17 / 18
16
しおりを挟む
ピーターが僕を辛そうに見ている。
「上の動揺は隠していてもやがて下にまで伝染する。モーリスの件がいい例だ。例の、君の担当だった図書館員の初老の男性だ。__彼も君に疑問を持ち始め、勝手に独自の判断で動き出した。・・だから消された。君に罠をしかけ、規則を破らせようとしたらしいな。・・・彼は君の長年の担当だったのにな・・・、いや、だからか・・・」
彼の後半の声が、暗く沈んだ。
ふいにニナが、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。
「私は賛同していたのよ。完璧な人間を作る、素晴らしい実験だって。なんとしても成功させたいって。それなのに、失敗する事が目的なんて! こんな、こんな実験なんてひ、ひどすぎるわ。いいえ、計画自体が元々誤りだったのよ。あ、あなたを犠牲になんかさせないわ」
ピーターも頷く。
「サクヤ、君には生き残って欲しい。その為には、今の事は何も聞かなかった顔をして、39を読み続けるんだ。実験が公開されているのは表向きの理由だ。今まで通りしていれば、政府も君に手を出せない。実験自体も将来なくなるかもしれない」
僕は二人を見つめた。
悲痛な顔。
ピーター。
ニナ。
二人に尋ねる。
「・・・一つ聞いていい? 」
おとうさん。
おかあさん。
「ピーター達は大丈夫なの」
秘密を話してしまって。
二人の顔が一瞬青くなった。しかし、すぐに平静に戻り、ピーターが言った。
少し声が震えている。
「・・・大丈夫だろう。今の話が聞かれていなければ。・・・ただ、政府は親子の情を嫌う。正確に実験ができなくなるからとな。だから一家でどこかに出かけたり、一緒に行動する事は歓迎されない。特に子供が成人してからは。・・・僕達は親の任を解かれるだろう」
ニナのすすり泣く声が大きくなった。
「・・・そう」
39の為に集められた家族。
39の為に、別れる。
「ニナ、ピーター」
僕は二人を交互に見た。ゆっくりと。
「今日聞いた事は、絶対誰にも言わないから。だから、二人とも」
元気で。
「サクヤ!! 」
最後の言葉を言い終わらないうちに、ニナが僕に抱きついた。
「愛している。愛してるわ!! 」
愛してるのよ。
愛してるのに。
彼女のくぐもった叫び声が、僕の胸に響く。
一瞬ためらったが、僕も彼女をそっと抱きしめた。
微かに甘い香りがする。
今までこんな風に抱きしめてもらった事はなかった。
あいしていると言われた事も。
「最後に、聞いておきたい事があるんだ」
ニナが落ち着き、僕から離れるのを待ってピーターが言った。
「サクヤ、君はどうして・・・、いや」
そこで彼は珍しく躊躇した。
「いや、今のは、聞かなかった事にしてくれ」
そうして僕の両肩にしっかりと手を置いた。
「サクヤ、絶対負けるなよ。意地でも39を読み通すんだ。ずっと応援しているから。僕も、ニナも」
「うん。僕は大丈夫だから。二人で幸せになってね」
すると、ピーターの目から涙がこぼれおちた。僕が見た、最初で最後の涙だった。
彼は僕を強く抱きしめ、絶叫した。
「すまない・・・! サクヤ、すまない・・・!! 」
僕は頷きながらピーターを抱きしめた。自然に涙が溢れてくる。
二ナは顔をくしゃくしゃにしながら、もたれかかるようにして僕達の肩を撫でさする。
ふと。
かつて読んだ39の中の、セリフが思い出された。
「場所は遠く離れていても、精神的に絶対離れられない。それが家族なの。だから、安心して行ってらっしゃい」
安心して、行ってらっしゃい。
さよなら。
ニナ。
ピーター。
穏やかな湖を前に、僕達三人は一つの固まりとなって、ただ、泣いていた。
「上の動揺は隠していてもやがて下にまで伝染する。モーリスの件がいい例だ。例の、君の担当だった図書館員の初老の男性だ。__彼も君に疑問を持ち始め、勝手に独自の判断で動き出した。・・だから消された。君に罠をしかけ、規則を破らせようとしたらしいな。・・・彼は君の長年の担当だったのにな・・・、いや、だからか・・・」
彼の後半の声が、暗く沈んだ。
ふいにニナが、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。
「私は賛同していたのよ。完璧な人間を作る、素晴らしい実験だって。なんとしても成功させたいって。それなのに、失敗する事が目的なんて! こんな、こんな実験なんてひ、ひどすぎるわ。いいえ、計画自体が元々誤りだったのよ。あ、あなたを犠牲になんかさせないわ」
ピーターも頷く。
「サクヤ、君には生き残って欲しい。その為には、今の事は何も聞かなかった顔をして、39を読み続けるんだ。実験が公開されているのは表向きの理由だ。今まで通りしていれば、政府も君に手を出せない。実験自体も将来なくなるかもしれない」
僕は二人を見つめた。
悲痛な顔。
ピーター。
ニナ。
二人に尋ねる。
「・・・一つ聞いていい? 」
おとうさん。
おかあさん。
「ピーター達は大丈夫なの」
秘密を話してしまって。
二人の顔が一瞬青くなった。しかし、すぐに平静に戻り、ピーターが言った。
少し声が震えている。
「・・・大丈夫だろう。今の話が聞かれていなければ。・・・ただ、政府は親子の情を嫌う。正確に実験ができなくなるからとな。だから一家でどこかに出かけたり、一緒に行動する事は歓迎されない。特に子供が成人してからは。・・・僕達は親の任を解かれるだろう」
ニナのすすり泣く声が大きくなった。
「・・・そう」
39の為に集められた家族。
39の為に、別れる。
「ニナ、ピーター」
僕は二人を交互に見た。ゆっくりと。
「今日聞いた事は、絶対誰にも言わないから。だから、二人とも」
元気で。
「サクヤ!! 」
最後の言葉を言い終わらないうちに、ニナが僕に抱きついた。
「愛している。愛してるわ!! 」
愛してるのよ。
愛してるのに。
彼女のくぐもった叫び声が、僕の胸に響く。
一瞬ためらったが、僕も彼女をそっと抱きしめた。
微かに甘い香りがする。
今までこんな風に抱きしめてもらった事はなかった。
あいしていると言われた事も。
「最後に、聞いておきたい事があるんだ」
ニナが落ち着き、僕から離れるのを待ってピーターが言った。
「サクヤ、君はどうして・・・、いや」
そこで彼は珍しく躊躇した。
「いや、今のは、聞かなかった事にしてくれ」
そうして僕の両肩にしっかりと手を置いた。
「サクヤ、絶対負けるなよ。意地でも39を読み通すんだ。ずっと応援しているから。僕も、ニナも」
「うん。僕は大丈夫だから。二人で幸せになってね」
すると、ピーターの目から涙がこぼれおちた。僕が見た、最初で最後の涙だった。
彼は僕を強く抱きしめ、絶叫した。
「すまない・・・! サクヤ、すまない・・・!! 」
僕は頷きながらピーターを抱きしめた。自然に涙が溢れてくる。
二ナは顔をくしゃくしゃにしながら、もたれかかるようにして僕達の肩を撫でさする。
ふと。
かつて読んだ39の中の、セリフが思い出された。
「場所は遠く離れていても、精神的に絶対離れられない。それが家族なの。だから、安心して行ってらっしゃい」
安心して、行ってらっしゃい。
さよなら。
ニナ。
ピーター。
穏やかな湖を前に、僕達三人は一つの固まりとなって、ただ、泣いていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
隻眼の貴公子
杉原
ファンタジー
ダメなやつは何をやってもダメ……そんな言葉を体現するかのように家族からは冷遇され、社交界でも馬鹿にされ続ける偉大なる4大家門、サファイア家の末っ子、ライアスはある日大きな事故に遭い、性格が180度変わってしまう……。
がんばれ宮廷楽師! ~ラヴェルさんの場合~
やみなべ
ファンタジー
シレジア国の宮廷楽師としての日々を過ごす元吟遊詩人のラヴェルさんよんじゅっさい。
若かりし頃は、頼りない、情けない、弱っちいと、ヒーローという言葉とは縁遠い人物であるも今はシレジア国のクレイル王から絶大な信頼を寄せる側近となっていた。
そんな頼り?となる彼に、王からある仕事を依頼された。
その時はまたいつもの戯れともいうべき悪い癖が出たのかと思って蓋を開けてみれば……
国どころか世界そのものが破滅になりかねないピンチを救えという、一介の宮廷楽師に依頼するようなものでなかった。
様々な理由で断る選択肢がなかったラヴェルさんは泣く泣くこの依頼を引き受ける事となる。
果たしてラヴェルさんは無事に依頼を遂行して世界を救う英雄となれるのか、はたまた……
※ このお話は『がんばれ吟遊詩人! ~ラヴェル君の場合~』と『いつかサクラの木の下で…… -乙女ゲームお花畑ヒロインざまぁ劇の裏側、ハッピーエンドに隠されたバッドエンドの物語-』とのクロスオーバー作品です。
時間軸としては『いつサク』の最終話から数日後で、エクレアの前世の知人が自分を題材にした本を出版した事を知り、抗議するため出向いた……っという経緯であり、『ラヴェル君』の本編から約20年経過。
向こうの本編にはないあるエピソードを経由されたパラレルの世界となってますが、世界観と登場人物は『ラヴェル君』の世界とほぼ同じなので、もし彼等の活躍をもっと知りたいならぜひとも本家も読んでやってくださいまし。
URL
http://blue.zero.jp/zbf34605/bard/bardf.html
ちなみにラヴェル君の作者曰く、このお話でのラヴェルさんとお兄ちゃんの扱いは全く問題ないとか……
(言い換えればラヴェル君は本家でもこんな扱われ方なのである……_(:3 」∠)_)
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
魔法使いと、猫耳少女
板倉恭司
ファンタジー
デビッドは、自身にかけられた呪いを解くため旅をしている。ある日、彼は山奥に住むサリアンという魔法使いを訪ねるが、途中で出会った村人たちの様子はおかしかった。やがて、デビッドは村人たちとサリアンとの争いに巻き込まれていく──
※この作品は、『帰ってきたウルトラマン』のとあるエピソードへのオマージュです。わかる人が、ニヤリとしてくれたら嬉しいです。
問い・その極悪令嬢は本当に有罪だったのか。
風和ふわ
ファンタジー
三日前、とある女子生徒が通称「極悪令嬢」のアース・クリスタに毒殺されようとした。
噂によると、極悪令嬢アースはその女生徒の美貌と才能を妬んで毒殺を企んだらしい。
そこで、極悪令嬢を退学させるか否か、生徒会で決定することになった。
生徒会のほぼ全員が極悪令嬢の有罪を疑わなかった。しかし──
「ちょっといいかな。これらの証拠にはどれも矛盾があるように見えるんだけど」
一人だけ。生徒会長のウラヌスだけが、そう主張した。
そこで生徒会は改めて証拠を見直し、今回の毒殺事件についてウラヌスを中心として話し合っていく──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる