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十四突き目 仲間

癒し

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バーまさる

カラカラン
店の入り口のドアが開く。
「いらっしゃ・・あら?恵ちゃん?もう大丈夫なの?」
まさるの反応に一城が入り口を見ると琴音を支えるように恵が入ってきた。
「はい、あ、ご迷惑をお掛けしました。もう、大丈夫です」
恵が深くお辞儀をする。
一城は、席を立ち上がると少し慌てたように恵に歩み寄る。
「恵、もういいのか?」
「もう大丈夫です。それよりすみません、一城さん。結局また面倒をおかけしてしまって」
「まったくだ。初めから俺を頼ってくれれば・・・」
「ほんと、すみませんでした」
「いいんだよ、もう。無事で良かった」
お辞儀をする恵の肩をポンと叩く一城は、琴音を支えソファに腰掛けさせるとその傍に腰を下ろした。
「琴音、平気か?」
「ええ、なんとか・・・それより、助けて頂いてありがとうございました」
申し訳ない気持ちと恥ずかしい気持ちで下を向いてしまうと更に深々とお辞儀をする琴音だった。
それを見た一城は、琴音の手にそっと手を添えると、その手首が縛られて内出血を起こしているのを見た。
「琴音、大変な目にあったな。体は平気か?病院に行かなくてもいいのか?」
俯いた顔を軽く持ち上げる琴音は、会釈するとぎこちない笑みを浮かべる。
「は、はい、大したことないです。本当にありがとうございました」
手首を摩る琴音を皆が心配そうに見つめている。
一城は、琴音のその言葉をただ信じることしか出来なかった。
「何にしても、良かったな。大したことなくて」
恵は、顔を上げると一城たちを見た。
「あの時、皆さんが来てくれた時は正直、ホッとしました」
まさるがブランケットを手をしながら、涼介を親指で差した。
「ああ、そのことなら、そっちの眼鏡に言って。涼介がいち早くこの事に気がついたから良かったのよ」
カウンターにいる涼介に、やや不思議そうな表情を浮かべる恵だった。
「涼介さん、まさかあなたが・・・あ、すみません」
「いいんだよ、別に。俺自身、珍しいことをしたと自分でも驚いているくらいだ。気にするな」
「は、はい・・でもおかげで、本当に助かりました。恩に着ます。涼介さん」
涼介は、首を振ると少し呆れたようにフッと鼻で笑った。
「恵、君がまた携帯を落とさなかったら、気がつかなかったことだ。怪我の功名ってやつか?運が良かったな」
面目なさそうに頭を掻く恵は、以前にも涼介にぶつかった時のことを思い出していた。
ソファに腰を掛ける琴音にまさるが持ってきたブランケットを肩に掛ける一城も呆れたようにニヤリとする。
「本当に悪運の強い奴だよ。恵は」
恵は、これまで自分に降りかかった災難を思い返していた。
「悪運か・・・そうかもしれませんね」
まさるがトレーにグラスを二つ乗せて運んできた。
「良かったら、どうぞ。体が暖まるわよ」
差し出されたグラスを手に取る恵と琴音。
「ありがとうございます。まささん」
「いいのよ別に。それにこれね。とおるのお手製なのよ。感想聞かせてくれる?」
グラスの中のほんのりピンク色した液体をかざすように見る恵は、甘い香りに癒される思いだった。
「これ。桃?」
「そうよ、桃のお酒よ」
自然と笑顔になる恵は、とおるにグラスを掲げると軽く会釈をした。恥ずかしそうに両手で顔を覆ってしまうとおる。
桃酒の甘い香りが、張り詰めた気持ちを和ませてくれるようだった。
恵は、手作りと聞いて、恐る恐るグラスを傾けて舐めるように口に含む。それを口の中で転がすと液体の中に果肉を感じながら、ほろ苦いが甘い香りが口いっぱいに広がっていくのを味わった。
「うまっ」
恵は目が覚めるような思いで言葉にする。
琴音も恵が飲むのを確かめるかのように、同じく舐めように口にする。
「あ、本当だ。美味しい。なんだか、トロけそうです」
恵と琴音の笑顔を見たまさるととおるは、イェーイのハイタッチをしている。それに釣られるように恵と琴音も、顔を見合わせると寄り添いながら声を出して笑った。
やっと、笑顔を見せた琴音を見て一城がホッとした顔をする。
「それでいい。やっぱ琴音は笑ってないとな」
まさるの店は、笑顔に包まれた。
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