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その後も数回僕は影として出動した。毎回あわやと言う所がありながら、体操で培った反射神経と運の良さで何とか切り抜ける事ができた。
ただ、毎回決まって囮の僕を追う真田刑事が気になっていた。本当に赤の男爵だと騙されているのか。それとも。
満月の美しい晩だった。
僕は全速力で走っていた。
何で。
道路脇の茂みを飛び越える。
何で。
道路の街灯が僕の姿を一瞬照らし出す。
何で。
「待てっ!! 」
真田刑事の声が遠くに聞こえる。
僕が影だと分かっていて。
何故僕を追う?
今回の仕事で僕は黒い衣装のままだった。前回の逃亡の際に赤のタキシードを破いてしまったのだ。マントが赤い為遠目にはわからず、少しの間なら警察の目をごまかせるだろう、と言う事で始めから黒の衣装でいく事になった。
果たして僕の後を追ってきた真田刑事達は途中で囮だと気付いたようだった。
すると刑事は他の警官達に赤の男爵を追うよう指示し、自分だけ僕を追いかけてきた。
そうして僕達二人は走り続けている。
「待て! 黒の男爵!! 」
え。
僕は柵を飛び越え、公園の中へ入った。そのまま右手の林へ入り、丘を目指して走る。
丘の上に出れば迎えのヘリコプターが来るはずだ。
それにしても。
走りながら真田刑事のセリフを反芻する。
今、
黒の男爵って言ったよな?
丘の上には、大きな一本の木と満月以外に何もなかった。
僕は大木へ近付き、辺りを見回してから木の陰へ隠れた。無線のスイッチを入れる。
「こちらブラック。予定地に着きました。回収を急いでください」
スイッチを切って息を整えていると真田刑事が必死に丘を駆け上がって来た。
「そこにいるのは分かっているぞ! 黒の男爵!! 」
黒の、男爵。
僕はゆっくり息を吸って、大木から姿を現した。月の光が背後から降り注ぐ。
刑事は僕の姿を認めると、ぎょっとしたように少し離れた所で立ち止まる。息をはずませながらもこちらの出方を伺っているようだ。
「__どうして僕を追うんです? 」
「逃げ場はないぞ、黒の男爵」
「面白い事を言いますね。分かっている筈です。僕は只の影。男爵でも何でもありません。あなたが追っている赤の男爵は、ほら」
僕は刑事の後方を指した。
「全くの反対側へ逃亡していますよ。お宝と共にね。でもこれから追いかけても無駄です。既に姿をくらましたでしょう」
丁度その時、刑事の携帯が鳴った。
「はい、真田です。__はい、・・・そうか・・・」
僕は軽く笑った。
「ね? そうでしょう? 」
刑事は携帯の電源を切り、胸ポケットに入れた。
「ああ、そのようだな」
「僕が影だと分かった時点で引き返すべきでしたね。まあ、それが僕の役割ですが」
ただ、毎回決まって囮の僕を追う真田刑事が気になっていた。本当に赤の男爵だと騙されているのか。それとも。
満月の美しい晩だった。
僕は全速力で走っていた。
何で。
道路脇の茂みを飛び越える。
何で。
道路の街灯が僕の姿を一瞬照らし出す。
何で。
「待てっ!! 」
真田刑事の声が遠くに聞こえる。
僕が影だと分かっていて。
何故僕を追う?
今回の仕事で僕は黒い衣装のままだった。前回の逃亡の際に赤のタキシードを破いてしまったのだ。マントが赤い為遠目にはわからず、少しの間なら警察の目をごまかせるだろう、と言う事で始めから黒の衣装でいく事になった。
果たして僕の後を追ってきた真田刑事達は途中で囮だと気付いたようだった。
すると刑事は他の警官達に赤の男爵を追うよう指示し、自分だけ僕を追いかけてきた。
そうして僕達二人は走り続けている。
「待て! 黒の男爵!! 」
え。
僕は柵を飛び越え、公園の中へ入った。そのまま右手の林へ入り、丘を目指して走る。
丘の上に出れば迎えのヘリコプターが来るはずだ。
それにしても。
走りながら真田刑事のセリフを反芻する。
今、
黒の男爵って言ったよな?
丘の上には、大きな一本の木と満月以外に何もなかった。
僕は大木へ近付き、辺りを見回してから木の陰へ隠れた。無線のスイッチを入れる。
「こちらブラック。予定地に着きました。回収を急いでください」
スイッチを切って息を整えていると真田刑事が必死に丘を駆け上がって来た。
「そこにいるのは分かっているぞ! 黒の男爵!! 」
黒の、男爵。
僕はゆっくり息を吸って、大木から姿を現した。月の光が背後から降り注ぐ。
刑事は僕の姿を認めると、ぎょっとしたように少し離れた所で立ち止まる。息をはずませながらもこちらの出方を伺っているようだ。
「__どうして僕を追うんです? 」
「逃げ場はないぞ、黒の男爵」
「面白い事を言いますね。分かっている筈です。僕は只の影。男爵でも何でもありません。あなたが追っている赤の男爵は、ほら」
僕は刑事の後方を指した。
「全くの反対側へ逃亡していますよ。お宝と共にね。でもこれから追いかけても無駄です。既に姿をくらましたでしょう」
丁度その時、刑事の携帯が鳴った。
「はい、真田です。__はい、・・・そうか・・・」
僕は軽く笑った。
「ね? そうでしょう? 」
刑事は携帯の電源を切り、胸ポケットに入れた。
「ああ、そのようだな」
「僕が影だと分かった時点で引き返すべきでしたね。まあ、それが僕の役割ですが」
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