そうして、誰かの一冊に。

浅野新

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 友人から癌だと告げられてから間もなかったある時、かなり個人的な話、お互いの恋愛遍歴や恋人の話をした事があった。その時に彼が最近別れた恋人の話をした。彼が癌だと告げた時、恋人はあれこれと世話をやいた。癌について徹底的に調べ、これで癌が治ったと言う食事療法を始め様々な本や、無農薬野菜がいいらしいと大量の野菜や玄米を送ってきた事もある。週末は泊り込んで抗がん剤の副作用で辛い彼を看病もした。励ましや助言、安否確認のメールや電話も頻繁にあった。

「彼女はいい人だし実際献身的に尽くしてくれたけれど辛かった」
と友人はつぶやいた。恋人の自分に対する看病が、患者本人のためにする看病ではなく、彼女が安心したいためにする看病だというのが透けて見えたのだと。彼は度々そこまでしなくていいと伝えても、「あなたのためだから」と彼女は譲らなかったと言う。「あれは僕のためじゃなく彼女のためだった」とさびしそうに彼は言った。

 それを聞いた時僕は彼の気持ちに同調し、彼女のような事はしない、自分がする筈がないと心の中でひそかに思っていたのに。
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