小突いて候。

貴林

文字の大きさ
上 下
9 / 10
第九話

ボワゴロ

しおりを挟む
水車小屋の水車が、小川の流れに押され音を立てて回っている。
小屋の中では、ギー、トン。ギー、トンと、から木臼きうすを備え付けのきねが一定の間隔で叩いている。
ここの主人は、水車への水の流れをせき止めもせずに、ここを離れたようだ。よほど、急いでいたのであろう。

キシムが、首を振る。
「あの音で、ろくに眠れんかったわ」
水菜が、首を傾げて言う。
「そお?心地いい響きでよく眠れたけど」
「頭おかしいちゃうか、自分。わし、途中から羊数えとったら、ギーで出てきて、トンと人の頭蹴飛ばしてくもんやから、余計に眠れんくなったわ」
キシムは、言いながらあくびをした。
水菜がプヨちゃんに声をかける。
「ねえ、プヨちゃん。この辺に、街とかないかな?」
「あるよ、この先の山頂を超えると街が見えてくるプヨ」
玉子さんが体を起こす。
「おお、それはいいな」
美優留がパタパタを見る。
「パタパタ、偵察頼める?って、寝てる?」
一寸が刀を腰に差しながら
「昨夜は、一晩中起きてたようですよ」
パタパタは、パタパタなりに役に立ちたかったのかもしれない。
プヨちゃんが申し訳なさそうに
「パタパタは、夜行性なので昼間は寝てるプヨ」
水菜が腕を組む。
「そっか、なら仕方ないわね。とりあえず、馬車の中にでもいてもらって」
キシムを見る水菜。
「な、なんや、結局、わしかいな」
美優留が割って入って
「昼間はキシム。夜はパタパタと役割を分けたらいいんじゃない?」
「けっ、玉子は何するんや?」
玉子は、周りを見ながら一寸に目が止まる。
「俺は、一寸を乗せるよ」
玉子を撫でる一寸。
「いいのですか?私が乗っても」
「先陣切るには、いいコンビだと思わないか?」
「確かに、腕がなります」
早速、水菜が馬具を打出ちゃんに出してもらい、それを身に付ける玉子。
一寸は、颯爽さっそうと玉子にまたがると手綱を引いた。
玉子が前脚を高々と上げた。
「で、馬車には、かぐやさん、ヤマタノくん、パタパタ、プヨちゃん、御者台ぎょしゃだいに美優留と私って、とこかな?」
ようやく、設定もまとまってきたので、旅の再開となります。
一行は、山頂を目指して進んだ。
偵察から戻るキシム。
美優留が、馬車馬の背に降りたキシムを見る。
「どうだった?」
「なんや、この先に壊れた馬車があったで」
「山賊か何かかしら」
キシムが、不思議そうな顔をする。
「それがな、丸焼けになっとったで」 
「襲ってから、わざわざ火をつけたのかな?」

まもなくして、焼けた馬車が見えてきた。
一寸が玉子と先に向かう。
一寸は、玉子から降りると焼けた馬車を調べ始める。
「何か、火のついたものに叩き壊されたようにも見えるな」
玉子が、異変に気付く。
「一寸、あれだけ燃えてないよな?」
足をそれに向けて指す玉子。
一寸が見ると、馬車の車輪らしきものが、燃えずに残っていた。
それは、むっくりと立ち上がると側面をこちらに向ける。
そこには、顔があって口を開く。
「ガハハハ、よくぞ、見破ったな」
車輪は、ゴロゴロと転がって見せた。
一寸は、車輪が動き出すとは思っていなかった。
「いや、燃えてないから変だなって、思っただけなんだけど」
自ら名乗り出てしまったことに気づき、車輪はしまったと思った。
「ハハハハ、こうなっては仕方がない。まずは、お前からだ」
手始めとばかり、転がって一寸を襲う。
横に飛びそれを避ける一寸。
「玉子さんは、下がっていて下さい」
玉子は、仲間の馬車まで下がった。
車輪は逆回転を始め、地滑りしながら一寸に向かって転がってくる。
一寸は、それを飛び越えてかわす。
「なかなか、やるな。これなら、どうかな?」
ボワっと、車輪が火に包まれる。
火車となって、再び一寸を襲う。
飛び越えるのは難しい為、横に飛び避けるが、着物の袖下そでしたに火が付く。ババッと、手で払う一寸。
顔を叩けば、倒せるだろうと思うが、なかなか近づけないでいる。
「ハハハハハハ、これでは、近づけないだろう。お前も丸焼けになってしまえ」

ゴロゴロと、火車が一寸に迫る。
このまま、一寸は、やられてしまうのか。なすすべはないのだろうか。

次回は、[燃える。火車の恐怖。]に、ご期待ください。
「良い子のみんなは、火遊びはしないようにな」
一寸が、人差し指を立てて、ウィンクをする。

水菜が、こちらを向いて怒鳴りつける。
「こら、勝手に終わらせて、次回に繋ぐなぁ。でもって、一寸をいいように使うなぁー」

場面は戻り
ハハハハハハ
火車が、ゴロゴロと一寸に近づく。
横に飛び避ける一寸。だが、それを読んでか、火車も避けた方に向きを変えて襲いかかる。
「まずい!」
刀を盾にして、それを遮りなんとか難を逃れるも、その衝撃は凄まじいもので、一寸は弾き飛ばされた。クルリと、空中で身を翻し見事な着地をする一寸。
ホッとする間もなく、さらに火車は迫る。
ガシン!火車と一寸の刀がぶつかる。ブワッと火の粉が、一寸に降りかかる。
着物に穴を開けて、髪の数カ所が焦げ、顔にもいくつか降りかかる。
「くっ・・・」
片目を閉じる一寸。
ギリギリと、刀を押し迫る火車。
熱さと力に、一寸が怯み始める。
(このままでは・・・)
タプンと、一寸の横に何かが降り立つ。
「ボワゴロ!もう、お終いにしようプヨ」
プヨちゃん?一寸は、細めた片目で、声の方を見る。
それは、まるまると膨れ上がったプヨちゃんが、大きく息を吸い込んでいる。
「水鉄砲プヨ!」
と、口に出したら噴き出せないので、ここは雰囲気でということで
口から一気に水を吹き出すプヨちゃん。
ジュウーーと、湯気をたち込めるボワゴロと呼ばれた火車は。
一瞬で、消火されてしまった。
キョトンとするボワゴロ。
この機を逃さないのが、一寸であった。
ぐっしょりした顔が、一寸の拳を受けて歪む。
「ぐえっ」
コインを転がしたときのように、グルグルとボワゴロは回るとパタっと地面に倒れる。
すすで、顔を黒くした一寸が、プヨちゃんを見る。
可愛いながら、頼もしいプヨちゃんが真剣な顔をしている。
あ・・あ・・と、不安定な体を揺らすプヨちゃん。
ふっと、笑う一寸。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

その聖女は身分を捨てた

メカ喜楽直人
ファンタジー
ある日突然、この世界各地に無数のダンジョンが出来たのは今から18年前のことだった。 その日から、この世界には魔物が溢れるようになり人々は武器を揃え戦うことを覚えた。しかし年を追うごとに魔獣の種類は増え続け武器を持っている程度では倒せなくなっていく。 そんな時、神からの掲示によりひとりの少女が探し出される。 魔獣を退ける結界を作り出せるその少女は、自国のみならず各国から請われ結界を貼り廻らせる旅にでる。 こうして少女の活躍により、世界に平和が取り戻された。 これは、平和を取り戻した後のお話である。

処理中です...