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一突き目 男と寝る

受けって、なんですか?

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 俺は驚いた。何がって、目が覚めたら一緒に寝ていたのが男だったからだ。

昨夜は、来島一城きじまかずきさんと飲み明かした。
俺たちは共に清掃の仕事をしている。
勤め先は株式会社 泉。その来島さんが雇い主で、そこに俺はお世話になっている。
清掃といえば、ポリッシャーを回して床を洗い、ワックスを塗って皮膜を作ることで、床が直接汚れないように維持するのがメインの仕事だった。
日頃から、女ってのは面倒臭くてな、と言っている。過去に何かあったのかと思うほどだ。
かと言って、女嫌いなわけじゃなかった。
飲んだ時に、たまに持ち帰るからだ。
ちなみに俺には彼女はいない。
昨夜は珍しく、女のことで俺は来島さんに泣きついた。黙って、俺の話を聞いてくれていた。
勢いで、沢山の酒を飲んだのは覚えている。
が、しかし、なぜこうなったのかが、思い出せない。
来島さんに聞けばわかることなんだが・・

「まいったな、どうなってる?掘られちゃったのかな」
「お前、なかなかの受けだったぞ」
来島さんが、不意に起きた。
「お、おはようございます。来島さん。ところで、受けってなんですか?」
「受けか?そのうちわかるよ。あと昨日みたいに、一城かずきでいいぞ。遠慮すんな」
大きめなベッドの上で、座っている俺に対し、来島さんは、仰向けで頭の後ろで腕を組んでいる。
「え?俺、一城さんて呼んでました?」
「いや、一城って呼んでたよ」
「す、すみません、呼び捨てなんて」
「だから、一城でいいって」
「あ、はあ」
「どうする?仕事の前に、飯でも行くか?」
「はい、そうですね」
「現場も半日だし、終わったら例のとこ行ってみるか?」
「例のとこ?」
腕を頭の後ろで組んだまま、俺を見る。
「言ってたろ?ゲイバーに行ってみたいって」
「はあ、言いましたね」
体を起こす一城。
「おし、そうと決まれば、さっさと仕事片付けちまおうぜ」
言うと、一城さんは俺にキスをした。
(ええ?マジか)
一旦離れたが、物足りなかったのか、また顔を近づけてきた。
上唇を唇でつまむと、今度は下も、男でも柔らかいから気持ちが良かった。
一城さんは、堀の深いイケメンだった。
男が男に憧れる。そんな雰囲気のあるいい男だった。
「おい、めぐむ、何してんだ?行くぞ」
一城さんは、すでに立ち上がって、上着を着始めている。
そう俺の名はめぐむ白羽根恵しらはねめぐむ
よく女の子に間違われ、少し前まで銀行や郵便局とかで、【しらはねめぐみさま】と、呼ばれ返事をして立ち上がると、周りの視線が一斉に注がれた時期があった。最近では、番号制が増えて、呼ばれることは少なくなったが。

       ・・

仕事の前に腹ごしらえの為、来島さんと二人、牛丼屋に来ていた。
「大盛りで。恵は、どうする?」
「俺は、並でいいです」
「ああ、お兄さん。やっぱ大盛り二つにして、あと卵も二つね」
「ええ?」
「それくらい、食わねえとやってけねえぞ」
「うへえ」
店員が、器用に丼二つと卵を二つ持ってやってきた。
「はい、大盛り二つと、卵です」
「お、ありがとう」
卵を割ると、トロリとした透明な白身を箸で絡めると持ち上げて言う、一城さん。
「なんかに、似てねえか」
嬉しそうにする一城。
「か、一城さん?」
だんだん、この人がわからなくなってきた。
カシャカシャとかき混ぜると、ドロっと牛丼にかける一城。
グチャグチャとかき混ぜると、ズズズズと喉に流し込んだ。
口いっぱいに、頬張る一城。
「ん?どうした?食わねえのか?」
言った口の横に、ご飯粒。
「一城さん?」
「ん?」
「ここ」
俺は、自分の口元を指さした。
言いたいことがわかった一城は、何を思ったか、んっと、そのご飯粒を差し出すように俺に何かを訴えた。
「え?」
呆れた顔をして、ペロリと舐める一城。
「わかんねえかな、あれだよ」
あごで、あそこを見ろと言う一城。
カップルが、楽しそうに食事をしている。すると
「ご飯粒、付いてる」
彼女が彼氏の口元についたご飯粒を指でつまんで自分の口に咥えていた。
「は?」
「は、じゃねえよ」
モグモグしている一城を見る恵。
なんとなく、わかって、あれ?と、指差す俺。
モグモグしながら、うん、とうなずく一城。
(あ、あれを俺にやれとの、ご所望ですか?一城様)
昨夜を起点に、一城さんが変わってしまったようだった。

       ・・

ある企業の事務所の日常的な清掃のため、休みで無人の部屋に来ていた。
「恵、バケツに水、頼むは」
「はい」
事務所は二階にあって、バケツに水を取るには一階の男子トイレのSKに行くしかなかった。
清掃業者でバケツといえば、洗剤などが入っていた18リットルの一斗缶を使うことが多い。
取手がついていて、専用のキャスターを使えば、床の上の移動が容易に出来た。
一階から二階に運ぶのは、容易ではなかった。
18リットルは行かないまでも、半分は入っている缶を運ばなければならなかった。
華奢な恵には、とてもきつい作業だった。
ガン、ガンと、一段ずつ階段を上がってくる恵。
一城が気にして声をかける。
「おい、大丈夫か?」
「へ、い、き、で、す」
一城は、階段を数段降りてきて、一斗缶を軽々と恵から取り上げる。
「ぜんぜん、平気じゃねえじゃねえか」
「あはは」
ホッとする恵が、よろめき後ろに倒れかかる。
「あぶねっ」
一斗缶を持ったままの一城が恵の体を支える。
映画のポスターのような二人。
恵のくびれた腰を支える一城。
すぐそこにお互いの顔があった。
一城は、そのまま恵を引き寄せると、キスをした。
がっしりとした腕に支えられて、ドキドキしながら、体の力が抜けていくのを感じる恵。
「片付けてからな」
一城は、恵の体を起こすと腰に当てた手で恵の尻を叩いた。

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