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第七夜 ラート はじまり編

再び繋がる

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駿太の部屋 時は、昼。

「矢那さん、今、千夜宇ちやうちゃんがいなくなったって言いました?」
「うむ、そうなんだよ。昨日、買い出しと掃除を頼んだんだけどね。来なかったんだよ」
駿太の部屋のキッチンで、ミサオが淹れたコーヒーを飲みながら、矢那と向かい合って座る駿太。
「どこか、行きそうな所に心当たりはないんですか?」
「んー、皆目見当もつかなくてね」
「そうですか」
「あっ!」
ビデオを片付けようと整理をしているミサオが声を上げた。
駿太がそれを聞いて声をかける。
「どうした?ミサオ」
何もなかったように振る舞おうとするミサオ。
「あ、いや、買い物で足りないものあるの、思い出しちゃって」
「買ってこようか?」
「あ、大丈夫。ごめんね」
駿太は、ミサオが今していることの方が気になった。
「ところでさ、ミサオ。君は今何をしてるのかな?」
大体の予想は付いているので、声が上擦うわずる駿太。
「うん、ビデオ捨てようと思ってね。整理してるの」
嫌味っぽく言うミサオ。
駿太の予想は的中していた。
ビデオをビニール袋に詰めるミサオ。
透けて見えるそれは、あん♡のジャケ写のものばかりだった。Hなビデオを全て処分しようと片付けをしているのど。
「あとね、ミサオさん?ゴミの回収、明日は来ないから慌てもなくても良いと思うよ」
「まとめておけば後が楽でしょ?それに収集場に置いといても腐るものじゃないし。よいしょっと。駿太も運ぶの手伝って」
肩を落とす駿太。
(さらば、我が右手の友よ)
「はい、今行きます~」
「矢那さん、ごめんね。ちょっと待ってて下さいね。これ、全部捨ててくるから」
45リットルの袋が四つはあるのを二人で運び出そうというのだ。
「お、手伝おうか?」
矢那さんが声をかける。
「あ、いや、矢那さんは、待ってて。二人で行けるから」
ミサオと駿太は、両手に二つずつ袋を持つと部屋を出た。この時、ミサオが一本のディスクケースを脇に挟んでいた。
階段を降り、ゴミ捨て場に来る二人。
ガサガサ、袋が置かれる。
「これで、やっとせいせいするわ」
ミサオは、パンパンと手を叩いている。
「あー、俺の美里ちゃん」
キッと、駿太を睨むミサオ。
「今なんて?」
「あ、いえ、何も」
「そんなことより、これを見て」
脇に抱えたビデオを差し出すミサオ。
「そんなことって・・・」
落ち込む駿太。
「ほら、落ち込んでないで、これを見て」
「ああ、ミサオの出演作第二弾だね。これが、どうしたの?」
「ここを、よく見て。何か変だと思わない?」
ビデオのジャケット写真の一か所を指差すミサオ。
「ん?あれ?」
「ね。変でしょ?」
登場人物が一堂に会した写真。
だが、そこにいるべき人物がいなかったのだ。
「ん?確か、ここって」
善玉悪玉と勢揃いする中、悪玉がいなかった。
「闇の帝王 ブラアーデミーだ」
二人は、顔を見合わす。
「吸血巨乳のこともあるし、気になったの」
「確かに、あり得るかも。ちょっと、待って、この映画でブラアーデミーといえば、お姫様を誘拐するとこから始まるな」
ミサオが、ハッとする。
「え?まさか、千夜宇ちゃん」
「いやあ、その可能性はかなり低いと思うよ」
「でも、私の映画だよ?その私と関わりが深い人で、身近な存在と考えると・・」
「仮にだよ?そうだとした場合、いったいどこに連れて行くって言うんだよ」
あごをつまんでいたミサオが顔を上げて駿太を見る。
「ブラアーデミーの居城、アンディーラカマハル」
立ち話もなんだからと、一旦部屋に戻ることにした。
階段を登ると部屋の前で矢那さんが立っていた。
「あ、あれ?矢那さん、どうしたの?」
真面目な顔で、駿太を見る矢那。
「どういうことか、話してくれるかい?」
えっと、なる駿太とミサオは、会話を聞かれていたことに気づいた。
「わかりました、一旦、中に入りませんか?」

キッチンの食卓に着く三人。
「先日の吸血巨乳の件。ご存知ですよね?」
「ん、ああ、ニュースで見たよ。それが何か?」
「それと、同じことが起こっているんです」
「ええ?でも、あれは映画を模した犯人がやったことなんだよね?」
真っ直ぐに矢那を見る駿太とミサオ。
「え?違うのかい?」
うんと、うなずく二人。
駿太が説明する。
「あれは、本物です」
鼻で笑う矢那。
「ち、ちょっと、待ってよ。あれが、本物って、まるで映画の中から抜け出したような言い方だけど?」
「その言葉通りなんですよ。矢那さん」
「え?言葉通りって、映画の中から?あ、そ、そんなことあるはずが・・・」
ミサオを見る矢那。
「あ、そうか、ミサオちゃんも・・・わ、わかった、わかるように説明してくれ」
駿太は、ビデオを持ち、テレビに近づく。
「まあ、とにかく、まずはこれを見てから」
DVDデッキにディスクを入れ再生する駿太。
早送りで、お姫様が連れ去られる場面まで進める。
[うはははは、姫は頂いて行く]
闇の帝王 ブラアーデミーが、シャンティ国から姫を連れ出そうとするシーン。
「まだ、ここでは、姫役は変わっていないですね」
駿太が、画面を見ながら言う。
「もう少し、先に行ってみない?」
ミサオが、駿太を促す。
早送りする駿太。
牢屋に閉じ込められているお姫様のシーン。
[だ、誰か助けて・・・お願い]
カメラが背中越しの姫をとらえ、回り込んで姫の悲痛な表情を写す場面。
映し出された姫様を見て、三人は愕然とした。
「・・・千夜宇ちゃん?」
[助けて・・・駿太くん]
両手で顔を覆うと肩を震わせて泣く千夜宇。
画面にすがり付いたのは、矢那だった。
「ああ、千夜宇。なんで、こんなことに」
膝をつき泣き崩れる矢那。
「矢那さん・・・」
矢那が駿太に泣いて縋る。
「なあ、頼むよ、大事な妹なんだぁ、駿ちゃん、助けてやってくれぇ、頼むよぉ」
どうしていいか、わからない駿太とミサオ。
ハッとする駿太は、テレビの前に立つと、画面をツンツンしたり、手のひらを当ててみたりしている。
「な、何を?駿ちゃん」
「いや、ミサオの時みたいに、向こうと繋がらないかな?と思ったんですよ」
ミサオが立ち上がると駿太の横に立ち、テレビを触り始める。
「んーやっぱ、ミサオでも無理か」
「もしかして・・・」
あごをつまむミサオは、思い当たるものがあった。
「繋がってるのは、向こうの世界じゃなくて、私とだったら・・」
「あっ、なるほど」
ビデオを早送りをする駿太。
「確か、そろそろ・・・出番のはず」
ここ。と、リモコンのボタンを押す駿太。
画面では、ミサオが初顔出しする場面。
剣と盾をたずさえて現れるミサオ。
「相変わらず、かっけえな。ミサオ」
口元で人差し指を立てるミサオが、シーッとする。
「あ、ごめん」
[私が、シュダッタだが、呼んだのは誰だ?]
「俺で~す。待ってたよ。シュダッタちゃん」
「あんもう、駿太、バカ。私はこっちにいるでしょ?」
[何者だ、貴様は?]
聞き慣れないセリフに二人は画面を見る。
剣をこちらに向けているシュダッタ。
え?
ハッとするミサオは、向けられた剣の先の腕を掴もうと腕を伸ばす。
画面をすり抜けていくミサオの腕、シュダッタの腕をつかむと、こちらに引き戻す。
眩しいくらいの光が包み込む。
一面が白くなって何も見えない。
光が収まると、シュダッタの姿をしたミサオが一人、そこに立っている。
「え?え?ミサオ?シュダッタ?どっち?」
駿太が、あわわの手で行き場を失う手を泳がせる。
「私は、シュダッタだ。お前は、何者だ?」
「あ、ひゃあ、また、振り出し?」
真顔のシュダッタが、ブッと吹き出す。
え? キョトンとする駿太。
「私だよ。駿太」
「み、ミサオ?ほんとにミサオ?」
鎧姿で抱きつくミサオ。
「あててて、痛いよ。硬いよ。ゴツいよ」
慌てて離れるミサオ。
「あ、ごめん、ついいつもの調子で、やっちった」
テヘッとするミサオが、また可愛い♡
腰に手を当てて、むふふとするミサオ。
「完全防備の私を抱けるかな?」
ブフッと、鼻で息を吹き出す駿太は、やる気満々。
鎧の結び目に手をかけようとする駿太。
コホンと、後ろから咳払いがして我に帰る駿太。
矢那さんが、照れたように目をパチクリさせている。
「まあ、きっかけはつかめたので良かった。うん」
画面はやはり、そこで切れて真っ暗になっている。
話を続ける矢那。
「あとは、これからいかにして、姫・・いや妹、千夜宇を助け出すかが問題で。その為には、仲間が必要だな」
「ん?映画の中の人物じゃダメなのかな?」
駿太が言うと、ミサオが手に何かを持って駿太の肩をツンツンする。
「ねえ、これ・・」
持っていたのは、ディスクの入っていたケース。見るとジャケット写真から、主要人物の仲間たちが消えていく。
「えー、これって?」
「矢那さんの言う通りかもね」
「え?え?な、なんでわかんの?矢那さん」
「た、たまたまだよ」
成り行きで、なんとなく思って口にしたことが現実になり、自分でも驚いている矢那。
「とりあえず、女剣士をミサオだろ?学者に矢那さんとして」
「だったら、非力な駿太は、新米魔法使いだね」
「あ、ひっど・・まあ、合ってるけど」
ガックリと肩を落とす駿太。
「あとは、格闘家と治癒師だね」
三人は、腕を組んで考え込む。
この状況を理解し、協力してくれそうな人を探さねばならなかった。
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