16 / 25
15
しおりを挟む
止めようとしたその時、
「こっちだ! 」
男の声が聞こえた。
振り返ると警官達がこちらに向かって来ている。
「やべえ!! 」
コスプレ男が路地裏へ逃げ出す。
僕も慌てて駆け出した。
「いたぞ! 追え!! 」
背後で警官達の足音が横道へ逸れて行った。どうやらコスプレ男の方を追っていったようだ。
僕はほっとしつつも全速力で駆けた。
路地を幾つか走り抜け、街灯が壊れた薄暗い通りに出る。
もうすぐだ。
角を曲がろうとしたその時、前方から警官達が走って来た。五人はいる。
え。
振り返ると後ろからも数人がやって来る。
見破られていたのか!?
警官達が前後からじりじりと僕を包囲する。
前の警官達の中から、背広を着た若い男が息を切らしながら近付いてきた。
浅黒い、精悍な顔。
真田刑事だ。
「見損なうなよ、ここらへんは地元でね、脇道は子供の頃から知り尽くしてるんだ。男爵マニア野郎のおかげで時間を食ってしまったが、ここまでだったな、赤の男爵」
僕は一歩下がった。
刑事がさらに近付く。
もう一歩。
街灯が僕を照らし出す。
「何? お前・・・」
真田刑事が当惑した顔で僕を上から下まで見つめた。
「赤の男爵じゃ・・ない・・のか? 」
しまった!
僕は一瞬自分の黒いタキシード姿を見下ろした。
ずっと着ておくべきだったのに。
学長の言葉が蘇る。
__最近熱狂的なファンがいてね。赤の男爵の犯行現場に同じコスプレをして現れる人達がいるんだ。
__ファンだと思われたらカモフラージュの意味がなくなる。
__君は、あくまで赤の男爵だと信じさせなければいけない。
__赤の男爵だと。
何も言えず硬直している僕に、刑事が軽くため息をついた。
「・・・君、ファンの人だね? 全く、困るんだよなあ、この手が増えて。・・・ちょっと話を聞かせてもらうよ」
なんだ、という雰囲気が周囲に流れた。取り囲んだ警官達の輪が緩む。
いけない。
これでは全員が赤の男爵の追跡に回ってしまう。
何とか信じさせなければ。
僕が、
赤の男爵だと。
__どうする?
僕は背後の警官をちらっと見た。
__赤の男爵なら。
僕の真後ろには。
背の低い警官が、一人。
僕のすべき事は。
赤の男爵が笑っている。
__頼りにしてるよ。
すべき事は、
今やれる事だ。
__赤の男爵なら、どうする?
「こっちだ! 」
男の声が聞こえた。
振り返ると警官達がこちらに向かって来ている。
「やべえ!! 」
コスプレ男が路地裏へ逃げ出す。
僕も慌てて駆け出した。
「いたぞ! 追え!! 」
背後で警官達の足音が横道へ逸れて行った。どうやらコスプレ男の方を追っていったようだ。
僕はほっとしつつも全速力で駆けた。
路地を幾つか走り抜け、街灯が壊れた薄暗い通りに出る。
もうすぐだ。
角を曲がろうとしたその時、前方から警官達が走って来た。五人はいる。
え。
振り返ると後ろからも数人がやって来る。
見破られていたのか!?
警官達が前後からじりじりと僕を包囲する。
前の警官達の中から、背広を着た若い男が息を切らしながら近付いてきた。
浅黒い、精悍な顔。
真田刑事だ。
「見損なうなよ、ここらへんは地元でね、脇道は子供の頃から知り尽くしてるんだ。男爵マニア野郎のおかげで時間を食ってしまったが、ここまでだったな、赤の男爵」
僕は一歩下がった。
刑事がさらに近付く。
もう一歩。
街灯が僕を照らし出す。
「何? お前・・・」
真田刑事が当惑した顔で僕を上から下まで見つめた。
「赤の男爵じゃ・・ない・・のか? 」
しまった!
僕は一瞬自分の黒いタキシード姿を見下ろした。
ずっと着ておくべきだったのに。
学長の言葉が蘇る。
__最近熱狂的なファンがいてね。赤の男爵の犯行現場に同じコスプレをして現れる人達がいるんだ。
__ファンだと思われたらカモフラージュの意味がなくなる。
__君は、あくまで赤の男爵だと信じさせなければいけない。
__赤の男爵だと。
何も言えず硬直している僕に、刑事が軽くため息をついた。
「・・・君、ファンの人だね? 全く、困るんだよなあ、この手が増えて。・・・ちょっと話を聞かせてもらうよ」
なんだ、という雰囲気が周囲に流れた。取り囲んだ警官達の輪が緩む。
いけない。
これでは全員が赤の男爵の追跡に回ってしまう。
何とか信じさせなければ。
僕が、
赤の男爵だと。
__どうする?
僕は背後の警官をちらっと見た。
__赤の男爵なら。
僕の真後ろには。
背の低い警官が、一人。
僕のすべき事は。
赤の男爵が笑っている。
__頼りにしてるよ。
すべき事は、
今やれる事だ。
__赤の男爵なら、どうする?
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる