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三章 自由への道(にんげんになるのが ゆめなんだ。)
第17話
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その時、俺の手に剣があらわれた。
幅広の大剣である。周囲にいた客の誰かが、投げてよこしたのだ。
理解する前に、俺は攻撃に転じていた。
さすがの保護部も俺に武器がないと思い込み油断していた。
俺は一気に距離を詰めると、稲妻のような突きを見舞った。全部で四連撃。倒すのが目的ではない。俺の狙いは奴らの持つ銃だった。狙いは過たず、剣は奴らの銃を破壊した。こうなってしまっては、保護部もただの人である。怯えるように後ずさる奴らに俺は拳を叩き込んだ。
うずくまる四人。残る保護部は二人だ。だが、これは腐っても勇者である。ランプレヒトが何とか倒していた。
そうだ、イレミアスは?
後ろを振り返ると、イレミアスも戦闘を終えていた。保護部がイレミアスの足元にひれ伏すように倒れている。さすがである。
だが、さしものイレミアスも無手では苦戦は免れないはずだが・・・・・・、俺はそう思ったが、イレミアスの手に剣が握られているのを見て思い出した。イレミアスの武器はもとは、ランプレヒトが不正に外部から持ち込んだものである。最初から赤錆の魔法はかけられていなかったのだ。
「やれやれ、おまえの狡っ辛さに感謝する日がこようとはな」
俺は苦笑した。
「それよりも勇者に助け舟出す奴なんていたんだな」
ランプレヒトは俺の手にある大剣を眩しそうに見つめた。業物には違いないが、ただの剣である。だが、ランプレヒトはまるで神話上の武具を見つめるような目つきである。
三十四人時代は今から二百年も前のこととはいえ、派遣協会の熱心なプロパガンダもあいまって、勇者に対する恐怖感、不信、反感は根強い。おまけに今俺たちは逃走中である。逃走中の勇者を助けたとあっては、後々、派遣協会から何をされるかわかったものではない。
そんな状況の中、俺たちを助けたんだ。およそ感謝というものを知らないランプレヒトも感銘を受けようというものだ。
周りの目もあってのことだろう。助け主は名乗りでる気はないらしい。
もっとも、俺は誰が助けてくれたかわかっていた。
よこされた大剣に見覚えがあった。
人ごみの中にいかつい女戦士を見た気がした。
ありがとうよ、ディトリンデ。
俺は心の中で告げて、出口へ向かった。
コロシアムの外に出ると、保護部が待ち構えていた。
俺たちは奴らと戦って勝つ必要はない。どこか一ヶ所でいい、包囲を破って逃げればいい。それに何といっても俺たちにはイレミアスがいる。
だが、懸念はあった。
先ほどまでのコロシアム内部と違い、今は周りに一般人はいない。一般人に累が及ぶのを恐れて使えなかった凶悪な魔法弾もここでは使用可能だ。
凶悪な魔法弾とは何か。
全てを焼き尽くす炎の魔法弾か。違う。
全てを静止させる氷の魔法弾か。違う。
炎や氷の魔法など勇者にとっては何ほどのものでもない。こちらの体力を奪いこそすれ決定打にはならない。
勇者がおそれるもの、それは、病の魔法弾である。
病気を人為的に引き起こす魔法を弾頭に詰めた、特殊な魔法弾だ。
病の魔法自体、最近になって発明された魔法である。開発したのは他ならぬ派遣協会だ。つまり、病の魔法は対勇者用に開発された特殊な魔法だった。
頑健な肉体を持つ勇者も病気には勝てない、というのは昔から知られていたことだった。勇者の病気への耐性は一般の人間と全く変わりがない。流行り病があった時などは、収容所内でも何人もの勇者が死んでしまったのだ。
そのことに着目した派遣協会は病の魔法を独自に研究、開発したのである。
話では、青隈病という病気を起こす魔法らしい。青隈病は全身に青い縞が出来て死んでしまう奇病らしいが、ほとんどの人間はその存在すら知らない珍しい病気である。派遣協会がこの病気を選んだのには理由がある。一つには致死率の高さ。そして、もう一つは、この青隈病が人から人に感染することは滅多にないからだ。この病気ならば、魔法を受けて病気になったものが、それを広めるといった恐れがほとんどない。
だが、この病の魔法弾は派遣協会にとっても最後の手段である。使用するということは、その勇者を殺すということである。勇者は大切な人的資源だ。殺すのは派遣協会としても避けたいところだろう。
はてさて、今目の前にいる保護部の連中は、病の魔法弾を装填しているのか、否か。
いくら考えてもしょうがない。俺たちにはとにかく前に進むしか選択肢はないのだから。
覚悟を決めた俺は保護部へ突進した。ま、何とかなるだろ。病の魔法弾食らったからとしても必ず病気になるわけじゃないし、何といっても、俺は不死身だしな。
俺はそう自らを励ましたが、実は絶対の自信があるわけじゃなかった。何故なら、俺は確かに不死身だが、病気には普通にかかるからだ。季節の変わり目なんか、よく風邪ひいてるよ。
俺はあくまで死なないだけであって、病気にはかかるのだ。俺が今までなった病気はどれも軽いもので、俺は死病と呼ばれるような深刻な病気にかかったことはない。不死の俺が死病にかかったら、どうなるのか。それは俺にもわからない。
正面突破あるのみ。俺たちはあらかじめそう決めていた。
病の魔法弾が使用される可能性を考えて、俺は先頭に立ち盾となった。
俺に降り注ぐ魔法の嵐が、俺の力を速さを削ぐ。俺は攻撃はせず、かけられた魔法の解除に専念した。言うなれば俺は囮だ。俺は最初から攻撃に参加するつもりはなかった。だから、俺にいくら魔法をかけても無駄なのだ。攻撃はイレミアスの役目である。ランプレヒトも攻撃はしないで、魔法の解除に専念した。
イレミアスが一度剣を振るうごとに保護部の奴らは将棋倒しに倒れていく。包囲網はイレミアスの尋常ではない攻撃力によって(無論、俺が囮としての役目を果たした結果でもあるが)、あっさりと破られた。さすが、本当にこいつはすげえな。
俺たちはついに囲みを破った。
結局、病の魔法弾は使用されなかった。派遣協会も多少は人間らしさが残っていたのか。それとも俺たち(というかイレミアス)の力を見誤ったのか、どちらかはわからないが、もうそんなことはどうでもいい。俺は思わず歓声を上げ、腕を突き上げた。
最後におまけとばかりに、俺は保護部の連中へ手を振った。今回ばかりは驚きと悔しさの感情を露にした保護部を置き去りにして、俺たちは全速力でその場を立ち去った。
幅広の大剣である。周囲にいた客の誰かが、投げてよこしたのだ。
理解する前に、俺は攻撃に転じていた。
さすがの保護部も俺に武器がないと思い込み油断していた。
俺は一気に距離を詰めると、稲妻のような突きを見舞った。全部で四連撃。倒すのが目的ではない。俺の狙いは奴らの持つ銃だった。狙いは過たず、剣は奴らの銃を破壊した。こうなってしまっては、保護部もただの人である。怯えるように後ずさる奴らに俺は拳を叩き込んだ。
うずくまる四人。残る保護部は二人だ。だが、これは腐っても勇者である。ランプレヒトが何とか倒していた。
そうだ、イレミアスは?
後ろを振り返ると、イレミアスも戦闘を終えていた。保護部がイレミアスの足元にひれ伏すように倒れている。さすがである。
だが、さしものイレミアスも無手では苦戦は免れないはずだが・・・・・・、俺はそう思ったが、イレミアスの手に剣が握られているのを見て思い出した。イレミアスの武器はもとは、ランプレヒトが不正に外部から持ち込んだものである。最初から赤錆の魔法はかけられていなかったのだ。
「やれやれ、おまえの狡っ辛さに感謝する日がこようとはな」
俺は苦笑した。
「それよりも勇者に助け舟出す奴なんていたんだな」
ランプレヒトは俺の手にある大剣を眩しそうに見つめた。業物には違いないが、ただの剣である。だが、ランプレヒトはまるで神話上の武具を見つめるような目つきである。
三十四人時代は今から二百年も前のこととはいえ、派遣協会の熱心なプロパガンダもあいまって、勇者に対する恐怖感、不信、反感は根強い。おまけに今俺たちは逃走中である。逃走中の勇者を助けたとあっては、後々、派遣協会から何をされるかわかったものではない。
そんな状況の中、俺たちを助けたんだ。およそ感謝というものを知らないランプレヒトも感銘を受けようというものだ。
周りの目もあってのことだろう。助け主は名乗りでる気はないらしい。
もっとも、俺は誰が助けてくれたかわかっていた。
よこされた大剣に見覚えがあった。
人ごみの中にいかつい女戦士を見た気がした。
ありがとうよ、ディトリンデ。
俺は心の中で告げて、出口へ向かった。
コロシアムの外に出ると、保護部が待ち構えていた。
俺たちは奴らと戦って勝つ必要はない。どこか一ヶ所でいい、包囲を破って逃げればいい。それに何といっても俺たちにはイレミアスがいる。
だが、懸念はあった。
先ほどまでのコロシアム内部と違い、今は周りに一般人はいない。一般人に累が及ぶのを恐れて使えなかった凶悪な魔法弾もここでは使用可能だ。
凶悪な魔法弾とは何か。
全てを焼き尽くす炎の魔法弾か。違う。
全てを静止させる氷の魔法弾か。違う。
炎や氷の魔法など勇者にとっては何ほどのものでもない。こちらの体力を奪いこそすれ決定打にはならない。
勇者がおそれるもの、それは、病の魔法弾である。
病気を人為的に引き起こす魔法を弾頭に詰めた、特殊な魔法弾だ。
病の魔法自体、最近になって発明された魔法である。開発したのは他ならぬ派遣協会だ。つまり、病の魔法は対勇者用に開発された特殊な魔法だった。
頑健な肉体を持つ勇者も病気には勝てない、というのは昔から知られていたことだった。勇者の病気への耐性は一般の人間と全く変わりがない。流行り病があった時などは、収容所内でも何人もの勇者が死んでしまったのだ。
そのことに着目した派遣協会は病の魔法を独自に研究、開発したのである。
話では、青隈病という病気を起こす魔法らしい。青隈病は全身に青い縞が出来て死んでしまう奇病らしいが、ほとんどの人間はその存在すら知らない珍しい病気である。派遣協会がこの病気を選んだのには理由がある。一つには致死率の高さ。そして、もう一つは、この青隈病が人から人に感染することは滅多にないからだ。この病気ならば、魔法を受けて病気になったものが、それを広めるといった恐れがほとんどない。
だが、この病の魔法弾は派遣協会にとっても最後の手段である。使用するということは、その勇者を殺すということである。勇者は大切な人的資源だ。殺すのは派遣協会としても避けたいところだろう。
はてさて、今目の前にいる保護部の連中は、病の魔法弾を装填しているのか、否か。
いくら考えてもしょうがない。俺たちにはとにかく前に進むしか選択肢はないのだから。
覚悟を決めた俺は保護部へ突進した。ま、何とかなるだろ。病の魔法弾食らったからとしても必ず病気になるわけじゃないし、何といっても、俺は不死身だしな。
俺はそう自らを励ましたが、実は絶対の自信があるわけじゃなかった。何故なら、俺は確かに不死身だが、病気には普通にかかるからだ。季節の変わり目なんか、よく風邪ひいてるよ。
俺はあくまで死なないだけであって、病気にはかかるのだ。俺が今までなった病気はどれも軽いもので、俺は死病と呼ばれるような深刻な病気にかかったことはない。不死の俺が死病にかかったら、どうなるのか。それは俺にもわからない。
正面突破あるのみ。俺たちはあらかじめそう決めていた。
病の魔法弾が使用される可能性を考えて、俺は先頭に立ち盾となった。
俺に降り注ぐ魔法の嵐が、俺の力を速さを削ぐ。俺は攻撃はせず、かけられた魔法の解除に専念した。言うなれば俺は囮だ。俺は最初から攻撃に参加するつもりはなかった。だから、俺にいくら魔法をかけても無駄なのだ。攻撃はイレミアスの役目である。ランプレヒトも攻撃はしないで、魔法の解除に専念した。
イレミアスが一度剣を振るうごとに保護部の奴らは将棋倒しに倒れていく。包囲網はイレミアスの尋常ではない攻撃力によって(無論、俺が囮としての役目を果たした結果でもあるが)、あっさりと破られた。さすが、本当にこいつはすげえな。
俺たちはついに囲みを破った。
結局、病の魔法弾は使用されなかった。派遣協会も多少は人間らしさが残っていたのか。それとも俺たち(というかイレミアス)の力を見誤ったのか、どちらかはわからないが、もうそんなことはどうでもいい。俺は思わず歓声を上げ、腕を突き上げた。
最後におまけとばかりに、俺は保護部の連中へ手を振った。今回ばかりは驚きと悔しさの感情を露にした保護部を置き去りにして、俺たちは全速力でその場を立ち去った。
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