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二章 激闘!武闘祭(なかまに なりたそうに こちらをみている!)

第9話

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 円形闘技場の地下控え室は熱気と殺気にあふれていた。というか、部屋の中はむさ苦しい男たちばかりで少し臭い。
 上の方から歓声があがった。第一試合が開始されたのだろう。
 俺は自分の出番を確かめるべく、手元のトーナメント表に目をやった。トーナメント表には第64回三山さんざん武闘祭と書かれている。予選の対戦表である。どんな奴が相手だろうと、勇者である俺の前に敵はいない。そういいたいところだが、そうもいかない。何故なら・・・・・・、
 この大会の参加者は全て勇者だからだ。

 三山武闘祭は、今年で六十四回目を迎える歴史ある武闘会だ。主催は我らが派遣協会、参加資格は勇者であること、である。
 ツヴァイテルにある三つの収容所全てが参加する、この武闘大会は年に一回毎年行われ、今や大陸全土に大会の存在は知らぬものはいないほどの一大イベントになっている。
 元々は俺たち勇者のガス抜きのために始まったらしい。狭い収容所に罪人さながらに閉じ込められているのだ。当然、そのストレスは半端ではない。
 魔王討伐の命を受けて、外に派遣されることはあるが、それだって、逃亡防止や能力抑止の処置を施された状態であって、とても気晴らしにはならない。
 そもそも、派遣されること自体滅多にないことだった。俺自身は、不死身という特殊な性質ゆえにお声がかかることが多いが、それでも年に一回あればいい方だ。勇者の中には、保護されて以来、一歩も塀の外に出たことがない、という奴だって珍しくないのだ。
 だが、開始当初は単なる俺たちの慰安に過ぎなかった武闘祭だが、今では、派遣協会の最も重要な活動の一つとなっていた。この三山武闘祭は一般人も見ることができる興行として行われる。そして、その興行収入は今や派遣協会の活動資金源となっていたのだ。
 派遣協会設立当初(その名が伝承研究会だったころ)は、サウニアル、セチゼン、ブラウミールの三大国の支援なくして組織の維持はできない状態だった。それ故、その頃の派遣協会は三大国の意向を無視して動くことはできなかったのだが、今は違った。
 武闘祭の興行収入は莫大だった。武闘祭見物料、関連グッズの売上、勝敗予想の賭博、これらの収入は大国の税収と匹敵するほどだといわれている。その結果、派遣協会は完全に三大国から独立した組織となり、今やその権力と発言力は三大国をしのいでいた。
 この武闘祭、派遣協会にはもう一つメリットがあった。プロパガンダにもってこいだったのだ。武闘祭で戒めを解かれた勇者は思う存分力を奮い、見物客はそれに熱狂する。また、見物客はそこで再確認するのだ。勇者の力の恐ろしさを。
 このように派遣協会にはいいことづくめの武闘祭だが、俺たちにとってはどうか。
 残念ながら、俺たちにとっても武闘祭は楽しみな出来事だった。無論、事情は知っている。俺たちの戦いが、結局はいけ好かない派遣協会の連中に利をもたらすことは百も承知だ。だが、それでも俺たちは退屈な日常に変化と刺激を求めてしまうのだ。
 もっとも今回に限っていえば、俺の関心は武闘祭にはなかった。何故なら・・・・・・、おっと、俺の名が呼ばれた。
 出番だった。
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