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翌朝、学校は赤の男爵の話題で持ちきりだった。今日一日どの先生も気味が悪いほど機嫌が良く、皆一斉に宿題を減らしたので、事情を知っている僕だけが、他の生徒が訝りやしないかとハラハラした。
休み時間になるとクラスメイト達はこぞって男爵の話をし、僕はそれを机に寝た体制で聞いていた。
田中が興奮した顔で新聞を持って近付いて来る。
「すごいよ! D市ってここの近くじゃないか! 前回といい、二度もうちの近くで男爵が現れたんだよ、見たかったよなあ。それにしても」
僕の頭を軽くこづく。
「何だよ、藤堂、お前誤って背中痛めたんだって? どおりで湿布臭いよ、親父じゃないんだからさ」
「悪かったな」
顔だけを上に向け田中を睨んだが、田中は思い切り無視して、うっとりと宙を見つめている。
「ほんと見たかった、かっこ良かっただろうなあ。お前も見習えよ」
「はは・・・」
かっこ悪い男爵ならここにいるよ、と言う言葉を僕はかろうじて飲み込んだ。
放課後地下室に行くと、上機嫌の先生達が迎えてくれた。学長が満面の笑みで言う。
「いやあ、上出来だよ、藤堂君! 昨日君がやった事を聞いた時は、胸がすく思いがしたよ。背中は大丈夫、ちょっとひねっただけだから、若いからすぐ治るよ」
化学の青山先生が煙玉を手に笑った。
「僕の発明品は役に立ったでしょう。これからもどんどん作りますよ。使ってくださいね」
「初めての仕事で、よくやったな。赤の男爵の影武者に相応しい」
北島先生の言葉に笑顔を返したが、少し引っかかった。
影、なんだよな。
「ありがとう」
声のした方を振り向くと、知らない間に赤の男爵が立っていた。音を立てずに近付くと、シルクハットのつばに左手をかけ、優雅にお辞儀した。
「お陰で助かりましたよ」
「あの、い、いえ」
僕は顔が赤くなるのを感じた。
やっぱり本物は違うな。
全身から自信と貫禄に満ち溢れているが、敢えてそれを見せ付けようとしない。
即席の男爵とは大違いだ。
僕はそっと微笑んだ。
影でいいじゃないか。
僕は今、自分ができる事をやればいいのだから。
休み時間になるとクラスメイト達はこぞって男爵の話をし、僕はそれを机に寝た体制で聞いていた。
田中が興奮した顔で新聞を持って近付いて来る。
「すごいよ! D市ってここの近くじゃないか! 前回といい、二度もうちの近くで男爵が現れたんだよ、見たかったよなあ。それにしても」
僕の頭を軽くこづく。
「何だよ、藤堂、お前誤って背中痛めたんだって? どおりで湿布臭いよ、親父じゃないんだからさ」
「悪かったな」
顔だけを上に向け田中を睨んだが、田中は思い切り無視して、うっとりと宙を見つめている。
「ほんと見たかった、かっこ良かっただろうなあ。お前も見習えよ」
「はは・・・」
かっこ悪い男爵ならここにいるよ、と言う言葉を僕はかろうじて飲み込んだ。
放課後地下室に行くと、上機嫌の先生達が迎えてくれた。学長が満面の笑みで言う。
「いやあ、上出来だよ、藤堂君! 昨日君がやった事を聞いた時は、胸がすく思いがしたよ。背中は大丈夫、ちょっとひねっただけだから、若いからすぐ治るよ」
化学の青山先生が煙玉を手に笑った。
「僕の発明品は役に立ったでしょう。これからもどんどん作りますよ。使ってくださいね」
「初めての仕事で、よくやったな。赤の男爵の影武者に相応しい」
北島先生の言葉に笑顔を返したが、少し引っかかった。
影、なんだよな。
「ありがとう」
声のした方を振り向くと、知らない間に赤の男爵が立っていた。音を立てずに近付くと、シルクハットのつばに左手をかけ、優雅にお辞儀した。
「お陰で助かりましたよ」
「あの、い、いえ」
僕は顔が赤くなるのを感じた。
やっぱり本物は違うな。
全身から自信と貫禄に満ち溢れているが、敢えてそれを見せ付けようとしない。
即席の男爵とは大違いだ。
僕はそっと微笑んだ。
影でいいじゃないか。
僕は今、自分ができる事をやればいいのだから。
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