輝く草原を舞う葉の如く

貴林

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第二章 サザンソルト国

第十三話 王の間

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豪華な夕食を済ませ、来賓用の部屋に戻ったサユミたち。
マリカが興奮している。
「今日は、一日楽しかったぁ。あ、これ、みんなに」
テーブルに籠を置くマリカ。
「同じものだけど、それぞれに名を彫っておいたわ」
見ると鋼製のリストバンドであった。
「元素力を増幅すると言われるドラゴニウム鉱石から抽出したものを練り込んであるの」
タクトがリストバンドを装着して感心して見ている。
「へえ、マリカがねえ」
「そんなこと言うんなら、返してよ」
「ダメだよ。もらったものは返さないよ」
タクトが、舌を出してベエとする。
口をへの字にするマリカ。

コンコン、扉を叩く音。
ハヤネが、はい と答える。
ガチャリと、扉が開き執事が入ってくる。
「失礼致します。国王並び王女が王の間にて、お待ちで御座います。お話があるとのことで、お急ぎお越しになるようにと」
「なんだろう?急ぎって」
サユミがやや不安そうな顔をする。
「とにかく、行ってみればわかるよ」
ナルセが立ち上がり皆を促す。
「王の間って?」
タクトが口にするのを執事が聞いていて、それに答える。
「正面広間の階段下の扉を抜けた先で御座います」
「ありがとう」
執事が扉まで案内すると、頭を下げて入室を確認する。
扉を抜けると、正面奥に数段上がった所で、ギムネラ王とタルーシャ王女が腰掛けている。
両脇をまだこんなに人がいたのかと思うほど、役職についた者たちが並んで来賓を出迎える。
アマルとナップルも、そこにいた。
シリアは、列の一番奥に立っている。
「お待たせ致しました。お急ぎのお話があるとのことで参上致しました」
五人が、横一列に並ぶとナルセが挨拶をした。
「急に呼び立てて、申し訳ない。皆にわしの重臣らを紹介したくてな」

「皆から向かって右手に内政担当、左手に外政担当を任せている者たちじゃ」

「各担当責任者は、内政はシリア、外政はランテスが指揮しておる」
シリアが一歩前に出る。
「領地内の出来事を全般的に処理しております。シリアと申します」
続いてランテスが前に出る。
「領地の内外の攻守を任されております。ランテスと申します」
「シリアについては、存じておるであろう。ランテスは、我が国一の戦の猛者じゃ。王室近衛師団副師団長を勤め王女の警護担当でもある」
ギムネラ王が続ける。
「集まってもらったのは、其方らに頼みたいことがあっての」
ナルセが問いかける。
「頼みとは?」
「使者として、デタロワまで行ってもらいたい」
「デタロワ大陸ですか?ヤグスラ王が統治するノースウォーター国ですね?」
「うむ、ナルセは物知りよのぉ。話が早くて助かる」
「恐れ多いことで御座います」
ナルセがお辞儀をする。
「明朝、出立してもらいたい。イーストグラスランドでの出来事を伝えに行って欲しい」
もっと、ここでの生活を味わいたかったサユミが残念がる。
「明朝?」
「そこでじゃ、シリアとランテスを同行させることにした」
えっと、立ち上がるタルーシャ。
「では、私も一緒に」
「それは、無理じゃ」
孫とはいえ、厳しかった。
「どうしてです?お爺様」
「タルよ。お前にはここで王女としての勤めがあるのじゃぞ」
返す言葉がなく、玉座に座り込むタルーシャ。
ギムネラ王は、サユミたちに向き直ると
「必要なものは、全て積み込んでおる故、異論が無ければ明朝出立としたいが如何かな?」
「積み込む?と申されますと?」
ナルセは大体の予想はついていた。
「帆船を用意してある。我が国最大の船じゃ」
タクトが声を上げる。
「おお、船に乗れるのか」
重臣たちの視線がタクトに注がれる。
ギムネラがそれを手で制する。
「あははは、良い良い。其方らは、わしの孫のようなものじゃ」
軽くお辞儀をすると重臣たちは元の姿勢に戻った。
「シリア、ランテス」
はっと、直立するシリアとランテス。
「只今より二人は、この者たちの配下とする。それぞれが責務を全うするよう努めるのじゃ。良いな」
「はっ、かしこまりました」
シリアとランテスが敬礼をする。
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