輝く草原を舞う葉の如く

貴林

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第二章 ノースウォーター国へ

第十八話 タクトの涙

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帆船を囲む触手は、よく見ると吸盤の付いた、タコの手だった。
タクトは、怒りで我を忘れている。
手甲をはめるとその化け物ダコに飛びかかった。バシン
手で払い落とされるタクト。
サユミも剣を構える。剣の特性カマイタチを試す。
「えい!」
ただ振り払われるだけで、何も起きなかった。バシン
サユミもまた、弾き飛ばされていた。
「サユミ」
ハヤネがサユミを抱き起す。
「剣にも力を宿さないと無理だよ」
「あ、そうか」
「うん」
剣を構えるサユミ。
[ヴァヴァンダー]
剣を包むように風が巻き起こる。
[カマイタチ]
サユミの全身を風が包み込む。
それが、剣に流れ込む。
「ええい」
サユミが、大きく振りかぶって薙ぎる。
風は鞭のように伸びて、タコの手を横切る。
手がもげて宙に飛ぶ。
確信したサユミ。
「これなら、いける」
勢いに乗るサユミをハヤネが止める。
「待って、サユミ。あそこを見て」
ハヤネが指さす方向を見るサユミ。
一本の手にホイトが捕まっていた。
「ホイトー!」
叫ぶタクトが大きく飛んだ。そこに伸びる手。
「させない!」
サユミが叫び剣を薙ぎる。スパッ
手が切れて飛ぶ。
「ありがとう、サユミ」
渾身の力を込めるタクト。
[タイシン]
タクトの手甲が細かく振動している。
タコの頭を捉えるが、深く沈み込んでダメージが入らない。
それでも、タイシンを受けたタコは、激しい振動に襲われて体を麻痺している。ズルリと帆船から滑り落ちて海面に着水する。
ナルセが、海面に飛ぶ。
[ダウド]
海面に降り立つナルセは、そのまま滑るように海面を疾走する。波がナルセに合わせて高くなる。
タコの頭上高く飛び上がるナルセ。
[フブキ]
剣先をタコの頭に突き立てる。
白い蒸気が上がると、ピキピキと音を立ててタコが凍りついた。
サユミが飛ぶ。
[ヴァヴァンダー]
風を起こし飛び乗ると舞い上がりホイトを掴んだまま凍りつく大ダコの手に近づく。
[カマイタチ]
ホイトを捕らえていた手が断ち切られる。
「今だよ、タクト」
サユミの掛け声より一寸早く走り出しているタクト。
「わかってる」
すでに、飛んでいるタクトは、凍ったタコの手を駆け上がる。
「おらあああああ」
振動する手甲をタコの眉間に叩き込む。
[タイシン]
ズシン
手応えあり。
激しい振動が大きな波紋を描いてタコの全身に響き渡る。
バキッビキビキバリバリバリバリ
氷の塊になったタコが砕け散っていく。
ホイトをサユミの風が包み込んで船上に下ろしている。
マリカが炎を纏った剣先を崩れ行くタコに向ける。
[ゴウカ]
バオン 大火がタコを焼き尽くす。
ブスブスと煙を立てる。
トドメは、ハヤネの役目。
ユラユラと大気を歪めている杖の先を焦げたタコに向ける。
[キョム]
空間の玉になって、タコを包み込むと小さくなっていく玉。
シュボン
玉はタコを包んだまま小さくなって消えた。跡形もなく

ホイトに駆け寄るタクト。
凍ったタコの手を壊してホイトを助け出すと抱きついているタクト。
「ホイト、しっかりして」
皆もなす術がなく下を向く。
「ホイト、ダメだよ。目を開けてよ」
目を開けないホイト。
「まだ、これからだよ。せっかく、友達になれたのに、ダメだよ。逝っちゃ」
横たわるホイトに覆い被さるようにタクトは、声を上げて泣いた。
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