【アルファポリス恋愛小説大賞奨励賞いただきました】三人

浅野新

文字の大きさ
上 下
1 / 15
プロローグ

プロローグ:恋愛とは、たった一人に夢中になる狂気だ。

しおりを挟む
「明日は雪みたいね」

 重く立ち込めたぶあつい灰色の雲で覆われた空に、目線を下げれば街路樹が風で揺れている。ぴゅーと言う細い音が時々聞こえた。
 窓から外を眺める僕に、さくらさんは聖司君、はい、と紅茶の入ったマグカップを差し出した。
「少しだけど。温まると思うわ」
 ありがとう、と一口飲む。体を巡る液体と、触れた肩と肩から伝わる彼女の体温が、僕をじんわりと温めてゆく。
ゆっくり紅茶を飲みながら、彼女といた今日と言う日の、余韻を全身で感じ取る。決して忘れる事がないように。今日と言う日もいつもと同じようでいて一つとして同じ事がなく大切な一日だから。たとえこの閉じられた世界が変わらないように見えても。

 しばらくして僕はダウンジャケットを羽織った。

「じゃあ、また」
「うん」
 さくらさんが微笑む。
 僕は玄関を出て、彼女に笑い返した。ゆっくりと閉じられるドアを見ながら、明日も彼女が、今日と同じように笑っていて欲しい、と思う。
 いつでも。
 誰と過ごしている時でも。

 例えそれが、別の恋人であろうと。

 明日は曜(よう)がここを訪れるだろう。

 さくらさんには恋人が二人いる。
 僕と、曜が。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幼馴染はファイターパイロット(アルファ版)

浅葱
恋愛
同じ日に同じ産院で生まれたお隣同士の、西條優香と柘植翔太。優香が幼い頃、翔太に言った「戦闘機パイロットになったらお嫁さんにして」の一言から始まった夢を叶えるため、医者を目指す彼女と戦闘機パイロットを目指す未来の航空自衛隊員の恋のお話です。 ※小説家になろう、で更新中の作品をアルファ版に一部改変を加えています。 宜しければ、なろう版の作品もお読み頂ければ幸いです。(なろう版の方が先行していますのでネタバレについてはご自身で管理の程、お願い致します。) 当面、1話づつ定時にアップしていく予定です。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

逢いたくて逢えない先に...

詩織
恋愛
逢いたくて逢えない。 遠距離恋愛は覚悟してたけど、やっぱり寂しい。 そこ先に待ってたものは…

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

処理中です...