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第五章 革命の時
第五十二話 こぼれ落ちた涙
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アエスに刺され、口から血を吐きながら前かがみに崩れ落ちるレイアの身体を、アリオンは両腕で抱き止めた。真っ白な上着と白皙の頬に彼女の真っ赤な血潮がまとわりつく。自分にかけられた術は解けたが、彼の心は刺された痛みで張り裂けそうになっていた。
「レイア!……レイア……!!」
「……ア……リオン……」
アリオンの腕の中でレイアは苦痛で顔を歪めていた。左胸の傷口からは血が溢れ出し、まるで潮が満ちてくるようにどす黒いしみが服に広がってゆく。
「何故無茶なことを……!!」
「ごめん……あんたが危ないと思ったら、身体がつい、勝手に動いてしまって……」
「レイア……」
「私と違って……あんたには……帰りを待っている者がいるから……ここで……死なせるわけには……いかない……!」
力なく答える口から、苦しそうな息が漏れる。血を失ったために、唇が紙のように真っ白となっていた。自分を案じる顔をして見上げてくるその瞳は、激痛に霞みながらも、光を失わないように堪らえているかのようだ。それなのに、彼女は震える右手をアリオンの血に濡れた頬にあて、彼の苦しみを癒やそうとしている。いじらしさのあまり、アリオンはその上から自分の左手を添えた。レイアは口から血を流しながらも、必死の思いで唇を動かし続けた。
「……レイア……」
「はぁっ……あんたは……生きて……国を……取り戻すんだ……」
「レイア……!!」
「……私は……あんたに会えて……良かったよ……」
レイアはそれっきり言葉を発することはなかった。右手から力が抜け、下にだらりと垂れ下がる。目が半開きのままで、どこかぼんやりと虚空を眺めているようだ。
――このままでは危ない。
「レイア……嘘……!!」
セレナが真っ青になって口を押さえ、後ろに倒れそうになるのをアーサーが背後から抱き止めた。己の腕の中で震える肩を抱き締めながら、彼は歯を食いしばり何か言いたげだが、上手く言葉にならないようだ。
「レイア……!! レイア……!!」
アリオンは腕の中にいる少女の身体を揺さぶり、何度も何度も呼びかけたが、彼女の反応はもうなかった。恐らく、意識が失われているのだろう。呼吸が段々浅くなってきている。
「レイア……お願いだ……目を開けてくれ……!!」
その時、熱い涙がつき走るように金茶色の目から一筋こぼれ落ちてきた。するとそれは、玻璃のように光り、眩く辺りを照らし始めた。
「アリオン……?」
こぼれ落ちた一粒の涙は、やがて虹色に輝く水晶へと変化した。真珠位の大きさであるそれは、ダイヤモンドよりも輝きが強かった。純粋で繊細な光が周囲に満ち溢れている。
(あれがひょっとして……アリオンの〝涙〟……? )
アーサーとセレナが息を潜めて見守る中、アリオンはその水晶を手に取って静かに眺めていた。七色に輝く大変美しい水晶で、壊れそうな位に切なく儚い輝きを静かに放っている。
「……」
彼は何を思ったのかそれをそっと口に含んだ。
そしてそのまま身をかがめ、ゆっくりとレイアの唇を自分のそれで覆った。
そしてレイアの身体を愛おしそうに抱き寄せ、そのまま動かなくなった――彼女の左胸の傷口に手をあてたまま……
やがて彼の身体の周りから淡い青緑の光が現れ、それが半円状に広がり、レイア達四人を包んだ。
それは再び立ち上がったアエス王の攻撃から自分達の身を守るための、彼に出来る精一杯の抵抗だった。
こくん。
レイアののどがかすかだがゆっくりと動いた。それでも、しばらくアリオンは動かないままだった。レイアの唇からも離れないまま。
すると、王子の左手から青緑色の眩い光が解き放たれた。それは穏やかな春の海のような、柔らかい色の光だった。それが彼女の身体全体を優しく包み込む。今度は彼女の左胸の辺りからも、同じように光が発せられるのが見えた。こちらは真っ白な光だった。
青緑色の光と真っ白な光。それらの光が互いに交差し、やがて吸い込まれるように静かに消えた後、レイアのまぶたがぴくりと動いた。紙のように白くなっていた頬に赤味がゆっくりとだが、戻ってきている。出血はいつのまにか止まっていた。彼女の身体を支えるアリオンの右手に拍動が蘇るの感じ、思わず彼は息を飲んだ。
「レイア!……レイア……!!」
「……ア……リオン……」
アリオンの腕の中でレイアは苦痛で顔を歪めていた。左胸の傷口からは血が溢れ出し、まるで潮が満ちてくるようにどす黒いしみが服に広がってゆく。
「何故無茶なことを……!!」
「ごめん……あんたが危ないと思ったら、身体がつい、勝手に動いてしまって……」
「レイア……」
「私と違って……あんたには……帰りを待っている者がいるから……ここで……死なせるわけには……いかない……!」
力なく答える口から、苦しそうな息が漏れる。血を失ったために、唇が紙のように真っ白となっていた。自分を案じる顔をして見上げてくるその瞳は、激痛に霞みながらも、光を失わないように堪らえているかのようだ。それなのに、彼女は震える右手をアリオンの血に濡れた頬にあて、彼の苦しみを癒やそうとしている。いじらしさのあまり、アリオンはその上から自分の左手を添えた。レイアは口から血を流しながらも、必死の思いで唇を動かし続けた。
「……レイア……」
「はぁっ……あんたは……生きて……国を……取り戻すんだ……」
「レイア……!!」
「……私は……あんたに会えて……良かったよ……」
レイアはそれっきり言葉を発することはなかった。右手から力が抜け、下にだらりと垂れ下がる。目が半開きのままで、どこかぼんやりと虚空を眺めているようだ。
――このままでは危ない。
「レイア……嘘……!!」
セレナが真っ青になって口を押さえ、後ろに倒れそうになるのをアーサーが背後から抱き止めた。己の腕の中で震える肩を抱き締めながら、彼は歯を食いしばり何か言いたげだが、上手く言葉にならないようだ。
「レイア……!! レイア……!!」
アリオンは腕の中にいる少女の身体を揺さぶり、何度も何度も呼びかけたが、彼女の反応はもうなかった。恐らく、意識が失われているのだろう。呼吸が段々浅くなってきている。
「レイア……お願いだ……目を開けてくれ……!!」
その時、熱い涙がつき走るように金茶色の目から一筋こぼれ落ちてきた。するとそれは、玻璃のように光り、眩く辺りを照らし始めた。
「アリオン……?」
こぼれ落ちた一粒の涙は、やがて虹色に輝く水晶へと変化した。真珠位の大きさであるそれは、ダイヤモンドよりも輝きが強かった。純粋で繊細な光が周囲に満ち溢れている。
(あれがひょっとして……アリオンの〝涙〟……? )
アーサーとセレナが息を潜めて見守る中、アリオンはその水晶を手に取って静かに眺めていた。七色に輝く大変美しい水晶で、壊れそうな位に切なく儚い輝きを静かに放っている。
「……」
彼は何を思ったのかそれをそっと口に含んだ。
そしてそのまま身をかがめ、ゆっくりとレイアの唇を自分のそれで覆った。
そしてレイアの身体を愛おしそうに抱き寄せ、そのまま動かなくなった――彼女の左胸の傷口に手をあてたまま……
やがて彼の身体の周りから淡い青緑の光が現れ、それが半円状に広がり、レイア達四人を包んだ。
それは再び立ち上がったアエス王の攻撃から自分達の身を守るための、彼に出来る精一杯の抵抗だった。
こくん。
レイアののどがかすかだがゆっくりと動いた。それでも、しばらくアリオンは動かないままだった。レイアの唇からも離れないまま。
すると、王子の左手から青緑色の眩い光が解き放たれた。それは穏やかな春の海のような、柔らかい色の光だった。それが彼女の身体全体を優しく包み込む。今度は彼女の左胸の辺りからも、同じように光が発せられるのが見えた。こちらは真っ白な光だった。
青緑色の光と真っ白な光。それらの光が互いに交差し、やがて吸い込まれるように静かに消えた後、レイアのまぶたがぴくりと動いた。紙のように白くなっていた頬に赤味がゆっくりとだが、戻ってきている。出血はいつのまにか止まっていた。彼女の身体を支えるアリオンの右手に拍動が蘇るの感じ、思わず彼は息を飲んだ。
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