魔物を倒すよりお前を押し倒したい

貴林

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第二夜 出先で

会社でデレデレ

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苗場駿太は、下着メーカーFIT(フィット)の試作品試着担当部〈そんな部があるかは、定かではないが〉で働いていた。
普段はボサボサ頭に眼鏡でダサダサの駿太であった為、周囲の女性たちは駿太の存在を気にも止めていなかった。
それは、昨日までの話で今日はいつもと違った。
それもそのはず、今朝に限ってミサオが髪を散髪してくれてキチンとまとまり、ちょっとしたイケメンになっていた。
コピーを終えた新人の女の子が、誤って用紙をばら撒いてしまった。それを普段なら無視する駿太だったが、何故か近づいてそれを拾い上げた。
「大丈夫?」
声をかける駿太。いつもなら、こんなことはしない。
「あ、ありがとうござ・・」
新人の子が、駿太を見ると言葉に詰まった。
顔を赤らめると、そそくさと行ってしまった。
眼鏡のブリッジを中指で持ち上げると首を傾げる駿太。
そこに同僚の戸黒真希とぐろまき、細身だが程よい形の胸を広めに開かれたシャツから覗かせて、カップのコーヒーを両手に持ち駿太に近づいてきた。
「駿太くん、おはよう。良かったら飲まない?」
「え?しゅ、しゅんた?」
コーヒーを差し出す真希。
「やだなあ、駿太くんは駿太くんじゃない」
戸惑う駿太は、目をパチクリしながら、よく分からずにそれを受け取った。
「あ、ありがとう。戸黒さん」
「もうやだ、駿太くん。真希って呼んでよ」
「はあ・・真希・・さん?」
「うふ、まあどっちでもいいよ」
「どうも」
真希が駿太を覗き込んでくる。
「ねえねえ、駿太くん、今日仕事終わったら飲みにでも行かない?」
珍しいことを言われて戸惑う駿太。
「え?飲みに?俺と?」
「他に誰がいるのよ?」
確かに女だらけの職場に、他に男はいなかった。
「あ、真希。なんの話してんの?飲みに行くなら、私も仲間に入れなさいよ」
そこに、真希と同期の雲野糸子くものいとこが、やってきた。
真希と違いぽっちゃりした体付きで、豊満な胸をしている。
「別にいいわよね?駿太くん、私も行っても」
駿太の腕にしがみつく糸子。
こんなことされて、嬉しくないはずがなかった。ドキドキしていた。
糸子の胸が駿太の腕で、ムニンとつぶれる。
(あひっ)
声に出さなかったが、ひきつる駿太。
チビ太が、ピクリと反応する。
今朝のミサオの顔が浮かんできてチビ太を落ち着かせる。
「あ、卑怯なことするわね。糸子」
「あら、真希だって、胸元そんなに開いてどういうつもりよ?」
駿太が立ち上がる。
「ご、ごめんなさい。今日は、用事があるので、またの機会に。すみません」
糸子から腕を解くとその場を離れた。
「あ、駿太くん。待ってよ。ほらぁ、糸子が邪魔するから行っちゃったじゃない」
「何言ってるのよ。真希が出し抜くからでしょ」
ギーと睨み合う二人。
駿太は、男子トイレに行くとボックスに入った。
ペタリと座り込む駿太。
(よく耐えたぞ。チビ太)
「にしても、なんなんだよ。今日は」
あっ 駿太は、思い出した。
[今のシュンタは違うよ。絶対、女の子が放っておかない]
ミサオの言葉が、よぎって行った。
「まるで、魔法だな。あり得ないよ、こんなの」
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