魔物を倒すよりお前を押し倒したい

貴林

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第八夜 ラート 

飛龍

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ロカは、しゃがみ込むと崩れた岩の中を無我夢中に探り始める。
水晶を一つ拾っては、イヒヒと声を上げている。それを5、6個も拾うとニヤニヤが収まらないロカをシュンタが覗き込んでいる。
「やけに嬉しそうだな。ロカ」
ロカは、ヨダレでも垂らしそうな顔をシュンタに向ける。
「当たり前でしょ。これ一個で何が買えると思ってるの?」
うずらの卵ほどの、水晶を指でつまみシュンタに水晶を見せると近くの露店に駆け込むロカ。
何やら、店主と交渉中だ。
店主は、水晶を受け取ると荷物をまとめて出て行ってしまった。
売り物の雑貨類が置いたままになっている。
ロカが戻ってくる。
「どうだった?」
「店買ったよ」
 はっ?
皆がロカを見る。
「だ~か~ら~、店を丸ごと買ったの」
ええ?店を買った?ってこと?
「聞き間違いでなければ、こういうことか?うずらの卵で、露店ごと買ったって言ってる?」
シュンタが、さっくりまとめて言う。
うんうんとうなずくロカ。
ま~さ~か~の、顔をする一同。
ロカは、プクッと頬を膨らますと店に行き、金庫らしきものから通貨を取り出して懐にしまう。
さらに、干し肉をかじり始める。
大きめの皮の袋を取り出すと、それに雑賀類を放り込んだ。それでも、商品が残っている。
ロカは城下の街に向かって歩き始める。
キョトンとする一同を横目に、路肩に座り込む物乞いに話しかけるロカ。
物乞いの表情が一変して無人の露店に走っていく。
物乞いが店主に成り代わると、客の呼び込みを始めている。
「ロカ?」
「ん?」
「あの物乞いに何したの?」
シュンタがロカに近づくと露店を見ながら聞いた。
「店いらないから、あげちゃった」
「へ?」
「なんか、代わりにこんなのくれたよ」
ロカがシュンタに、何かを差し出す。
何かの骨で作られた笛のようだった。
「何これ?」
「知らないわよ。使ってみたらわかるんじゃないの?」
「まあ、そうだけど」
シュンタは、口に咥えて吹いてみた。
何も音が鳴らない。
「ダメじゃん、これ」
投げ捨てようと振りかざすシュンタの手を抑えるミサオ。
「それ、ドラゴンの骨だよ」
「え?それがどうだって言うんだよ?何も起きなかったよ」
ううんと、首を横に振るミサオは、指を立てて空を差した。
ん?と、見上げるシュンタは、腰を抜かした。
空高くドラゴンが滑空して頭上で円を描いている。
「え?あれ?これ?」
空を指差した後で、笛を差し出すシュンタ。
うんうんと、うなずくミサオ。
それこそ、ま~さ~か~のシュンタ。
「また、吹いてみてよ」
ミサオがシュンタに言う。
「俺はいいよ。ミサオにやる」
「ダメだよ。この笛は、魔導士にしか使えないんだから」
「あら、そう」
口をへの字にしながらシュンタが渋々笛を吹いた。やはり、何も鳴らない。
上空から風を切る音が近づいてくる。
周囲の人々が、慌て逃げ始める。
ドスン
地響きと揺れがシュンタを襲う。
音の方を振り返るシュンタは、目の前に大きな二つの穴があるのを見つける。
そこから、生暖かい風が吹き出してくる。
ゴロゴロと喉を鳴らすような音が響く。
気づくと皆がシュンタから、遠退いていた。
「あれ?みんな、何でそんなに離れてるの?」
皆が、シュンタの後ろを指差している。
「え?なに?」
指差す方を振り向くと、大きな口を開き、牙が剥き出しになっていた。
どこかのテーマパークで見た、恐竜の原寸大の作り物を思い出しているシュンタ。
その口に手を差し入れるシュンタ。
「よくこうやって、食べられる振りした写真撮らなかった?」
ニコニコするシュンタをヒヤヒヤして見ている一同。
「しかし、これリアルだな。すごい生っぽいっていうか、おまけに生臭い」
グオオオオオと唸り声と共に、生暖かい息を吐き出す口。
シュンタの髪がなびいている。
「おえっ、くっさ。それにしても、なんなのこれ?」後退りして、全貌を確かめるシュンタ。
「わあお、ドラゴンみたいじゃん」
「みたいじゃないよ、ドラゴンだよ」
ミサオが何故か小声で言う。
バカな と、ペシペシと叩く。
叩いた感じが、肉っぽい。
ん?と、見上げるシュンタは、ギロリとこちらを見る目と目が合う。
「ちょっと、待ってよ。これって?」
皆が早くこっちに来い。と、手招きしている。
が気にしないシュンタ。
「すっげ、マジでこれ、ドラゴン?」
頬を擦り寄せるシュンタ。
「お前、名前はなんて言うんだよ」
目を閉じて、聞き耳を立てるシュンタ。
「そっか、お前、ファイっていうのか。よろしくな、ファイ」
頭を撫でるには、大きすぎるドラゴンの目の横を撫でるシュンタ。
すっかり、懐いているドラゴンは、シュンタを主人と認識している。
グルルル、喉を鳴らすドラゴン。
「え?お前、もう爺さんなのか」
グルルル、再び喉を鳴らす。
「一緒に行きたいが無理か。そうか、無理しなくていいよ」
ドラゴンは遠く火山を見上げる。
「ん?あそこに何かあるのか?わかった、行ってみるよ」
ドラゴンは、空を仰ぐと翼を広げる。
バサバサと羽ばたき始める。
ブワッ舞い上がるファイ。
見上げるシュンタ。
「さよなら、また、会おうな」
シュンタの頭上で、円を描くと遠く飛び去っていった。
何の抵抗もなく、こうしてドラゴンと会話が出来ることが、シュンタのスキルの一つだった。
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