推しの一品

浅野新

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昔、山では怪異があったのだ、たしかに。__日本の山にいたモノ、今もひそめくモノ達の話を集めた『山怪』

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霊感ゼロ且つ性格も大変怖がりな筆者は心霊関連の映画・ドラマ・小説・漫画・ゲームは一切見ないしやりません。ですが、山での怪異談を集めた本『山怪』は、心霊ものも多少あるもののどちらかと言うともののけ話が中心だという事、全く知らないマタギと言う職業に対する興味もあり、興味深く読むことができました。

現在4作目まで出ている『山怪』シリーズを全て読んで思った事は、知的好奇心がくすぐられるという事です。

筆者の田中康弘氏がマタギ(大型獣(クマ、カモシカなど)を捕獲して生活している人の事)や林業など山の仕事をされている方を中心に、山で実際遭遇した不思議な話を聞きそれを本にまとめられたのですが、高齢の方が多く怪異話以外にも山伏やイタコがいた話や、当時は亡くなった人を土葬したり地域で火葬するなどの風習があった事も知る事ができます。

マタギですら現代の生活では知り合う事はまれであると思いますが、山伏やイタコ、拝み屋に至ると、現在にいないとは言いませんが、もうその地域に昔から住んでいる方しか存在を把握されていないのではないでしょうか。

現代日本で生きていると人生で交わる事のない職業の方の記述が多く、また火葬の風習(葬儀業者にして頂き専門の場所で全部お任せの形態ではなく一般の屋外で棺桶に火をつける、つまり家族や関係者だけではなく火葬は見たい人は皆見れる野外オープンな状態)は何百年前の話ではなく意外と最近までされている地域もあった事も驚きでした。土葬の風習もそうですが、それだけ死や遺体が身近だと火の玉であったり不可思議な事が多かった事も頷けます。狐やタヌキに化かされた事件が多かったのも当時自然が豊かで狐やタヌキが人々にとって身近な動物だったからでしょう。

本に記された数々の怪異談も大変興味深かったのですが、その背景にあった昔日本にあった風習や職業など『本当にあった(いた)のか』の連続で驚く事が多々あり、日本という国は狭く見えて深いな、と目から鱗が落ちる思いでした。怪異談は、良い意味でそれほど怖くはありません。そもそも貞子など人を怖がらせるための凝った映像と演出と脚本に慣れてしまっている現代人にとって、リアル話は意外と地味なのではないでしょうか。だからこそ本当にあったのだと信じられる別の怖さがありますが。

表紙絵はどれも大変おどろおどろしいですが、怪異談の中に日本の古い風習文化が垣間見える、それが本当に面白く怖がりの方にも大変お勧めする作品です。

ただ一つ強く感じた事は、不可思議な事は科学で解明されている現代ですが『意味理屈は分からないが行かない、さわらない、知らない事はそのままにしておいた方が良い事』は山にはまだあるのではないでしょうか。

度々体験談で出てくる『(なぜかは分からないが切ろうとすると事故者続出で)切ってはいけない木』『山歩き中(なぜかは分からないが)身の毛がよだつ場所』など意味が分からない話が多く出てきますが、それはそのままにして触らない方が良い事も、まだまだ現代、特に山にはあるのではないでしょうか。

山へのリスペクトを忘れない、という言い方をすると大変軽く聞こえてしまいますが、山は昨今のゆるキャンプや登山ブームのように昔より身近なものになりましたがあくまで畏敬の念を忘れてはいけない場所でもあり、人間が触ってはいけない事もあると思うのです。

蛇足ですが、この記事を書いている時になぜか一度も不調のなかったパソコンが原因不明で突然落ち、しばらく使えなくなりました。時間をかけてじっくり書きたかったものの背中がうすら寒くなった為見時間文章ですが紹介記事はここまでとさせていただきます。


『山怪』シリーズは現在4冊出ています。あまりの面白さに筆者は4冊すべて読みましたが、そんな時間はないと言う方にはシリーズ第一作がとっつきやすくて良いのではないでしょうか。

amazonの商品ページに飛びます。

山怪 田中康弘著

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山怪 弐

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中には幽霊の類だろうと言う話もありますが、やはり惹かれるのは不可思議なもののけであったり『切ったらいけない木』など説明がつかないモノですね。

山怪 参

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今年出たばかりの第四作『山怪 朱』。ここまで来るとさすがに似たような話が増えますが、それが逆に本当の話(=本当の話はフィクションほど派手ではない)である事を感じさせてくれます。

山怪 朱

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