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西崎カオルの選択
しおりを挟む太陽の光を浴びてキラキラに輝くお花や、近所のお祭り会場でふわふわと踊るような風船を見た事が僕にはある。
そんな経験が貴重という話ではなく、お花が咲いている地域に関して、お日様が顔を出していればキラキラ輝くお花を容易に観察する事ができる。近所の祭りに顔を出せばちびっ子の手には空中でダンスを踊るかのように元気な風船を見掛けるだろう。
お花を摘んで持ち帰ってみたり、風船を買ってもいい。
時間が経てば次第に花は枯れて下を向き、風船は萎んで地に落ちる。じゃあ、僕の隣で項垂れている今井カナはどんな状態だろうか、考えてみよう。
完全に僕も忘れ去っていた。自分が受けさせた資格試験であるけれど、僕の中では重要度が高くない。受けるからには合格して欲しいが、資格だけの取得が目標では無く。資格試験を受けるという行為自体は、ただのキッカケでしか無い。
僕は未経験の『技術』に触れて欲しかった。
だから目的は既に達成されていると言っても過言ではない。とはいえ今井の頑張りは隣で見ていたからこそ、僕も何故か悔しい気持ちがゼロでは無い。
頑張ったからには報われて欲しいが、そう簡単には上手く行かないのが現実という敵だ。
口をパクパクと動かしてブツブツと何か呟き、心を失った後輩に僕は言葉を選ぶ。萎れた花は枯れて萎んだ風船はゴミとして捨てられるかもしれない。僕の隣にいる今井はバキバキに折れても生きてりゃ立ち直れるはずだ。
それが人である。生きていれば立ち直れると僕は考えている。しかし、心が折れた人の重症度にも寄るが簡単に立ち直れない場合も存在する。人は支え合っていると字を見て語る小学校時代の先生を思い出したが的を得ている。
誰がどう支えるかで立ち直るまでの時間が大きく異なる。学校の部活で心が折れたらコーチが支えるかチームメイトが支えるか……親や友達等の距離が近い人が支える事で効果に変動が見られるだろう。
さぁ、直属の上司である僕は今井の彼氏でもある。距離の近い僕が掛ける言葉次第で復活するまでの時間が変化してしまう。
「今井」
「あー、待ってください先輩。少しだけ……少しだけショックを受けているだけですので。もうちょい時間があれば合格できたとか、あーあぁ……合格できなかったらあんなに頑張ったのに無駄じゃーんとかで頭がぐるぐるしてるだけです」
ハプニングは覚えている、資料を間違えて途中までは別の勉強をしていた。僕がもう少し早めに時間を割ければ起きなかったミス。
「そういえば、今井と付き合って一ヶ月くらい経ったな。その……蟹でも食べに行くか?」
「……」
星の数以上あるであろう選択肢の中で僕は間違えたかも知れない。何故ならば、先程まで虚ろな目で死にそうな今井が瞳を点にして驚きのあまり声が出ないと言いたげな顔をしていた。
「せ……先輩……」
くしゃっと潰れた様な笑顔の表情は何かを我慢してるかのようで、非常に忙しない後輩が辛坊たまらず吹き出した。
「ぶはっ、一ヶ月の記念日って奴ですか? 先輩かーわーいーいー。あははっ」
涙目で笑う今井に僕は戸惑うばかりだった。ただ、口角が釣られて上がってしまう。
「で、どうする?」
「うふふ。もっちろん! 先輩の奢りで蟹を食べに行きましょう。いっちばん高いの選んじゃうんだからっ!」
「好きにしな」
合格点まであとわずか。チャレンジする事が出来て頑張れる新人社員――それが今井カナだ。
僕の財布から一万円が三枚くらい無くなったが、蟹を頬張る嬉しそうな顔が見れた。
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