輝く草原を舞う葉の如く

貴林

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第一章 五大元素の術

第五話 ウッドウォーカー サマナ

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ガクリと膝を着き手を付き四つ這いになるハヤネ。
「さすがに、まいった・・」
風に包まれながら、葉が舞い落ちるようにゆっくりと降りてくるサユミを受け止めるマリカ。
元に戻った太陽の陽射し。
ナルセがハヤネを支える。
「さすがだよ、ハヤネ」
タクトがマリカと挟んで、ぐったりするサユミを支える。
「サユミ、大丈夫かな」
マリカがタクトの顔を見る。
「休むにしても、村がどうなってるか。わからないしな」
周囲を見渡すタクトは、黒い雲霧はないものの、あらゆる生き物が朽ちている様子が見てわかった。
「それに、今すぐ、戻りたいけど、サユミとハヤネがもう動けないよ」
うつむくタクトは、地表に小さな草が生えているのに気がついた。黒い雲霧を逃れていたのだ。
あっとするタクトは、顔を上げた。
「ちょっと、サユミを頼むよ」
言うと、サユミから離れて小さな草に近づく。
[バダホジャオガース]
タクトが草に向かって唱えると、ニョキニョキと大きくなり始める。
目覚めから大あくびをして背伸びをしているかのようだ。
背丈ほどまでになると、ピタリと止まってしまった。
あれ?っとなるタクト。見ると葉先がしおれている。
[パーニィニカラナ]
それを見ていたナルセが木に向かって手をかざしていた。
バシューーと、水が吹き出し木に注がれる。
タクトがニコリとしてナルセを見る。
「サンキュー」
[バダホジャオガース]
木が再び大きくなり始める。ニョキニョキと十メートルは伸びただろう。
「よし、[ブルクシュアートマ]頼む、うまく行ってくれ」
ボコボコとうねり始める木の幹。すると、木の幹の表面に顔らしいものが現れ始めた。その顔はあごの調子が悪いのか口をアグアグと動かすと話し始めた。
「あああ、私に何か用かな?」
木がしゃべった。
タクトも驚いているが、ナルセたちは、更に目を丸くしている。
タクトが木に話しかける。
「ウッドウォーカー、お願いがあります。私たちを村まで運んでくれませんか?」
ウッドウォーカーと呼ばれた木は、ふっと鼻で笑ったようだった。
「ウッドウォーカー?それは、君のことを おい、人間 と呼ぶようなものだ。私にも名前がある。サマナだ。それから、問に対しては、ノーだ。なぜ、私が君たちを運ばなければならないのかな?そんな義理はないが」
「サマナ、雲霧のせいで皆が生気を失ったのはご存知でしょう?」
「うむ、危うく私も飲まれるところだったよ。それがどうしたと言うのだね?」
「その雲霧を取り除いたのが僕たちです」
「うむ、見てたからの、知っておるよ」
「では、何とか運んで頂けませんか?仲間は疲れ果てています。どうか、お願いします」
タクトは、片膝を付くと敬意を表した。
マリカが止めようと近づこうとするがナルセが首振りながら止めた。
すると、サマナが、声を出して笑ったのだ。
「あはははは、これは、まいったの。人間。名はなんと言う?」
「タクトです」
うんうんと、ガサガサと頭を振るサマナ。
「タクトよ、お前は礼儀を重んじる良い奴だ。気に入ったぞ」
サマナは、枝の手を伸ばすと丸めた小枝の手を広げて葉っぱで包まれた袋を差し出してきた。
「木の実じゃ、持っていくと良い」
「あ、ありがとうございます。あの、これは?」
タクトは、葉っぱの包みを受け取る。
「タクトよ、お前ならそれを上手く使いこなすだろう」
サマナは、木の幹をよじり始めた。
片側の根っこを地表に出すと、反対側の根っこも地表に出した。
根が出るとさらに高さが増した。
枝の手を伸ばすサマナ。
ガサガサと隙だらけだった枝が葉で覆われお座敷のようになった。
「二人をここへ」
サユミとハヤネをそこに乗せるとサマナが今度は頭を下げる。
「さあ、乗った乗った。少し揺れるそ。落ちるなよ」
タクトとナルセとマリカが太めの枝の幹の付け根辺りに腰をおろした。
ガサガサガサゆっくりとサマナが立ち上がる。
タクトがはしゃぐ。
「うわ、たっけえ」
三階建てくらいの高さはあるだろう。かなり遠くまで見える。
ゆっくりと歩き始めるサマナ。
通いなれた道だったが、まったくの別世界であった。視線の違いもあったが世界に色がなかった。白と黒の世界。
目の前に広がる世界を見てナルセは愕然とした。
「なんだよ、これ。これが俺たちの街なのか?」
「あああ・・」
言葉をなくすタクト。
街路樹は全て枯れ、川の水は干上がり、花壇の花々は全てしおれてしまっている。
あちこちに、痩せこけ倒れている人々。
今すぐでも、降りて行って助けたかった。
「気持ちはわかるが、決して触れてはいけないよ。抜魂ばっこんされてしまうからね」
マリカが首を傾げ。
「ばっこん?」
ナルセが説明する。
「抜く魂。魂を抜くと書いて 抜魂」
「ああ、なるほど」
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