黒の男爵

浅野新

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僕は信じられないものを見ていた。
地下室に所狭しと置かれたたくさんのTVディスプレイ、コンピューター、無線機、机の上に広げられた様々な建物の設計図やミニチュア模型、宝石や美術品の写真の数々。
 部屋には学長を始め教頭、学園の先生達数名。担任の北島先生や体育の顧問もいる。
そして、部屋の中央には。

赤の男爵が。

 学長に連れられ、隠し扉から地下に降りた僕は地下室の秘密基地を見せられ、そこにいた先生達と、赤の男爵を紹介された。
学長は僕と赤の男爵を交互に見て、言う。「いや、藤堂君。びっくりしたろうがね。まあ、座って。話を聞いて欲しいんだ」
あまりの衝撃に言葉も出ない僕は、勧められた椅子に素直に座る他なかった。目の前のテーブルにはF市美術館に似た模型がある。
学長も向かいの席に座り、他の先生達もそれにならった。男爵だけ学長の横に立っている。
学長が続けた。
「我々は〝赤の怪盗団〟と言ってね、この学園ができた時から、つまり十年前からこの地下室を拠点に活動しているんだ。メンバーは僕や教頭先生、今、部活動等で全員集まってはいないが、この学園の先生方全員、それと__」
右横を見る。
「赤の男爵」
 男爵が一礼した。つられて僕も思わず会釈してしまう。
「教育者が泥棒、と思われるだろうがね。我々が何故このような事をしているかと言うと__」
 学長は胸ポケットから小さな木箱を取り出し、こちらに差し出した。
「例えば、これだ。開けて見てくれるかね」
 受け取って、中を開けてみた。
 箱の中には大きな緑色の宝石がついた、指輪が入っていた。
エメラルドだろうか。指輪の細工が古めかしく、アンティークのように見える。だけど、これはどこかで__。
 あっと僕は声をあげた。
「こ、これ、F市美術館の__」
 学長が頷く。
「そう。一週間前、F市美術館から赤の男爵が盗み出した指輪だよ。ところで、それをどう思うね? 」
「どうって・・・」
 僕は指輪をもう一度見た。大きくて古めかしい、只の指輪だ。
 だけど。
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