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第七話 七夕の願いごと

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 そう言えば、今日は七月七日。
 七夕の日です。
 うちでも笹の葉を飾って、青・赤・黄・ 白・紫色の短冊を飾りつけましょうか。
 お願いごと、何にしましょうかねぇ?
 勿論、うちの商売繁盛は書いておきましたよ。
 あなたと私の生活を守るためにも、これは大切なことですから。
 
 ディアナ、そう言えばあなたと出会ったのも、七月七日。
 そう、ちょうど七夕の日だったのです。
 あの日は本当にひどい天気でした。
 まさに催涙雨。
 あの時あなたはまだ仔猫でしたが、覚えているでしょうか?

 あの日の雨はまるで、天の川が氾濫したかのような雨でした。
 天の川の水かさが増すと、織女は渡ることが出来ず、牽牛も彼女に会うことが出来ません。
 七夕伝説の二人が流した涙は、如何ほどのものだったのでしょうか。残念ながら、私は想像することしか出来ませんけれど。
 でも、今年は綺麗に晴れていますから、二人はきっと無事に逢えることでしょう。素敵な時間を送れると良いですね。

 おや? 着物の裾を強く引っ張られるような感覚がします。これは、明らかに誰かさんの仕業です。

 ふと足元に視線をやってみると、真っ黒い艶々とした美しい毛並みを持つ小動物が、私の藍色の着物の裾を小さな口で咥え、強く引っ張っている姿が目に入りました。私の愛猫のディアナ──予想通りです。かぎしっぽをまっすぐに立てて、ぷるぷると震わせていますが、これは一体どうしたと言うのでしょう? 私に構って欲しいのでしょうか?

「ディアナ? どうしました?」
「みゃ~う~……」

 その場にしゃがんでみると、彼女は待ってましたとばかりに、私の膝の上に勢い良く飛び乗ってきました。のどをごろごろ鳴らせつつ、その小さな顔を上げて、私の顔をじっと見つめてくるのです。首元にはアクアマリンのついた赤い首輪。瞳といっしょにきらきらと輝いています。

 その双眸──左眼が透き通るようなサンタマリア・アクアマリン、右眼が輝く黄金色のオッド・アイ──この瞳で見つめられると、途端に逃げられなくなります。やれやれ。自分よりも少し高い温もりが傍にあることに、私自身がこの上ない喜びを感じてしまっているようです。

「ごろごろごろ……」

 指で喉をゆっくりと優しくなでてやると、彼女は目を細めて気持ち良さそうな顔をしてきます。そうしつつも私の手に顔を擦り寄せてくるものですから、愛しさがこみ上げてきて、ますます彼女を離し難くなります。

 人間と猫では生きる時間が違います。それが分かっているだけに、少し胸の奥で痛む想いが通り過ぎることも良くあります。これだけはどうにもなりません。しかし、彼女が元気で安らかに生きていけるよう、私はなるべく傍にいてやりたいと強く願うばかりです。これだけは、いつも変わらない私の願いです。

 ああ、少しずつ外が暗くなって来ました。
 時間が過ぎるのは、早いものです。
 ほらディアナ、ご覧なさい。琴座の一頭星が見えてきましたよ。明るくて、とっても綺麗ですねぇ。あなたは織姫星に何をお願いしますか?
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