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プロローグ
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どれほど忙しくても、月に一度は図書館へ行く事にしている。
午後六時。会社帰りに図書館へ寄った。この時間帯はいつも利用者が少ない。
がらんとした空間に一歩足を踏み入れた。
ソファにくつろいで新聞を読んでいるサラリーマンや、ファッション雑誌を立ち読みしている女性を横目で見ながら、まっすぐカウンターに向かう。
「ハイ、サクヤ」
こちらに気付いて、顔見知りの初老の男性スタッフが奥から出て来た。いつものようににこにこしながら歩いて来ると、僕の正面でぴたりと止まった。背筋を伸ばして手を前で組み、次の言葉を待っている。
めっきり増えた彼の顔の皺を見ながら、今まで彼に何十回言ったであろうこのセリフを、今日も又、言った。
「サーティーナインを読みたいんですが」
彼は笑みを浮かべたまま頷き、奥にある書庫室へ行くと、一冊の本を抱えてすぐに戻ってきた。
「どうぞ」
重そうに本を差し出す。
A4ぐらいの大きさ。
「どうも」
赤ワイン色の布表紙。
国語辞典を四冊重ねたぐらいの厚さのある本を受け取る。ずしりと重たい。
受け取る時、表紙をちらりと見た。タイトルは金色の糸で刺繍されている。
39
僕は、この本を二十年以上読み続けている。
午後六時。会社帰りに図書館へ寄った。この時間帯はいつも利用者が少ない。
がらんとした空間に一歩足を踏み入れた。
ソファにくつろいで新聞を読んでいるサラリーマンや、ファッション雑誌を立ち読みしている女性を横目で見ながら、まっすぐカウンターに向かう。
「ハイ、サクヤ」
こちらに気付いて、顔見知りの初老の男性スタッフが奥から出て来た。いつものようににこにこしながら歩いて来ると、僕の正面でぴたりと止まった。背筋を伸ばして手を前で組み、次の言葉を待っている。
めっきり増えた彼の顔の皺を見ながら、今まで彼に何十回言ったであろうこのセリフを、今日も又、言った。
「サーティーナインを読みたいんですが」
彼は笑みを浮かべたまま頷き、奥にある書庫室へ行くと、一冊の本を抱えてすぐに戻ってきた。
「どうぞ」
重そうに本を差し出す。
A4ぐらいの大きさ。
「どうも」
赤ワイン色の布表紙。
国語辞典を四冊重ねたぐらいの厚さのある本を受け取る。ずしりと重たい。
受け取る時、表紙をちらりと見た。タイトルは金色の糸で刺繍されている。
39
僕は、この本を二十年以上読み続けている。
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