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背中は一週間ほどで治ったが、男爵の次の仕事には少し間があった。
その間僕は自主的に毎日筋トレをし、長距離も走るようにした。美術館や博物館へもよく出かけるようになった。美術に全く疎くても、少しでも自分なりに物の持つ気を感じ取りたかった。毎日部活を理由に帰りの遅い僕を、両親が心配したので勉強もするはめになった。親は成績が下がるのではと思ったらしい。幸い地下室にはいつも誰か先生がいたので、分からない部分や宿題を教えてもらった。
とにかくできる事は何でもした。
そうして一ヶ月が過ぎ、学長が次の標的を告げた。二週間の準備期間は慌ただしく過ぎ、当日を迎えた。
車内で僕と北島先生は最後の打ち合わせをしていた。先生がカーナビを指差した。
「赤の男爵はこのT字路を西から東へ走ってくる。警察もそれに続くから、君はこの南側で立って、男爵が行った後、警察をひきつけて欲しい。南に下った先に廃屋のビルがあるから、その屋上まで出るんだ。そこで我々はヘリで君を回収する。いいね? 」
T字路で車は停まった。僕を降ろすとすぐに走り去る。
僕は発見されやすいように、わざと街灯の下に立った。
少しして通りから足音が聞こえてきた。
一人。
一瞬、赤の男爵が前の通りを走り去って行った。速い。
よし。
僕は身構えた。
やがて騒がしい複数の足音が聞こえ、真田刑事を筆頭に警官が数人躍り出た。
刑事はそのまま行き過ぎようとし、ふとこちらを見た。
目があった瞬間、僕はきびすを返して走り出した。
「あっちだ! 」
真田刑事が叫ぶ。僕は背後をちらりと見た。うまくいった。皆ついてきている。
何度か入り組んだ路地を通り抜け、全速力で駆ける。指示されたビルへまっしぐらに走った。
目標のビルに着き、辺りを見回す。
まだ刑事達は来ていないようだ。
僕はビルの外側にある非常階段を見上げた。階段と言うより鉄製の古びたはしごが、かろうじて壁にくっついている。
学長の言う通りこれは使えないな。
僕はこの時の為あらかじめ開けられていたビルのドアを開け、内側から鍵をかけた。階段を四階まで一気に駆け上がり、屋上に出る。
もう追いつけないだろう。
赤の男爵の扮装を脱いだ。闇に同化するような、真っ黒な衣装が現れる。
「いたぞ! あそこだ! 」
通りに目をやると、刑事達がこちらを指差し、走って来るのが見えた。真田刑事は錆付いたはしごを一瞥すると、
「君達はドアへ! 」
残りの警官をドアへやり、一人はしごに手をかけた。
ぎっ、ぎぎっ、
はしごが嫌な音を出し、不安定に揺れる。僕は取っ手の部分を見た。
コンクリートに打ち付けられた二本のボルトがゆるんで、今にも取れそうだ。
刑事はそれに気付く筈もなく、急いで上がって来ようとしている。
その間僕は自主的に毎日筋トレをし、長距離も走るようにした。美術館や博物館へもよく出かけるようになった。美術に全く疎くても、少しでも自分なりに物の持つ気を感じ取りたかった。毎日部活を理由に帰りの遅い僕を、両親が心配したので勉強もするはめになった。親は成績が下がるのではと思ったらしい。幸い地下室にはいつも誰か先生がいたので、分からない部分や宿題を教えてもらった。
とにかくできる事は何でもした。
そうして一ヶ月が過ぎ、学長が次の標的を告げた。二週間の準備期間は慌ただしく過ぎ、当日を迎えた。
車内で僕と北島先生は最後の打ち合わせをしていた。先生がカーナビを指差した。
「赤の男爵はこのT字路を西から東へ走ってくる。警察もそれに続くから、君はこの南側で立って、男爵が行った後、警察をひきつけて欲しい。南に下った先に廃屋のビルがあるから、その屋上まで出るんだ。そこで我々はヘリで君を回収する。いいね? 」
T字路で車は停まった。僕を降ろすとすぐに走り去る。
僕は発見されやすいように、わざと街灯の下に立った。
少しして通りから足音が聞こえてきた。
一人。
一瞬、赤の男爵が前の通りを走り去って行った。速い。
よし。
僕は身構えた。
やがて騒がしい複数の足音が聞こえ、真田刑事を筆頭に警官が数人躍り出た。
刑事はそのまま行き過ぎようとし、ふとこちらを見た。
目があった瞬間、僕はきびすを返して走り出した。
「あっちだ! 」
真田刑事が叫ぶ。僕は背後をちらりと見た。うまくいった。皆ついてきている。
何度か入り組んだ路地を通り抜け、全速力で駆ける。指示されたビルへまっしぐらに走った。
目標のビルに着き、辺りを見回す。
まだ刑事達は来ていないようだ。
僕はビルの外側にある非常階段を見上げた。階段と言うより鉄製の古びたはしごが、かろうじて壁にくっついている。
学長の言う通りこれは使えないな。
僕はこの時の為あらかじめ開けられていたビルのドアを開け、内側から鍵をかけた。階段を四階まで一気に駆け上がり、屋上に出る。
もう追いつけないだろう。
赤の男爵の扮装を脱いだ。闇に同化するような、真っ黒な衣装が現れる。
「いたぞ! あそこだ! 」
通りに目をやると、刑事達がこちらを指差し、走って来るのが見えた。真田刑事は錆付いたはしごを一瞥すると、
「君達はドアへ! 」
残りの警官をドアへやり、一人はしごに手をかけた。
ぎっ、ぎぎっ、
はしごが嫌な音を出し、不安定に揺れる。僕は取っ手の部分を見た。
コンクリートに打ち付けられた二本のボルトがゆるんで、今にも取れそうだ。
刑事はそれに気付く筈もなく、急いで上がって来ようとしている。
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