魔物を倒すよりお前を押し倒したい

貴林

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第六夜 吸血巨乳 編

駿太と露華

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下着メーカー FITにとって今日は大事なイベントがある日だった。
S県の片田舎にある最近出来たばかりの大型イベント会場で、試作品の発表会が催される予定だった。
例の変死体事件現場がそう遠くない所にあった。
何もないこの一帯に大型の娯楽施設を建設することで、この地の活性化を図ろうとするものであった。
そのスタートとして、今回のイベントが企画されたのだ。
それほどの入場者もあまり期待出来ないと踏んだ企業側は、入場無料で制限なしの売り文句で宣伝をした所、予想外の入場者を迎え入れることになってしまった。
その理由として、メディアでも活躍中の伊香下露華いかしたろかが、モデルとして参加することが話題の火付け役になった。
下着姿の露華を見れるとあって、男女問わず多数の客が足を運んでいた。

会場に到着した。FITの従業員たちは、対応に追われながら着々と準備を急いでいた。

「そこ、椅子が足りないからもっと用意して」
井笠奈岩世いかさないわよ課長が、声を張り上げる。
戸黒真希とぐろまきも、一際ひときわ勇ましく声を出している。
「飾りつけ、どうなってるの?まだ、業者は来てないの?糸子、悪いけど確認してもらえる?」
「わかった、ちょっと、見てくる」
雲野糸子くものいとこは、搬入口に向かって走って行った。
そこへ、入れ替わるように後輩の毛衣地夜多乃もういちやたのが送迎から戻ってきた。
伊香下露華いかしたろか様、到着されました」
井笠奈課長が、ボヤく。
「なんとか、間に合ったわね。苗場くん、伊香下様の対応をお願い。夜多乃、ご苦労様、少し休んだら、入場口の応援に行ってもらえる?」
若い夜多乃に休憩は必要なかった。
「大丈夫です。このまま、行きます」
駆け出す夜多乃。
「無理しないで、水分くらい取るのよ」
井笠奈課長がねぎらいの言葉をかける。
はーいと、遠くなりながら答える夜多乃。
伊香下露華様 控室 と書かれたプレートのかかる扉の前まで来ると駿太が
「伊香下様、こちらでお待ち頂けますか?」
「もう、その呼び方はやめてって言ったじゃない」
「そうは、言われましても」
「私が、良いって言ってるのよ」
ふうと、ため息をつく駿太。
「わかったよ、露華」
笑みを浮かべる露華。
「うん、そうでなくちゃ」
駿太は、備え付けのコーヒーメーカーにカップをセットし、スィッチを押した。
「露華、悪いな。想定以上の入場者に予定が狂っちまってね。少し、待たせるかもしれない」
「構わないわ、その間、あなたが相手してくれるならね」
頭を掻く駿太。
「やっぱり、そう来るか」
駿太を困らせたくて仕方がない露華。
「ふふふ、冗談よ。私はここでのんびりしてるから、手伝いに行ってあげて」
「え?いいのか?」
「少しは、あなたの役にも立ちたいじゃない?さあ、いいから行って」
「悪い、待ってて」
手でごめんと、する駿太。
目を細め笑みを浮かべて手を振る露華。
「頑張ってきてね」
「おう、ありがと。コーヒー冷めないうち、どうぞ」
出て行く駿太を見送る露華。
「頑張って・・・だって。私は、何を言ってるのかしら」
いつも、自然体で接して来る駿太の笑顔、怒った顔、驚いた顔。下心を感じさせない表情ばかりだ。
「もう、しゃくさわるわねぇ‼︎」
チラリと湯気の立つコーヒーに目を向ける。香ばしい香りが露華を更に癒す。
香りを楽しむとコーヒーを一口含む露華。
「あら、美味しい」

         ー・ー

飾りつけの業者も無事に到着して、午後四時開始になんとか間に合う見通しが着いて、皆が安堵を始める。
井笠奈課長が、パンパンと手を叩く。
「みんな聞いて、なんとか、軌道に乗ってきたから、この辺で一息付きたいと思います。入場者担当は、交代で休憩して下さい」

少し、遅めの昼食となった。
大きさの違う弁当を二つ持つ駿太は、露華の控室前に来ていた。
コンコン
「入るぞ、露華」
扉を開けると返事がない。
中に入ると、露華の姿がなかった。
「あれ?どこ行ったんだ?」
テーブルに弁当を置くと奥のカーテンで仕切られた畳の敷いてある区画を見る駿太。
「いるのか?入るぞ」
カーテンを開けると、何も羽織らずに横になって眠っている露華を見つける。
「おい。露華、風邪ひくぞ」
そばにあった毛布を取ると、露華にかけてやる駿太。
待ってましたと、手で毛布を掴むと、頭まで潜ってしまう露華。
それを見て微笑む駿太は、出て行こうと背を向ける。
足首を掴まれて、びっくりして振り向く駿太。
「なんだ、起きてたのか?」
毛布にくるまり、体を起こして珍しく寂しそうな顔をする露華。
「駿太、少しで良いから一緒にいてくれない?」
「え?うん、いいよ」
露華に向かい合って、あぐらを組む駿太。
それを見て安心したのか、再び横になる露華。
「お弁当、どうする?」
「いらない」
「そう言わないで、少しくらい食べろよ」
ううん、と首を振る露華。
「お前のは、俺のより何倍も豪華なんだぞ」
「いいの、食べたくないから」
これ以上言っても無駄なようだ。
「あっそ、わかった。もう、言わないよ」
露華は、目の前の畳をパンパンと叩いた。
「ここに来て」
「はいはい」
露華の目の前に坐る駿太。
すると、今度は自分の頭の下をパンパンと叩く露華。
「それは、無理だよ」
また、パンパンと叩く。
仕方なく立ち上がると、露華の頭の下であぐらを組む駿太。
その上に頭を乗せてくる露華。
「あ、ありがと」
露華は、そこまでしてくれるとは正直思っていなかったので顔を赤くしてチラリと駿太を見る。
「いいよ、たまには」
駿太は、嫌がる様子もなく、むしろ、その表情はとても穏やかで露華は癒されるのを感じていた。
「疲れてるんだろ、少しくらいなら、こうしててやるよ」
「う、うん」
聞き取れないほど、か細い声の露華。
チクタクと、時計の音だけが響いている。
「・・・ねえ・・・」
不意に口を開く露華。
「ん?」
「なんで、そんなに優しく出来るの?」
「え?」
「この間、あんなことがあったのに」
「あんなこと?何だっけ」
ふっと、顔が綻ぶ露華。
「そうだね、何もなかったよね」
「うん」
上を向く露華。
「私ね、たくさんの男と寝てきたわ。知ってるでしょ?」
「まあな、噂はいろいろ聞いてるよ」
「男なんて、みんな同じ」
「どいつもこいつも、体が目的だったってか?」
「え?」
「露華、綺麗だもんな」
露華が、駿太を見る。
「本当にそう思う?」
「うん、仕事してる時の、お前は、すごく綺麗だよ。思わず見惚れちまうほどだ」
「本気で言ってる?」
「ああ」
「じゃあ、聞くけど。私がHしたいだけの女に見える?」
「見えない」
「え?」
駿太の迷いのない返事に、露華は驚いた。
「露華は、そんな女じゃないから」
「なんで、そう思うの?」
「なんでだろな」
駿太は、少し考えた。
「なんかさ、この間もそうだけど、昔チン玉握ってた頃の露華って・・・」
「どこか、寂しそうなんだよな」
「え?寂しそう?」
「あの頃さ、チン玉握ってきた露華を、追いかけたことあったよね?」
「あ、うん」
露華は、おち○ち○を丸出しにして、追いかけられたことを思い出した。
「あの時は、驚いたな。逃げる男子を追いかけるのがすごく楽しかったのに、逆に追いかけられると、なんだか、怖かったのを覚えてる」
「あの時は、露華。半べそかいてたもんな」
「だってしかたがないでしょ?あ、あんな風にされたの初めてだったから」
「でも、男子のアソコが気になって、握ってたじゃないか」
「まあ、それは、そうだけど。流石に握ってみろって、追いかけられたらそりゃ怖いわよ」
「俺も、あの時はやられっぱなしってのも、嫌だったからな」
「怖かったよ。あの時は、でもね」
「ん?」
「不思議と嬉しかったんだ」
「そうだったんだ」
「ねえ?駿太」
「なに?」
先日の大胆な露華と違って、顔を赤くして、恥ずかしそうに身体をよじらせている。
「ねえ、駿太・・・キスして」
駿太は、ドキリとした。あの時のように大胆に迫られるより、照れながら求められると妙に興奮したのだ。
「え?あ、いや、それはだな」
困り果てる駿太だった。先日のなら、しよう。と言った時とは違っていた。
毛布に潜り込む露華。
「バカ。何を本気にしてんのよ」
毛布に潜り込んだままの露華。
「もういいわ。ありがと。さあ、もう出てってよ。一人にして頂戴」
「ええ」
「お願い。一人にしてくれる?」
「わかったよ、少し休みな。露華、ショーよろしくな」
「そのために来たんだから、心配しないで」
「そうだな。じゃあ、時間になったら迎えに来るから」
立ち上がると駿太。
「あのさ」
毛布に包まれたまま、露華は駿太を呼び止めた。
「どうした?」
「一つ聞かせて?」
「うん」
「私のこと、少しでも好き・・・かな?」
「そうだな、この間みたいに迫られた時の露華よりも今の方が好きかな」
「え?」
「今の露華の方が、よっぽど素直で可愛いと思うよ」
「・・・バカ」
「じゃあな、そろそろ行くよ」
「さっさと出てけ」
「へいへい」
そう言うと、ドアの開く音がして、バタリと閉まった。
ゆっくりと毛布から顔を出す露華。
遠いあの頃、駿太に追われて逃げ回った時、今と同じことを言われたのを思い出していた。
露華は、懐かしさと駿太の言葉で、笑顔をなっていた
思い切り背伸びをして、大きく深呼吸をする露華。
「よしっ、さあ、全てはこれからよ。待っててね、駿太」
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