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番外編

第九話 レイアの想い(*)☆

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 彼を例えるとするなら、春の海。
 暖かくて穏やか。
 心地良すぎて、いつまでも包まれていたくなる。
 そんな、優しい海だ。

 彼は普段とっても物静かなのに、夜になると凄く情熱的になる。その熱い眼差しを向けられるのは私だけ。正直くすぐったいような、不思議な気分だ。
 
 彼の優しい瞳が好き。
 温かい金茶色の瞳も好きだけど、パライバトルマリン色に輝く美しい瞳も好きだ。
 ずっと見つめていたくなる、とろけるような、幻の色。
 眺めていると、美しく透明な息吹が身体中に流れ込んで来るような、澄んだ穏やかさを感じるのだ。

 私は今まで戦いに身をおいていたから、他の誰にも肌を許すことは全くなかった。
 でも彼は特別だ。
 隠す必要はない。強がる必要もない。
 その安心感が、私の鎧で覆われていた心を少しずつ解きほぐしてゆく。
 波にさらわれ崩れてゆく、浜辺に作られた砂城のように。

「レイア……愛してるよ……」

 彼の息遣い、
 彼の汗ばんだ肌、
 彼の匂いが私の身体を包み込む。
 あっと言う間に大きな波に飲み込まれ、意識が海の底にまで引きずり込まれてしまう。
 そうなるともう、彼のことしか考えられなくなるのだ。

「レイア……きれいだよ……」

 耳から注ぎ込まれる熱くて優しいささやき声。
 身体中に感じる水蜜桃を吸うような唇の感触。
 初めての時も、こわばる身体を彼の指が優しくゆっくりと解してくれた。

 真っ暗な闇の中を揺れ動く光の影。
 二人しか知らない所へ、ともにこぎ出してゆく。
 寄せては返し、返しては寄せる波の音。
 尽きることのない調べが、身体中を響き渡り、
 大きなうねりが、意識を静かに奪い去ってゆく。
 しっとりとすいつくような感触は、
 さざなみのように指の先まで伝わっていく。
 一度知ってしまうと、抜け出せない。
 まず、抜け出そうとも思わなくなる。
 ゆっくりと押し流されて、海の底へゆうるりと沈んでゆくように感じる。

 でも海の底って、一体どんな感じなのだろうか。
 昔本で読んだことはあるけど、まだ見たことはない。
 どんな魚達が泳いでいるのだろう。
 カメもいるのかな。
 サンゴ礁って、どんなものだろうか。
 ここは透き通るような美しい海だから、きっと、美しいのだろうな。
 出来ることなら、この目で見てみたい。

 人間の私も行くことが出来るのだろうか?
 ねぇアリオン、お願い、いつか連れていって欲しいな。
 海底を一緒に散歩してみたい。
 人魚の彼と一緒なら、どこまでも行ける、
 そんな気がするんだ──。

 ──完──
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