魔物を倒すよりお前を押し倒したい

貴林

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第四夜 珍玉握り

有名人は幼馴染

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勤め先の下着メーカーFIT(フィット)

今日は、試作品宣伝用のパンフレット作成のための撮影がある日だった。
「おはよう、駿太くん」
声をかけたのは真希さんだった。
「あ、おはよう」
「ねえ、聞いた?」
「なにを?」
「今日のモデルって、伊香下露華いかしたろかさんらしいよ」
「え?あの露華さん?ファッション雑誌ANOSONOの専属モデルだった人でしょ?」
「そおそお、びっくりだよね」
「マジか、あれだけの大物が、なんでうちなんかに来るわけ?」
「知らないわよ。頭下げたって来る人じゃないのにね」
名前を口にしてみて、妙な胸騒ぎを感じる駿太だった。
「苗場くん、ちょっと」
井笠奈岩世いかさないわよ課長が駿太を見ながら手招きで呼んでいる。
「はい、今行きます」

井笠奈いかさな課長が慌ただしく身支度をしている。
「お呼びですか?」
「ああ、苗場くん。悪いけど、下に車を用意してあるから、空港まで伊香下さんを迎えに行ってもらえないかしら?」
「俺がですか?そういうのは、毛衣地もういちの仕事ですよね?」
毛衣地夜多乃もういちやたの、一つ後輩の新人で、先日印刷物をばら撒いた人物である。
「よくわからないけど先方があなたを指名してるのよ」
「は?なんで、伊香下さんが俺を?」
「そんなこと知らないわよ。会って本人に直接聞いてみたら?ほら、つべこべ言わずに黙って行ってきて。先方の機嫌を損ねたら仕事が流れるんだからね」
井笠奈いかさな課長が、ポンと駿太の背中を叩く。
「はあ、わかりました。とにかく、行って参ります」
「くれぐれも粗相そそうのないようにね」
       
      ・・

空港正面玄関前 

車に、もたれ掛かって上下黒のスーツで身を固めて待つ駿太。
「なんだって、露華さんみたいな大物が俺なんか指名するんだよ」
ザワザワとなんだか、騒がしくなってきた正面玄関。
「おっ、来たかな」
黒服にグラサンの男どもを従えて、派手な衣装で現れる女性がいた。
(おいおい、マジか)
グラサン越しに、笑みが見て伺える。何やら親しみやすい印象だった。まるで、知り合いと再会するかのような、眼をしている。
「苗場さんね」
「伊香下さんですね。お待ちしておりました」
お辞儀をする駿太は、送迎用車両の後部座席のドアを開ける。
が、なぜか助手席に乗り込む伊香下。
黒服たちに向かって伊香下が手を上げる。
「もういいわ、あとは平気よ」
澄ました態度の伊香下。
後部座席のドアを閉めて運転席に乗る駿太。
駿太は、撮影場所に向け車を走らせる。静まり返った二人きりの車内。
駿太は、咳払いをすると口を開いた。
「伊香下様、この度は、ありがとうございます」
駿太が会釈をしながら、伊香下に挨拶をするのに対し、伊香下はグラサンを外して駿太の顔を覗き込んでくる。
「堅苦しい挨拶はいらないわ、駿太くん?」
「へ?」
グラサンを外した伊香下の顔を見て、何やら懐かしさと共に忌まわしいものを感じている駿太。
「覚えてないかしら?」
「な、何をですか?」
「小学生の時のこと」
「小学生?」
「うん、もう忘れちゃったの?」
言うといきなりチビ太を握ってきた。
驚いてハンドルを切り損ねるところだった。
「あわわわわ」
(てか、こ、この感じは?)
「え?」
舌舐めずりする伊香下を見て、小学生の頃の記憶が駿太の中に蘇る。
「ちんたまにぎり・・・?」
「あは、それ、懐かしいね」
手をパチパチさせる伊香下。
「え?て、あ、な、中下なかした?あ、あの珍玉握りの中下なのか?お前」驚きで口と目が開きっぱなしの駿太だった。
「もうやだぁ、珍玉握りなんて、言わないでよ。恥ずかしいからぁ」
「うわ、マジか、あの頃、お前に泣かされた男子の数の知れないこと」
「あらぁ、そうだったかしら」
タバコを咥えようとする伊香下の指に、指輪が光るのを見た駿太。
(伊香下・・・ん?中下?・・・ん?)
「え?ちょっと待って、中下露華なかしたろかだろ?え?だって伊香下って・・・」
「ああ、親が再婚なのよ。だから、今は伊香下よ。駿太くん。うふ」
「そうなんだ。てか、だったら、何だよ?その指のは?」
「ああ、これ。男避けよ。安心して、フリーだから。うふ」
言うと肩に寄り添う伊香下。
「いやいやいや、ちょっとそれは待ってよ」
「なんでよ?いいじゃない別に。触りっこした仲じゃない。それに、お互いまだ、独り身でしょ?」
寄り添ってくる伊香下を助手席へと押し返す駿太。
「今は、運転中だから後にしてもらえるか?それに、触りっこって、俺は触れたことはないからな」
その言葉に、腕を組んで、口をへの字にする伊香下。
「うんもう、仕方ないわね。じゃあ後でだよ。確かに聞いたからね。触れたかったのなら、触れてくれて良かったのに」
「触れたくもないから、結構です。遠慮します」
(あちゃ、迂闊だった、なんで、後で なんて言っちゃうんだよ。俺は)
「と、ところでさ」
「ん?なあに?」
「俺が、ここにいるの、知ってたのか?」
「ああそれ?この間ね、あなたの会社に出向いた時に、玉玉たまたま見つけたの」
「なんでそこだけ、アクセントが違うんだよ」
「散々握ってたから、思い出しちゃったん」
ギュッと、チビ太ならぬチビ玉を握る伊香下。
「あわわわわわ、だから、よせって」
ぷうと頬を膨らませて口を尖らす露華。
「ちぇ、つれないのね」
口をへの字して、窓の外に目を向ける露華。
駿太は、撮影スタジオに向けて車を走らせている。
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