一夜明けたら性生活が一変してた

貴林

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十四突き目 仲間

人それぞれに

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涼介が出て行って、静まり返ってしまう店内。
カウンターの席に腰を下ろす一城。
「まさか、あいつ。まだ、あの事を?」
「あの事?」
恵が一城の言葉に首を傾げている。
当時のことを知っている一城とまさる、そして蓮実は、涼介が闇討ちにあった時のことを思うと涼介が組を抜けられないでいるのが、わかるような気がしていた。
一人取り残される恵も、これ以上、詮索してはいけない気がしていた。
ソファで一人、皆の会話を聞いていた琴音が立ち上がると、恵に近づくとそっと肩に手を置いた。
「恵さん、私たちもそろそろ帰りましょう」
手に置かれた琴音の手に、恵も手を重ねている。
「そうだね、そうしようか」
立ち上がる恵を気遣って、一城が声を掛ける。
「恵、明日もゆっくり休め。琴音もな」
「はい、ありがとうございます。すみません、いつも。一城さん」
「代わりはいるから、気にするな。良くなったら、バリバリ働いてもらうからな」
蓮実もいつしか、一城の側に立っていた。
「そうよ、無茶してもいいことなんかないんだからね。二人の仕事ぶり、お客様から好評なんだからね。大事な戦力なんですから、まずは体力つけて元気になること」
「はい」
蓮実は、何か思い出して鞄の中を探り始める。
「恵ちゃん、ちょっと待って」
「はあ・・・」
鞄からキーケースらしきものを取り出すと、恵に差し出してきた。
「はい、これ。部屋の鍵よ」
「え?部屋の鍵?ですか?」
「ええ、そうよ。あんなことの後なんだから、しばらくは、駅前のマンションで寝泊まりしなさい」
「え?マンション?」
「とはいっても、私が以前使ってた部屋なんだけど今は賃貸にしてるの」
「え、でも・・・」
恵の手を取ると、その手の平に鍵を持たせる蓮実。
「社宅だと思って、気にせず使って」
「はあ・・・」
「生活に必要そうな家具類は大体揃ってるから、手ぶらで大丈夫。気にせず使って。そうね、必要なものといえば、着替えくらいかな?」
「いや、しかし・・・」
琴音も、流石にこれだけしてもらう理由が見つからなかった。
「蓮実さん、ここまでしてもらう理由がわかりません。そんなに甘えていいのでしょうか?」
一城が、つまみのピーナッツを口に頬張りながら琴音に笑いかける。
「いいんじゃないのか?蓮実がそうしたいって、言ってるんだから」
「いや、でも」
「さっきの話、聞いてたんだろ?」
「さっきの話?・・・あ」
おもいやり
「そうですけど・・・でも、なんで?」
蓮実は、琴音の手を取った。
「琴音ちゃん」
「あ、はい」
「聞いて、琴音ちゃん。もう、私は嫌なの。身内で、不幸な出来事は起きてほしくないの」
「身内?」
「そうよ、一緒に働いてるんだから、身内みたいなものでしょ?違うかな?私はそう思ってるよ」
「蓮実さん・・・」
「琴音ちゃんと恵くんは、私にとっては大事な家族だと思ってるのよ」
蓮実は言うと、ニコリと微笑んでみせた。
「な、なんで・・・ですか」
琴音の頬を涙が流れ落ちている。
「ん?」
「どうして、こんなに皆さん優しくしてくれるんですか?なんで?どうして?なんで、ここまで?」
私は不幸だ。幸せになんて、なれない。私は変わった子。周りもそうした目で琴音を見ていた。
琴音は、涙が止まらなかった。
拭っても拭っても溢れ出ていた。
「琴音ちゃん、ハッキリ言うわね」
「え?」
「私、父のおかげで幸せ過ぎなのかもしれない」
「蓮実さん?」
「琴音ちゃんのこれまでの苦労を思えば、私なんか、社長の娘って事で、チヤホヤされて何不自由なく恵まれた生活をしてきたの。でも、そんな自分が嫌だったの。いつまでも、父に甘えているのがね。自分も何かしなくちゃって思ったの」
一城も立ち上がると蓮実の横に立って琴音を見る。
「蓮実な、俺の秘書ってことで、身の回りの世話してくれてるけど、これでも自分の従業員を抱える経営者なんだよ」
「え?経営者?蓮実さんが社長?」
琴音が目を丸くしている横で、恵も驚いている。
「え?そうなんですか?知らなかった」
「社長といっても、最初の出資は父だったのよ。でも、会社を立ち上げてから、年商も増えたから、父からの出資金は既に完済済で、今は援助は受けないことにしてるの」
「わあ、蓮実さんて、ただのお金持ちのお嬢様だと思ってた」
琴音がポツリと言った。
「あら、今でもそうよ。琴音ちゃん。父郷田の娘であるうちは、お嬢様に違いはないわ」
「あ、いや。ごめんなさい。蓮実さん、私ったらつい悪い癖で・・・」
慌てて蓮実に対し、深々と頭を下げる琴音。
「琴音ちゃんの言う通りなのよ。郷田の娘として生まれた以上、お嬢様のレッテルはいつまでも外せないのが現実。だったら、それを利用しちゃえばいいんだって思ったの」
「そういうことだ。利用できるものがあるなら、それを利用すればいいんだよ。自分の生活を豊かにする為ならね」
カウンターの向こう側で、コップを磨くまさるも身を乗り出してきた。
「そうよ、私だって蓮実の親父の力利用して、この店と金融業営んでるんだから、皆がどこかで甘えてるのよ。決して悪いことではないと思うわよ」
まさるの隣でとおるが洗い物をしていた手を止める。
「琴音さん、甘えちゃえばいいんですよ。私もママに甘えて漬け込み酒、お店に出させてもらってるけど、出来たらこれを商品化したいと思ってるの」
「商品化ですか?それって商売でも始めるってことですか?」
恵は、とおるに問いかけた。
「あ、うん、出来たらなんだけど、果実を使った飲み物を提供するお店を出したいと考えてるの」
恵も琴音も驚いた。自分たちの知らない所で、皆が夢に向かって歩いていた。


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