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第三章 奪われし国

第二十七話 燃やされた国旗

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 アルモリカ王国の首都、ガリアにそびえ立つリアヌ城。
  
 白い石造の壁、青い屋根を持ち、
 ゴシックやルネサンスの要素を含んだ、ロマネスク様式の建物である。周りはほぼ海に囲まれているという、まさに海の王国らしい造りだ。
 天気が良く、風が少なければ水面に綺麗に逆さの城が見えるらしい。今日は風が吹いているため、さざ波が邪魔して不明瞭だ。 
 
 レイア達は岩陰に隠れながらその城を見上げていた。  
 
「このお城がリアヌ城?」
「ああ、ここがそうだ。私が生まれ育った場所だ」
「どうやって入り込もうか? 見張りの兵達がいなさそうな場所は……」
「私について来てくれ。あの場所は多分そう簡単に見つからないはずだから」 
「? ……ああ、分かった」
 
 レイア達は隠れながらアリオンの後ろについていった。四人とも、アルモリカ王国に入るまでにあらかじめ手に入れておいた、黒い外套に着替えている。
 カンペルロ王国の者達は黒い衣服を着ているので、せめて外套だけでもと黒にしたのだ。勿論、フードを目深に被っている。
  
 突然、先頭を歩いていたアリオンが歩みを止めた。
 後を歩いていた三人は互いにぶつかりそうになる。
 
「アリオン?」
 
 彼らが王子の視線の先を追ってみると、城に掲げられている一棹の旗が見えた。
 それは風にあおられて、バサリバサリと音を立てている。
 黒を基調とし、紫が差し色として縁取られた国旗だ。
 それには、炎のような紋が描かれていた。
 それは、紛れもなくカンペルロ王国の国旗だった。
 その旗が、己の生まれ育った城に堂々と掲げられている。
 
 よく見ると、その下にあたる地面に、何か黒ずんだものが捨て置かれていた。
 竿は無惨にもへし折られ、全体のほとんどが焼き焦げて真っ黒になっているが、一部焼き残っている部分もあった。
 それは、青緑色の布だった。
 波の模様の一部がかろうじて見える。
 何かで切られた跡があちこちあり、ぼろぼろの状態である。
 これは紛れもなくアルモリカ王国の国旗だ。 
 降ろされた後で、どうやら火にくべられたようである。
 まるで火葬された後。 
 あまりの酷さに、一同言葉がすぐには出てこなかった。
 
「……見せしめだな。これは……」
 
 レイアはごくりとつばを飲み込んだ。
 外した旗をずたずたにして、わざと見えるところに置いているのは、己の力を誇示するためなのだろう。
 
 勝者と敗者。
 勝者には光り輝く未来。
 敗者には闇に沈む未来。
 とでも言いたいのだろうか。 
 
「酷いだろうが、これがこの国の現実だ。このままでは覆すことさえ、危ういな」 
 
 アーサーの感想に対し、アリオンは表情一つ変えず、無言のままである。
 微動だにせず、たたずんでいた。
 アリオンの右袖をひく者がいる。
 その方向に視線をやってみると、空色の瞳が見上げてきた。心配そうな表情をしている。
 
「アリオン……大丈夫?」
「……私は大丈夫だ。すまない。そろそろ行こうか。あの茂みの中に隠し通路の入口がある」 
 
 アリオンが指差すところに大きな茂みがあり、葉をよけてみると蓋のような扉が現れた。
 人一人は通れる大きさだ。
 アーサーが手をかけてみたが、びくともしない。
 アリオンがそれに手をかざし、何か呪文をぶつぶつと唱えると、それは簡単に開いた。
 彼が言うには、その扉は王族にしか開けられないしかけになっているらしい。

 下に降りるためのはしごはあるが、途中からぱっくりと口を開いた闇の中へ溶け込んでいる。
 暗くて見えない。
 セレナがごくりとつばを飲み込んだ。
  
「さあ、兵に見つかる前に、みんな急いで中に入ってくれ。はしごの下まで降りても大丈夫だから」 
  
 王子の声を聞いたレイア達は、一人ずつその中へと入り込んだ。
 最後にアリオンが入り、呪文を唱えると扉は静かに閉まって元通りとなった。
 
 ⚔ ⚔ ⚔
 
 扉を閉める前に、アリオンは呪文を唱えた。
 すると、手のひらサイズの青緑色をした、見た目しゃぼん玉のようなものが四つ出現した。
 それは王子の身体の周りをよふよと浮きつつ、柔らかい光を放っている。
 そして、それは次第に下へと降りてゆき、はしごを降り終えたアーサー達の周りをそれぞれ漂い始めた。
 真っ暗闇の中をふわふわと漂う青緑色の灯りが、何とも幻想的だ。
 
「何これ? アリオンひょっとして灯りを出してくれたの?」
「ああ。術で出した。ランタンのようなものだ。これなら水があってもろうそくと違って消える心配はないし、そう簡単には壊れない」
「ありがとう。へぇ~凄い! これは便利だな。 ねぇ、これひょっとして触れる?」
「触っても特に問題はないが、何の感触もないと思う。あまり期待しない方が良いかもしれない」
 
 レイアはそれを試しに人差し指でつんつんとつついてみたが、何の手応えもなく指はすかすかと通り抜けた。
 それでも、彼女は面白そうに目を輝かせている。
 きっと、その灯りの反応よりも、珍しさの方が上回っていたからだろう。
  
「でもこれがあるということは、あんたが〝力〟を使いっぱなしということだよね……大丈夫か?」
「大丈夫だよ。使う力はごく微量だし、ここは私達人魚族の土地だから、〝力〟を補填出来る場所があちこちにある。レイア。気にかけてくれて、ありがとう」
 
 アリオンは心配無用とばかりに微笑んだ。
 
「そのまま進もう。みんな、私の後についてきてくれ」
 
 レイア達はアリオンと灯りに導かれながら地下道を歩いて行った。 
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