さなキッチンへ行き、扉を開ける。
「悪いな。・・・、あ、くるみパンがある」
「それはだめ。食パンあるだろ」
「ああ。これね」
食パンの袋を開け、一枚取り出す。
北澤がふとんの間から右手をにゅっと出し、僕の後ろにある冷蔵庫を指し示した。
「マーガリンはそこ。コーヒーもあげよう」
「悪いな」
「親切だから。クーラーつけといて」
僕は食パンをトースターに入れ、冷蔵庫からアイスコーヒーのペットボトルとマーガリンを取り出し、エアコンのスイッチを入れた。
コップに入れたコーヒーに少しだけ牛乳を入れ、一気に飲み干す。
ふと、北澤も飲むだろうかと思った。
「北澤。・・・寝た? 」
ペットボトルとコップを持ってベッドに近付く。
北澤は体を壁側に向けたまま、ぴくりともしない。
寝たかな。
ベッドの近くにある丸テーブルにボトルとカップを置き、青色のクッションによいしょと座る。僕の指定席だ。
背中を壁にもたれかけながら、部屋をぐるりと見回す。
小さい、シンプルな部屋。全く飾り気がないのが清々しい。
黒いパイプベッドと、北澤。目を右に移す。シルバーの小さなコンポと、周りに積み上げられたCD。J-POP、フレンチポップス、アメリカンロック、映画音楽、なぜかモーツァルト。
苦笑する。あまりにもばらばらで。北澤はお気に入りの歌手と言うのがいない。音楽や歌ならあるけれど。だから傍目には選択に自己主張はないように見える。しかし北澤的には基準があるらしい。「美しいか否か」だそうだ。
他に目をやる。小さなTV。隅には高さが僕の腰くらいの、本棚がある。中には図書館のシールがついた本、外国のペーパーバック、英和/和英辞典、エアメールの束、そして、アルバム。
意外に北澤はよく本を読む。ほとんどが推理小説で、国内外問わずに読む。恋愛小説は「べたべたしているから」、現代文学は「堅苦しいから」、偉人伝は「他人の話を読んでもつまらないから」ほとんど読まない。意外に、と言ったのはその読書量の割には漢字の読み書きをよく間違えるからだ。本人は「読み仮名をふっていない方が悪い」と開き直っている。
僕は立ち上がり、本棚のアルバムを一冊取り出した。彼が今まで旅行した様々な国が写っている。ほとんど日本を出た事のない僕は、アルバムをよく見せてもらう。アメリカのベーグルショップのショーウィンドウ、ギリシャの白い壁の家とその前で寝そべる猫、オーストラリアの熱い日差しの中、サンタの格好で演奏するオーケストラ・・・。ページをめくる度に小旅行へと連れて行ってくれる。写真の中の北澤を見た。これ以上はないというぐらいの笑顔で現地の人々と写っている。旅行にはいつも一人で行くのに、いつのまにか友人を作ってくる。北澤らしい。
ベッド上の彼を見た。まだ眠っているようだ。
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