黒の男爵

浅野新

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止めようとしたその時、
「こっちだ! 」
 男の声が聞こえた。
振り返ると警官達がこちらに向かって来ている。
「やべえ!! 」
 コスプレ男が路地裏へ逃げ出す。
僕も慌てて駆け出した。
「いたぞ! 追え!! 」
 背後で警官達の足音が横道へ逸れて行った。どうやらコスプレ男の方を追っていったようだ。
 僕はほっとしつつも全速力で駆けた。
 路地を幾つか走り抜け、街灯が壊れた薄暗い通りに出る。
 もうすぐだ。
 角を曲がろうとしたその時、前方から警官達が走って来た。五人はいる。
え。
振り返ると後ろからも数人がやって来る。
 見破られていたのか!?
警官達が前後からじりじりと僕を包囲する。
前の警官達の中から、背広を着た若い男が息を切らしながら近付いてきた。
浅黒い、精悍な顔。

真田刑事だ。
「見損なうなよ、ここらへんは地元でね、脇道は子供の頃から知り尽くしてるんだ。男爵マニア野郎のおかげで時間を食ってしまったが、ここまでだったな、赤の男爵」
 僕は一歩下がった。
刑事がさらに近付く。
もう一歩。
街灯が僕を照らし出す。 
「何? お前・・・」
 真田刑事が当惑した顔で僕を上から下まで見つめた。
「赤の男爵じゃ・・ない・・のか? 」
しまった! 
僕は一瞬自分の黒いタキシード姿を見下ろした。
ずっと着ておくべきだったのに。
学長の言葉が蘇る。
__最近熱狂的なファンがいてね。赤の男爵の犯行現場に同じコスプレをして現れる人達がいるんだ。
__ファンだと思われたらカモフラージュの意味がなくなる。
__君は、あくまで赤の男爵だと信じさせなければいけない。
__赤の男爵だと。

何も言えず硬直している僕に、刑事が軽くため息をついた。
「・・・君、ファンの人だね? 全く、困るんだよなあ、この手が増えて。・・・ちょっと話を聞かせてもらうよ」
 なんだ、という雰囲気が周囲に流れた。取り囲んだ警官達の輪が緩む。
いけない。
これでは全員が赤の男爵の追跡に回ってしまう。
何とか信じさせなければ。
僕が、
赤の男爵だと。

__どうする?
僕は背後の警官をちらっと見た。
__赤の男爵なら。
僕の真後ろには。
背の低い警官が、一人。
僕のすべき事は。
赤の男爵が笑っている。
__頼りにしてるよ。
すべき事は、
今やれる事だ。
__赤の男爵なら、どうする?
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