魔物を倒すよりお前を押し倒したい

貴林

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第二夜 出先で

消えたミサオ

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仕事が終わったのでミサオの為に女性用の洋服を売っている店の前を数軒見て回った。
どういったものが良いのかわからなかったので、店頭に飾られたもので、これはというのをいくつか見つけるとまとめてそれらを買っていく駿太は、両手に紙袋を下げ帰宅した。

陽も陰り、台所の照明が付いただけの部屋の中は薄暗かった。
「ただいま」
部屋の照明を付けるが返事がなかった。
「ミサオ。いるの?」
部屋の奥で、ザーーーと、音を立てて4Kテレビの画面が、砂嵐になっている。変な胸騒ぎを感じずにはいられない駿太。
「どこ行ったんだよ。ミサオ」
テーブルの椅子に腰掛ける駿太。テーブルに置いた手が、ガサッと何かに触れる。
紙切れ?手にとって見る駿太は、愕然とした。
『じゃあねーし・・』と書かれていた。
じゃあね、し し しゅんた?
『じゃあね、しゅんた』?
「まさか、ミサオ・・・」
靴も履かずに、外に飛び出す駿太。
階段を駆け降りる。踏み外して転げ落ちる。
「っつ、ミサオ」
痛む足を引きずって駿太は走った。
どこにいるともわからないミサオを探して。
「ミサオ」
近くの公園に来るが、物音一つしなかった。
「ミサオ。どこに行ったんだよ」
チビ太を口にしながら笑うミサオが浮かぶ。
ズキンと胸が痛む駿太。
横に眠るミサオの寝顔。
手ブラであん♡をするミサオ。
無我夢中で走った。
「ミサオー、と」
足がもつれる。ドサァと、倒れる駿太。体を起こし、その場にあぐらをかくと、靴を履いていない靴下が穴だらけだった。足底は擦れて血が滲み出ていた。そこに、雫がポタリと落ちる。
「なんて、馬鹿なんだ俺は」
涙が溢れ出て止まらない。
大事なものを手放してしまった。
駿太は、その場に座り込んだまま背中を丸くした。
「ミサオ、帰ってきてくれ。頼むよ」
そこに視界に人の足が入ってきた。男物の靴だったが、それに入る足は小さかった。頭の上から声がかかる。
「シュンタ?」
探していた愛する人の声だった。
ハッと、顔を上げると両手いっぱいに荷物を抱えて立っているミサオ。
ペタリとしゃがみ込むミサオ。
首を傾げつつ駿太を覗き込む。
「どうしたの?靴も履かずに」
大きな目がパチクリしている。
抑えきれず駿太は、ミサオに抱きついた。
「ちょ、ちょっと、シュンタ。それは、家に帰ってからでしょ?」
笑いながらミサオが、砂利のついた駿太の体を払った。
「あーあ、肘擦りむいてる」
パッパと砂を払うと、傷口に口を押しつけて唾を付けた。
痛みで顔を歪める駿太。
「ミサオ、帰ったんじゃなかったの?」
「帰る?どこに帰るって言うの?」
えっと、顔を上げる駿太。
「でも、置き手紙が・・・」
ん?と上目使いになるミサオ。
ポンと手を叩くと
「ああ、あれね。駿太んとこ、炊飯ジャーがないんだもん。嫌味の一つも伝えたくてね。 じゃあねーし って」
「はっ?ジャーねえし?」
キョトンとする駿太。
「だから、これ買ってきたの」
マンモス印の『お米が立つ、炊飯ジャー トロうま』と書かれた段ボールを差し出すミサオ。
「あと、これね」
手つきのビニール袋を差し出す。
見ると、にんじん、じゃがいも、ごぼう、肉、魚、卵、調味料など詰まっていた。
「明日からお弁当作るからね。そうすれば、彼女がいるのがわかるでしょ?」
「えっ、でもテレビが付けっぱなしで」
頭を拳でコツンとするミサオ。
「あ、ごめん、お料理番組観てて、そのままだったから」
可愛すぎた。愛おしさ全開だった。
キスをしたくなって、外だというのも気にせず、ミサオに腕を回すと深い深いキスをした。
延々と続いた。気が遠くなるミサオは、手が緩み買ったものを落としてしまった。
唇を離すと、余韻に浸るミサオ。めまいで一瞬フラついた。
支える駿太。駿太の胸に顔を埋めるミサオ。
「なんだか、変だよ駿太。でも、すごく嬉しい」
ふふっと、笑みを浮かべるミサオも駿太の腰に手を回す。
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