輝く草原を舞う葉の如く

貴林

文字の大きさ
上 下
24 / 25
第二章 ノースウォーター国へ

第十八話 タクトの涙

しおりを挟む
帆船を囲む触手は、よく見ると吸盤の付いた、タコの手だった。
タクトは、怒りで我を忘れている。
手甲をはめるとその化け物ダコに飛びかかった。バシン
手で払い落とされるタクト。
サユミも剣を構える。剣の特性カマイタチを試す。
「えい!」
ただ振り払われるだけで、何も起きなかった。バシン
サユミもまた、弾き飛ばされていた。
「サユミ」
ハヤネがサユミを抱き起す。
「剣にも力を宿さないと無理だよ」
「あ、そうか」
「うん」
剣を構えるサユミ。
[ヴァヴァンダー]
剣を包むように風が巻き起こる。
[カマイタチ]
サユミの全身を風が包み込む。
それが、剣に流れ込む。
「ええい」
サユミが、大きく振りかぶって薙ぎる。
風は鞭のように伸びて、タコの手を横切る。
手がもげて宙に飛ぶ。
確信したサユミ。
「これなら、いける」
勢いに乗るサユミをハヤネが止める。
「待って、サユミ。あそこを見て」
ハヤネが指さす方向を見るサユミ。
一本の手にホイトが捕まっていた。
「ホイトー!」
叫ぶタクトが大きく飛んだ。そこに伸びる手。
「させない!」
サユミが叫び剣を薙ぎる。スパッ
手が切れて飛ぶ。
「ありがとう、サユミ」
渾身の力を込めるタクト。
[タイシン]
タクトの手甲が細かく振動している。
タコの頭を捉えるが、深く沈み込んでダメージが入らない。
それでも、タイシンを受けたタコは、激しい振動に襲われて体を麻痺している。ズルリと帆船から滑り落ちて海面に着水する。
ナルセが、海面に飛ぶ。
[ダウド]
海面に降り立つナルセは、そのまま滑るように海面を疾走する。波がナルセに合わせて高くなる。
タコの頭上高く飛び上がるナルセ。
[フブキ]
剣先をタコの頭に突き立てる。
白い蒸気が上がると、ピキピキと音を立ててタコが凍りついた。
サユミが飛ぶ。
[ヴァヴァンダー]
風を起こし飛び乗ると舞い上がりホイトを掴んだまま凍りつく大ダコの手に近づく。
[カマイタチ]
ホイトを捕らえていた手が断ち切られる。
「今だよ、タクト」
サユミの掛け声より一寸早く走り出しているタクト。
「わかってる」
すでに、飛んでいるタクトは、凍ったタコの手を駆け上がる。
「おらあああああ」
振動する手甲をタコの眉間に叩き込む。
[タイシン]
ズシン
手応えあり。
激しい振動が大きな波紋を描いてタコの全身に響き渡る。
バキッビキビキバリバリバリバリ
氷の塊になったタコが砕け散っていく。
ホイトをサユミの風が包み込んで船上に下ろしている。
マリカが炎を纏った剣先を崩れ行くタコに向ける。
[ゴウカ]
バオン 大火がタコを焼き尽くす。
ブスブスと煙を立てる。
トドメは、ハヤネの役目。
ユラユラと大気を歪めている杖の先を焦げたタコに向ける。
[キョム]
空間の玉になって、タコを包み込むと小さくなっていく玉。
シュボン
玉はタコを包んだまま小さくなって消えた。跡形もなく

ホイトに駆け寄るタクト。
凍ったタコの手を壊してホイトを助け出すと抱きついているタクト。
「ホイト、しっかりして」
皆もなす術がなく下を向く。
「ホイト、ダメだよ。目を開けてよ」
目を開けないホイト。
「まだ、これからだよ。せっかく、友達になれたのに、ダメだよ。逝っちゃ」
横たわるホイトに覆い被さるようにタクトは、声を上げて泣いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

スウィートカース(Ⅶ):逆吸血鬼・エリーの異世界捕食

湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
ファンタジー
夜の眷属たちが〝彼女〟に恐怖する時間はやってきた。 異世界にしか存在しないはずの凶悪な吸血鬼は、謎の力によってつぎつぎと現代の赤務市に忍び込みつつあった。 いにしえに滅びたはずの伝説の影に、人々はなすすべもなくひれ伏す。 だが、現代には彼女という天敵がいた。 彼女はエリー。〝吸血鬼の血を吸う吸血鬼〟だ。もちまえの超反射神経と最新鋭の科学技術を駆使し、〝逆吸血鬼〟エリーは吸血鬼召喚の謎を追う。そしてエリーは、事件の裏側にひそむ大いなる陰謀へと迫ることに…… 舞台がめまぐるしく現実と異世界に切り変わるスタイリッシュ・ブラッドアクション。 「わらわが運ぼう、死と恐怖を」

おっさん、勇者召喚されるがつま弾き...だから、のんびりと冒険する事にした

あおアンドあお
ファンタジー
ギガン城と呼ばれる城の第一王女であるリコット王女が、他の世界に住む四人の男女を 自分の世界へと召喚した。 召喚された四人の事をリコット王女は勇者と呼び、この世界を魔王の手から救ってくれと 願いを託す。 しかしよく見ると、皆の希望の目線は、この俺...城川練矢(しろかわれんや)には、 全く向けられていなかった。 何故ならば、他の三人は若くてハリもある、十代半ばの少年と少女達であり、 将来性も期待性もバッチリであったが... この城川練矢はどう見ても、しがないただの『おっさん』だったからである。 でもさ、いくらおっさんだからっていって、これはひどくないか? だって、俺を召喚したリコット王女様、全く俺に目線を合わせてこないし... 周りの兵士や神官達も蔑視の目線は勿論のこと、隠しもしない罵詈雑言な言葉を 俺に投げてくる始末。 そして挙げ句の果てには、ニヤニヤと下卑た顔をして俺の事を『ニセ勇者』と 罵って蔑ろにしてきやがる...。 元の世界に帰りたくても、ある一定の魔力が必要らしく、その魔力が貯まるまで 最低、一年はかかるとの事だ。 こんな城に一年間も居たくない俺は、町の方でのんびり待とうと決め、この城から 出ようとした瞬間... 「ぐふふふ...残念だが、そういう訳にはいかないんだよ、おっさんっ!」 ...と、蔑視し嘲笑ってくる兵士達から止められてしまうのだった。 ※小説家になろう様でも掲載しています。

スライム・スレイヤー

1336maeno
ファンタジー
異世界に転生したら、スライムが世界を支配していた。 最弱の魔物のはずのスライムが、ドラゴンを滅ぼし、魔王すらも倒してしまったというのだ。 あらゆる攻撃を無効化するスライムに対し、冒険者はスライムを討伐することができず、怯えた生きていた。 そんな中、不慮の交通事故で死んでしまった16歳の高校生がその世界に転生。 前世で培ったゲーム・アニメ知識を駆使し、難攻不落のスライムを滅ぼす冒険に出る...!

錬金術師はかく語りき

三塚 章
ファンタジー
私はある飲み屋で高名な錬金術師イルミナとであう。彼女になぜ錬金術師になったのか訪ねてみると返ってきた答えは……他の投稿サイトでも掲載。 転生なしの異世界。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

一夜明けたら性生活が一変してた

貴林
BL
朝目覚めると、隣に男が・・・ 昨日とは異なる日常が始まる。 男と男のHな絡み合い。

処理中です...