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四章 穏やかな日々(おお! わたし の ともだち!)
第26話
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僥倖というべきだろう。カミルは思った。
サウニアル国に不穏の動きありとの噂を聞きつけて、この北の辺境の町までやってきた。大昔の遺跡に調査の名目で、サウニアル中央から人が来ているという話だ。ただの人間ではない。サウニアル王立魔術学院の正式な魔道士という話だった。その遺跡で何が行われているのかを調査するのが、カミルの仕事である、いや仕事だった。
カミルは派遣協会の調査官だったのだ。
不穏の動きありといっても、現時点ではまだ噂の域を出ていない。
派遣協会はまだ今回の事を危険視してはいない。
おそらくは、太古の遺跡を利用して魔法の研究、開発をしようとしているのではないか、というのが本部の予想であり、カミルはそれを確認しにきたのだ。
魔法の研究や開発、これは別に特段責められるべきことではない。三大国及び派遣協会の間で結んだ条約にも抵触はしない。
それに、本当に単なる遺跡調査である可能性も捨てきれない。
だから、今回の調査行は退屈なルーチンワークで終わりそうだと、カミルは思っていたのだ。
それがなんと、逃亡中の勇者を見つけることになるとは。
町を歩いていたら、目の前の店、装身具の店だ、の扉が開き、中から一年前に逃亡した勇者が出てきたのだ。
最初に見た時は、どこかで見た顔だと思っただけだった。凶悪な人相だった。こんな悪相の人間は自分の知り合いにはいない。どこで会った人物だろうか。カミルは懸命に記憶を手繰り寄せた。そして、カミルは気づいた。男の顔が手配書の人相書きとそっくりであることを。
その勇者に続いて、もう一人、男が出てきた。
どうやら店の人間のようだ。何故か、顔を腫らしている。
店を出た二人の後をカミルはつけた。
町の外れまで来た勇者は辺りを見渡した後、走り出した。常人ではありえない速さである。間違いない、男は勇者だ。
そして、店員も勇者だった。普通の人間には有り得ないスピードで駆け出した勇者に遅れることなく、その店員も駆け出したからだ。
二人はあっという間に見えなくなった。
カミルは急いで、早馬の急使を立てた。早く派遣協会の本部に報せなければ。
突如として舞い込んだ手柄話に、カミルは興奮する気持ちを抑えられなかった。
数日後、両手に花束を抱え村へやってきた俺を迎えたのは失笑だった。
うるせー。似合わねえことは百も承知だ。
フィーネのご機嫌を伺うためだ。
子どもといえど、女だから花、というのはいかにも短絡的である。俺もそう思う。
いっておくが俺の案じゃない。俺はイレミアスに従ったまでである。
どうも、イレミアスには強固な信念があるらしい。女は花で落ちる、と。
本当かよ。大体、俺より世間知らずのくせして、その自信はなんだ。まあ結局はイレミアスも所詮は勇者だってことだなんだよな。あまりにも考えが雑だ。雑すぎる。コイツ、顔は美形だけど、もてない典型なんじゃあるまいか。俺は横に並ぶ綺麗な顔を眺めて思った。
だが結局、イレミアスの理論が正しいかどうかは、わからずじまいだった。
花を渡すはずの相手がいなかった。
フィーネは村にいなかったのだ。
「フィーネたちが町にいって、どれくらいだ?」
俺は村長に訊いた。
村では月に一度、当番のものが町へ買出しにいく。今回はフィーネの父親が当番だった。その買出しにフィーネも付いていったのだ。そして、それきりフィーネは父親ともども町から戻らないのだという。
「今日で三日目だ。三日前の朝、村を出ていった」
普通なら朝に村を出て、その日の夕方には町へ着く。そこで一泊して、次の日の午前中に買い物を済ませ、昼に町を出て日が暮れた夜に村へ戻る。それがいつもの買出しのパターンということだ。
「何で、フィーネなんか連れていったんだ?」
「どうも、あの首飾りを気に入ったようでな。町には他にも綺麗なものがあると思ったらしい。どうしても町を見物したいといって、きかなくてな」
村長はいいづらそうにして、俺に告げた。
やれやれ、やっぱ子どもにアクセサリーなんてやるもんじゃねえな。
俺はため息をついた。
「まあ気にするでない。いずれ町を見たいといいだす頃だと思っておったし、わしらもその内、連れていってやろうとは思っていたのよ」
村長の慰めにも俺の心は晴れない。
冷静に考えれば、そう不安がることはないかもしれない。初めての町に大はしゃぎで、帰るのを遅らせているだけかもしれない。
だが、俺には悪い予感があった。
俺は町に向かうことにした。
サウニアル国に不穏の動きありとの噂を聞きつけて、この北の辺境の町までやってきた。大昔の遺跡に調査の名目で、サウニアル中央から人が来ているという話だ。ただの人間ではない。サウニアル王立魔術学院の正式な魔道士という話だった。その遺跡で何が行われているのかを調査するのが、カミルの仕事である、いや仕事だった。
カミルは派遣協会の調査官だったのだ。
不穏の動きありといっても、現時点ではまだ噂の域を出ていない。
派遣協会はまだ今回の事を危険視してはいない。
おそらくは、太古の遺跡を利用して魔法の研究、開発をしようとしているのではないか、というのが本部の予想であり、カミルはそれを確認しにきたのだ。
魔法の研究や開発、これは別に特段責められるべきことではない。三大国及び派遣協会の間で結んだ条約にも抵触はしない。
それに、本当に単なる遺跡調査である可能性も捨てきれない。
だから、今回の調査行は退屈なルーチンワークで終わりそうだと、カミルは思っていたのだ。
それがなんと、逃亡中の勇者を見つけることになるとは。
町を歩いていたら、目の前の店、装身具の店だ、の扉が開き、中から一年前に逃亡した勇者が出てきたのだ。
最初に見た時は、どこかで見た顔だと思っただけだった。凶悪な人相だった。こんな悪相の人間は自分の知り合いにはいない。どこで会った人物だろうか。カミルは懸命に記憶を手繰り寄せた。そして、カミルは気づいた。男の顔が手配書の人相書きとそっくりであることを。
その勇者に続いて、もう一人、男が出てきた。
どうやら店の人間のようだ。何故か、顔を腫らしている。
店を出た二人の後をカミルはつけた。
町の外れまで来た勇者は辺りを見渡した後、走り出した。常人ではありえない速さである。間違いない、男は勇者だ。
そして、店員も勇者だった。普通の人間には有り得ないスピードで駆け出した勇者に遅れることなく、その店員も駆け出したからだ。
二人はあっという間に見えなくなった。
カミルは急いで、早馬の急使を立てた。早く派遣協会の本部に報せなければ。
突如として舞い込んだ手柄話に、カミルは興奮する気持ちを抑えられなかった。
数日後、両手に花束を抱え村へやってきた俺を迎えたのは失笑だった。
うるせー。似合わねえことは百も承知だ。
フィーネのご機嫌を伺うためだ。
子どもといえど、女だから花、というのはいかにも短絡的である。俺もそう思う。
いっておくが俺の案じゃない。俺はイレミアスに従ったまでである。
どうも、イレミアスには強固な信念があるらしい。女は花で落ちる、と。
本当かよ。大体、俺より世間知らずのくせして、その自信はなんだ。まあ結局はイレミアスも所詮は勇者だってことだなんだよな。あまりにも考えが雑だ。雑すぎる。コイツ、顔は美形だけど、もてない典型なんじゃあるまいか。俺は横に並ぶ綺麗な顔を眺めて思った。
だが結局、イレミアスの理論が正しいかどうかは、わからずじまいだった。
花を渡すはずの相手がいなかった。
フィーネは村にいなかったのだ。
「フィーネたちが町にいって、どれくらいだ?」
俺は村長に訊いた。
村では月に一度、当番のものが町へ買出しにいく。今回はフィーネの父親が当番だった。その買出しにフィーネも付いていったのだ。そして、それきりフィーネは父親ともども町から戻らないのだという。
「今日で三日目だ。三日前の朝、村を出ていった」
普通なら朝に村を出て、その日の夕方には町へ着く。そこで一泊して、次の日の午前中に買い物を済ませ、昼に町を出て日が暮れた夜に村へ戻る。それがいつもの買出しのパターンということだ。
「何で、フィーネなんか連れていったんだ?」
「どうも、あの首飾りを気に入ったようでな。町には他にも綺麗なものがあると思ったらしい。どうしても町を見物したいといって、きかなくてな」
村長はいいづらそうにして、俺に告げた。
やれやれ、やっぱ子どもにアクセサリーなんてやるもんじゃねえな。
俺はため息をついた。
「まあ気にするでない。いずれ町を見たいといいだす頃だと思っておったし、わしらもその内、連れていってやろうとは思っていたのよ」
村長の慰めにも俺の心は晴れない。
冷静に考えれば、そう不安がることはないかもしれない。初めての町に大はしゃぎで、帰るのを遅らせているだけかもしれない。
だが、俺には悪い予感があった。
俺は町に向かうことにした。
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