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五章 闇より来たるもの(いやー さがしましたよ。)

第30話

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 俺の行く手を遮るように攻撃魔法が雨のごとく降りかかる。魔王の攻撃は俺に脱出の隙を与えなかった。俺は右手にフィーネ、左手にシルベルを抱えて動き回っていた。
 しかし、戦い方がせせこましい。人間ごときが逃げるのを阻止するとは。何だか随分と人間臭い魔王様のようだ。
 だが、それもそのはずだった。魔王は人間の指図で動いていたのだから。先ほどの白服が魔王の肩に乗り、魔王に「砕け」だの「叩け」だの命令している。その内、「行け、魔王ロボ!」とかいいだしかねない勢いである。
 シュールな風景だった。いや有り得ない風景に俺は唖然とした。魔王が人間の指示を聞くなんて。
 召喚者と召喚されたもの、本来は召喚者のほうが圧倒的に有利な立場である。召喚者が呼び出したものに命令をするのは普通である。だが、魔王と呼ばれる存在は全くの別だ。奴らは、人間の造った枷など意にも介さず、好き勝手に振舞う。これまで、魔王を呼び出したはいいが、魔王を御しきれずに滅んだ術者はそれこそ腐るほどいる。
 魔王に対し、人間が出来るのは、おべっかを使い、ご機嫌をうかがい、なだめすかし、なんとか自分の希望を叶えてもらうことだけだ。その魔王が素直に人間の命令を聞くとは。
 驚いている俺に白服の男は満足そうにうなずいた。
 「そうだ、貴様も派遣協会のものならば、ことの偉大さがわかるはずだ」
 「しかし、どうやったら・・・・・・こんなことが?」
 「何をいう。そもそも貴様ら派遣協会が考えついたことではないか」
 何?何ていいやがった。
 「いや、素晴らしいアイデアだよ。魔王の肉体だけを召喚して、それを意のままに操ろうなどとは。とても凡人の思いつくところではないわ」
 「肉体だけを召喚しただと?」
 「そうだ、こいつは魂のない空っぽよ。そして、私の声だけに反応するよう調整してある」
 白服に呼応するが如く、魔王は攻撃魔法を放ってくる。
 かわした俺に白服はいまいましそうにいった。
 「やはり、どうしても攻撃の精度が粗いな。実用には耐えんな」
 実用?こいつら、魔王を兵器として使う気でいやがるのか。
 白服のいった通り、魔王の攻撃はある程度の統制は取れていたが、詰めは甘い。このまま両手に子どもと犬を抱えたままでも攻撃を避け続けることはできるだろう。だが、俺には時間がない。
 とりあえずフィーネだけでも逃がさなくては。俺は、例の眠れる人型モンスターの群れに隠れた。
 魔王の攻撃が一旦止んだ。どうやら、このモンスターたちは白服にとって大事なものらしい。
 俺は上着を裂いて紐を作ると、その紐でフィーネをシルベルの体にくくり付けた。尻を叩き、走らせる。俺はシルベルが走り出したのとは別の方向に飛び出した。
 俺を見つけた白服は、魔王を駆り、容赦のない攻撃をしかけてきた。
 俺が飛び出した先には、さっき俺が失神させた男がいた。ちっ、まだのびてやがる。危ねえだろうが。
 戦闘場所を変えるか、そんなことを思った矢先、辺り一帯が炎に包まれた。業火フュラーの呪文だ。俺はとっさに障壁ワーンドの呪文を唱え、攻撃をしのいだ。俺の目の前で、失神していた男は炎に包まれ、一瞬で燃え尽きた。
 魔王を操る男にも、倒れていた男は見えていたはずである。
 「人型のモンスターは大事でも、仲間は死んでもかまわない、ってわけか」
 俺はいった。乾いた声だった。怒りでかえって冷静な物言いになっていた。
 悪びれることなく、白服はいった。
 「そうだ。あのモンスターの群れこそ、我らの研究の結晶よ。貴様ら派遣協会も興味があるのではないか?」
 俺は怒りのために沈黙していたのだが、白服は同意の沈黙と取ったようだ。話を続けた。
 「あの群れはな、この魔王のいわば、複製よ。大きさサイズと能力は、使い勝手が良いように抑えてはいるがな」
 無視しようと思ったが、思わず反応しちまった。俺は、人型モンスターと魔王を見比べた。確かに似ていた。いや、大きさ以外は瓜二つである。
 「そいつの複製だと・・・・・・。ということは、あのモンスターの群れも・・・・・・」
 「そうだ、あれらも魂なき空の肉体なのだ、魔王こいつと同じようにな。とはいえ、まだ魔王のように人の命令を聞くような調整はされておらんがな」
 あの人型モンスター、いや小型魔王か、あいつら眠ってたんじゃなくて、最初はなから魂がなかったのか。
 「魔王を兵士にってか。随分と物騒なもんを取り立てたもんだ」
 俺は呆れていった。
 「仕方あるまい。派遣協会に対抗するには、それしかなかったのだ。最初は他にもっと穏便な計画もあったのよ。おまえらがそうしているように、勇者を飼い馴らすとかの」
 やれやれ俺は派遣協会の人間じゃないんだが、どうも白服は俺を派遣協会の調査官だと思っているらしい。
 「だが、勇者を飼うにも我らは後発だ。数では劣るし、ノウハウもない。仮に数を揃えたとしても、勇者などおまえらの保護部の前には無力だ」
 ほっとけ。
 「なら、勇者と互角の力を持ち、保護部にも屈しないもの、つまりは魔王の力を利用するしかないだろう?」
 「事情はわかった。説明ありがとさん。取りあえず、おまえは自分の不運を呪っとけ」
 俺はいった。
 「不運だと?確かに、貴様にここまで入り込まれたのは失策だが、それも貴様を始末すればよいだけのこと」
 「だから、その始末ができないから、いってんの!」
 俺はむきになって、地団駄を踏むような感じでいった。
 俺の言葉に最初はきょとんとしていた白服だったが、やがて大声で笑い出した。
 「始末できない?始末できないだと?この魔王が見えんのか、貴様?」
 やれやれ、俺はさっきから逃げてばかりだったからな、こいつが俺のことただの調査官だと思うのも無理ないか。俺はため息をついた。
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