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第二章 南の国へ

第二十三話 レイチェルの手記より──約束

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 今日はとても大切な日。
 そう、レイア。
 あなたのお誕生日ですよ。
 空も綺麗に晴れていて、お日さまがあんなに喜んでいます。
 
 それなのに、レイアどうしました?
 今日の主役が曇り空だなんて。
 一体どうしたと言うのです?
 
 ……え? あなたが捨て子ですって?
 誰です? そんな失礼なことを言う人は。
 私に言いなさい。
 
 ……ああ。彼ですか。
 いつも遊び友達だったカミラのお兄ちゃんが、あなたにそんなことを。
 
 私が若すぎるって?
 あなたみたいな大きな子供がいるように見えないからって?
 
 そんなこと、言いたい人には好きに言わせておけば良いのです。
 いちいち気にしていてはだめ。
 大人になったらもっと傷付くことがありますからね。
 負けてしまいますよ。
 
 レイア。
 良く聞いて下さいね。
 あなたは捨て子ではありません。
 あなたのような愛らしい天使を捨てる親がいるはずがない。
 あなたのご両親はね。
 訳あってあなたを育てることが出来なくて、
 私に育てて欲しいと頼まれたの。
 お二人共あなたを嫌ってなんかいないわ。
 とても愛していらっしゃった。
 本当よ。
 私がこの目で見てきましたから。
 
 今のあなたには少し難しいから、
 もう少し大きくなってから細かいことを教えてあげます。
 
 そんなことより、ほら。これを開けてごらんなさい。
 あなたへのプレゼントですよ。
 だって、今日はあなたの七歳のお誕生日ですから。
 あなたがずっと欲しいと言ってたでしょ?
 首に真っ赤なリボンがついた、茶色の大きなくまの縫いぐるみ。

 あの時のあなたったら、こぼれんばかりに目を大きく開いて、とっても嬉しそうにしていたわねぇ。

 ああ、良かった。
 笑顔が戻ったわ。
 何て愛らしい笑顔なのでしょう。
 太陽のような笑顔ね。
 
 ああ、ご両親がご存命であれば
 さぞかしやお喜びであったでしょうに。
 歯がゆくてなりません。
 
 本当ならば、お二人にお見せしたかった。
 あなたの成長した姿を。
 お二人共毎年とても楽しみになさっておいでだったから。
 
 我が子がすくすくと育ってゆく様子を、見守っていたかったことでしょう。
 本当はそばで。
 可能であればずっと。
 
 レイア。
 大切なレイア。
 ここまで大病せず、大きくなってくれてありがとう。
 
 あなたが無事に成長すること。
 それが、亡くなられたあなたのご両親への、一番の孝行です。
 
 きっと、お二人共お空からあなたを見守って下さっていますよ。
 だから、何があってもめげずに頑張りなさい。
 
 お父様譲りのヘーゼル色の瞳。
 お母様譲りの美しい顔立ち。
 ほら、一つ歳をとるごとにご両親へと近付いていますよ。
 あなたはどちらにも良く似ているから。
 
 あなたのご両親は、
 あなたの目には見えなくても、生き続けています。
 あなたの中で。
 
 レイア、いつかあなたにお話ししましょう。
 あなたの本当のお父様、お母様のことを。
 だって、あなたはそれを知る権利がありますから。
 勿論、あなたがもう少し大きくなってからね。

 いつが良いかしら。
 そうね。
 あなたが十六歳のお誕生日を迎えたら、お話ししましょうね。
 あなたのご両親が、どれだけ素晴らしい方々だったのかを……──
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