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第二章 サザンソルト国
第十二話 サユミとタルーシャ
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城の裏手は、波が荒々しく叩きつける崖になっていて、よそものを受け付けない。城下の見える方に向かって歩く二人。
「ねえ、タル?」
「ん?」
「国王になるって大変だよね?」
街の様子が見えるところで、立ち止まる二人。
「うん、でも、私の場合は摂政が代理を勤めてるし、お爺様が健在なのが救いね。国王とは名ばかりね」
「でも、みんなに好かれてる」
「そうなのかな。私が王女だからじゃないかなって、時々思う」
「うん、わかるよ、それ。だから、うちの場合は父の判断で城からは通わずに王族とは縁遠い親戚のおじさんのところで普通に生活してたんだ。私が王女って知ってるのはあの四人だけ」
「へえ、それはかなり刺激的だね」
「今思えばね。でも、物心着く前からおじさんとこにいたから、私自身、私が王族だなんて最近まで知らなかったのよ」
「なんだか、サユミが羨ましい」
「ん?なんで?」
「だって、あんなに仲のいい友達がいるじゃない。それに比べて私には・・・」
タルーシャの手を取るサユミは、目が輝かせている。
「いるじゃない友達なら」
えっと、サユミを見るタルーシャ。
「目の前に一人。あとは、鍛冶場と図書室と厨房にも」
ふふっと、微笑むサユミ。
「ありがとう。なんだか照れるね」
サユミは、見張り台の屋根の上に小さな草を見つける。
[ヴァヴァンダー]
唱えると草の葉がちぎれ、サユミの元に舞い落ちる。
葉をクルクルと軽く巻くと口にくわえる。
最初は、ただ空気が漏れているだけだったが、そのうち、ブーーブーー
鴨の鳴き声みたいな音が出た。
思わず拍手をするタルーシャ。
もう一枚葉を取ると同じように丸め、タルーシャに渡すサユミ。
屋外に生える草の葉を口にくわえるなどしたことがなかったから、タルーシャは悩んだ。
得意そうに笛を吹くサユミを見てたまらずタルーシャも口にくわえる。
吹いてみた。スーースーー空気が抜ける。
「うまくいかないよ」
サユミが、口元を見せる。唇を内側に巻き込むようして葉をくわえる。
それを真似るタルーシャが吹いてみた。
スーースーーブーー 出た。
タルーシャが喜ぶ。
もう一度、スーーブーーブーーブーー
コツをつかんだ様子だ。
サユミも、一緒になって、ブーーブーーブーー
うふふふ。二人顔を見合わせると笑う。
調子が出てきた二人は、メチャクチャな合奏を始めた。
いつのまにか、夕日が山の向こうに沈もうとしている。
「ねえ、タル?」
「ん?」
「国王になるって大変だよね?」
街の様子が見えるところで、立ち止まる二人。
「うん、でも、私の場合は摂政が代理を勤めてるし、お爺様が健在なのが救いね。国王とは名ばかりね」
「でも、みんなに好かれてる」
「そうなのかな。私が王女だからじゃないかなって、時々思う」
「うん、わかるよ、それ。だから、うちの場合は父の判断で城からは通わずに王族とは縁遠い親戚のおじさんのところで普通に生活してたんだ。私が王女って知ってるのはあの四人だけ」
「へえ、それはかなり刺激的だね」
「今思えばね。でも、物心着く前からおじさんとこにいたから、私自身、私が王族だなんて最近まで知らなかったのよ」
「なんだか、サユミが羨ましい」
「ん?なんで?」
「だって、あんなに仲のいい友達がいるじゃない。それに比べて私には・・・」
タルーシャの手を取るサユミは、目が輝かせている。
「いるじゃない友達なら」
えっと、サユミを見るタルーシャ。
「目の前に一人。あとは、鍛冶場と図書室と厨房にも」
ふふっと、微笑むサユミ。
「ありがとう。なんだか照れるね」
サユミは、見張り台の屋根の上に小さな草を見つける。
[ヴァヴァンダー]
唱えると草の葉がちぎれ、サユミの元に舞い落ちる。
葉をクルクルと軽く巻くと口にくわえる。
最初は、ただ空気が漏れているだけだったが、そのうち、ブーーブーー
鴨の鳴き声みたいな音が出た。
思わず拍手をするタルーシャ。
もう一枚葉を取ると同じように丸め、タルーシャに渡すサユミ。
屋外に生える草の葉を口にくわえるなどしたことがなかったから、タルーシャは悩んだ。
得意そうに笛を吹くサユミを見てたまらずタルーシャも口にくわえる。
吹いてみた。スーースーー空気が抜ける。
「うまくいかないよ」
サユミが、口元を見せる。唇を内側に巻き込むようして葉をくわえる。
それを真似るタルーシャが吹いてみた。
スーースーーブーー 出た。
タルーシャが喜ぶ。
もう一度、スーーブーーブーーブーー
コツをつかんだ様子だ。
サユミも、一緒になって、ブーーブーーブーー
うふふふ。二人顔を見合わせると笑う。
調子が出てきた二人は、メチャクチャな合奏を始めた。
いつのまにか、夕日が山の向こうに沈もうとしている。
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