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十二突き目 病院にて
哲美と歩
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コンコン
「入りますよ。お加減いかがですか?」
看護師が入ってくる。
「ああ、問題ないです」
「事務の者が今後の事で、話があるそうなので、ナースステーションまでお願い出来ますか?」
「ん?今から?ナースステーションでいいの?」
「ええ、相談室があるので、そこで話すそうですよ」
「うん、わかりました。悪い、蓮実。ちょっと行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい」
慣れない松葉杖で歩き始める哲美は、やや振り向きながら蓮実に手を振る。
それに手を振って応える蓮実。
すぐそこのはずのナースステーションは、今の哲美には長い道のりであった。
「まいったな、こんなに歩けないもんかね」
立ち止まった部屋の前で、一人の少女が目に止まる哲美。
外を見つめたまま、物思いにふけっている。
「可愛い子だな」
入り口の名前を見る。
橘 歩
ふらっと、気がつくと部屋の中に入っている哲美。
「何を見てるの?」
「ん?」
振り向く歩は哲美を見る。
「お姉さん、誰?」
「ああ、哲美だよ。あゆみちゃん」
「あ、僕ね、あゆむって、言うんです」
(僕?)
見るからに女の子なのに、おかしな事を言う子だと哲美は思った。
「あゆむって、読むんだね。歩さん、座っていい?」
「どうぞ」
歩の座るベッドに腰掛ける哲美。
「ありがとう、何を見てたの?」
「鳥です」
「鳥?」
「うん」
優雅に滑空する鳥を仰ぐ哲美。
「そうだね、あんな風に飛べたらいいよね」
「ううん、僕が見ていたのは、あの鳥」
指差す方を見る哲美。
「え?」
見ると、片足を失い一羽だけでポツンと電線に留まっていた。
「なんだか、可哀想な鳥だね」
「え?哲美お姉さんには、そう見えるの?」
「ん?違うの?」
「うん、僕には、すごく逞しく見えるんだ。片足を失いながらも、微動だにしないで、一羽で平気でいられるなんて、すごいと思うんだ」
「なるほど、かなり根性座ってるな、あいつ」
「あいつじゃないよ」
「お?」
「カカシって呼んでる」
「なんで?」
「笑わない?」
「うん」
「一本足だから」
頭の中でカカシを思い浮かべる哲美。
「ああ、なるほどね。確かにカカシだ」
哲美は、カカシを見ながら感心していた。風にも揺らぐ事なく、他の鳥たちを寄せ付けないカカシがとても、頼もしく見えた。
「いい名前だね。お姉さんもカカシが気に入ったよ」
「本当に?」
「うん」
哲美の笑顔に、歩は嬉しそうに笑うとカカシに目をやる。
「あ、いけね」
「どうしたの?哲美お姉さん」
「ごめんね、歩ちゃん、あたい行かなきゃいけなかった」
慌てて立ち上がる哲美は、ナースステーションに行くのをすっかり忘れていた。
「また、来てもいいかな?」
「うん、いつでも」
「ありがとう、またね。歩ちゃん」
「またね、哲美お姉さん」
手を振る歩に、手を振って応える哲美。
「入りますよ。お加減いかがですか?」
看護師が入ってくる。
「ああ、問題ないです」
「事務の者が今後の事で、話があるそうなので、ナースステーションまでお願い出来ますか?」
「ん?今から?ナースステーションでいいの?」
「ええ、相談室があるので、そこで話すそうですよ」
「うん、わかりました。悪い、蓮実。ちょっと行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい」
慣れない松葉杖で歩き始める哲美は、やや振り向きながら蓮実に手を振る。
それに手を振って応える蓮実。
すぐそこのはずのナースステーションは、今の哲美には長い道のりであった。
「まいったな、こんなに歩けないもんかね」
立ち止まった部屋の前で、一人の少女が目に止まる哲美。
外を見つめたまま、物思いにふけっている。
「可愛い子だな」
入り口の名前を見る。
橘 歩
ふらっと、気がつくと部屋の中に入っている哲美。
「何を見てるの?」
「ん?」
振り向く歩は哲美を見る。
「お姉さん、誰?」
「ああ、哲美だよ。あゆみちゃん」
「あ、僕ね、あゆむって、言うんです」
(僕?)
見るからに女の子なのに、おかしな事を言う子だと哲美は思った。
「あゆむって、読むんだね。歩さん、座っていい?」
「どうぞ」
歩の座るベッドに腰掛ける哲美。
「ありがとう、何を見てたの?」
「鳥です」
「鳥?」
「うん」
優雅に滑空する鳥を仰ぐ哲美。
「そうだね、あんな風に飛べたらいいよね」
「ううん、僕が見ていたのは、あの鳥」
指差す方を見る哲美。
「え?」
見ると、片足を失い一羽だけでポツンと電線に留まっていた。
「なんだか、可哀想な鳥だね」
「え?哲美お姉さんには、そう見えるの?」
「ん?違うの?」
「うん、僕には、すごく逞しく見えるんだ。片足を失いながらも、微動だにしないで、一羽で平気でいられるなんて、すごいと思うんだ」
「なるほど、かなり根性座ってるな、あいつ」
「あいつじゃないよ」
「お?」
「カカシって呼んでる」
「なんで?」
「笑わない?」
「うん」
「一本足だから」
頭の中でカカシを思い浮かべる哲美。
「ああ、なるほどね。確かにカカシだ」
哲美は、カカシを見ながら感心していた。風にも揺らぐ事なく、他の鳥たちを寄せ付けないカカシがとても、頼もしく見えた。
「いい名前だね。お姉さんもカカシが気に入ったよ」
「本当に?」
「うん」
哲美の笑顔に、歩は嬉しそうに笑うとカカシに目をやる。
「あ、いけね」
「どうしたの?哲美お姉さん」
「ごめんね、歩ちゃん、あたい行かなきゃいけなかった」
慌てて立ち上がる哲美は、ナースステーションに行くのをすっかり忘れていた。
「また、来てもいいかな?」
「うん、いつでも」
「ありがとう、またね。歩ちゃん」
「またね、哲美お姉さん」
手を振る歩に、手を振って応える哲美。
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