49 / 52
番外編
外伝三・序章 思い出話し
しおりを挟む
秋風の吹くある日のこと。ゼピュロスにあるランドルフ家の屋敷で、一人の使用人の声が響いてきた。
「ウィリアム様。ウィリアム様。お部屋にいらっしゃいますか?」
「私は此処だ。如何した?」
「もう直ぐお時間ではないですか? 今日はエウロスにお出掛けになる日の筈ですけど」
「おお、そうだった! もうそんな時間か。有り難う」
私は椅子から急いで立ち上がり、出掛ける準備を始めた。いけない、いけない。私としたことがすっかり忘れていた。今日は昔馴染みのサミュエルと会う約束だった。
大急ぎで身支度をすませつつ、私はふと思いを馳せた。そう言えば、アネモイ学院から卒業してから二年位になるな。全寮制で、家族と離れた集団生活を朝から晩まで六年間続けた。最初は長過ぎるなと思ったがなんのその。想像していたよりもスリリングで充実した日々を送れた。六年間だなんてあっという間。時が過ぎるのは本当に早いものだ。
私がサムことサミュエル・ガルシアとの付き合いは幼い頃からで、もうかれこれ十年以上になる。父であるアラスター・ランドルフとサミュエルの父、ルーカス・ガルシアは大の親友で、家族ぐるみの付き合いが長い。
サムは小さい頃から本当に大人しい性格で、彼の兄であるテオドール・ガルシアとは真反対だ。テオドールは社交的で明るく朗らかな性格で、彼の立ち位置は兄のやや後ろが定番だった。
その“大人しい”と思っていたサムだったが、ガルシア家しきたりの旅から帰ってきた途端妙に変化が出ていた。いつも肌身はなさず持っていた首飾りはなくなっているし。あれは大事なものではなかったのだろうか? 冷やかし混じりに聞いてみたところ、妙に怒っている様な困っている様な顔で
「紛失ではない。預かって貰っているだけだ」
とか言っていたが、絶対怪しい。彼は何かを隠している。いつか聞き出してやろう。当時の私はそう決めた。だがついつい聞きそびれていた。
――そう言えば、つい最近エウロスの屋敷は客人を泊まらせているという話しを聞いたな。確か人間の娘だとか。サムの奴、すました顔をして隅に置けない。丁度良い機会だから、序でに探りを入れてみるか――
ウィリアムは部屋の窓からひらりと飛び出した。
行く先は、エウロスのセレネーにあるガルシア家の屋敷である。龍体で空路をゆけば時間は然程かからない。エウロスの景色を眺めながらのんびりゆこうか。
――アネモイ学園時代を思い出すのは本当に久し振りだ。
ウィリアムは鼻歌交じりに空を飛びながらしみじみと思い出していた。彼の頬をかすめた風はどこか柔らかかった。
「ウィリアム様。ウィリアム様。お部屋にいらっしゃいますか?」
「私は此処だ。如何した?」
「もう直ぐお時間ではないですか? 今日はエウロスにお出掛けになる日の筈ですけど」
「おお、そうだった! もうそんな時間か。有り難う」
私は椅子から急いで立ち上がり、出掛ける準備を始めた。いけない、いけない。私としたことがすっかり忘れていた。今日は昔馴染みのサミュエルと会う約束だった。
大急ぎで身支度をすませつつ、私はふと思いを馳せた。そう言えば、アネモイ学院から卒業してから二年位になるな。全寮制で、家族と離れた集団生活を朝から晩まで六年間続けた。最初は長過ぎるなと思ったがなんのその。想像していたよりもスリリングで充実した日々を送れた。六年間だなんてあっという間。時が過ぎるのは本当に早いものだ。
私がサムことサミュエル・ガルシアとの付き合いは幼い頃からで、もうかれこれ十年以上になる。父であるアラスター・ランドルフとサミュエルの父、ルーカス・ガルシアは大の親友で、家族ぐるみの付き合いが長い。
サムは小さい頃から本当に大人しい性格で、彼の兄であるテオドール・ガルシアとは真反対だ。テオドールは社交的で明るく朗らかな性格で、彼の立ち位置は兄のやや後ろが定番だった。
その“大人しい”と思っていたサムだったが、ガルシア家しきたりの旅から帰ってきた途端妙に変化が出ていた。いつも肌身はなさず持っていた首飾りはなくなっているし。あれは大事なものではなかったのだろうか? 冷やかし混じりに聞いてみたところ、妙に怒っている様な困っている様な顔で
「紛失ではない。預かって貰っているだけだ」
とか言っていたが、絶対怪しい。彼は何かを隠している。いつか聞き出してやろう。当時の私はそう決めた。だがついつい聞きそびれていた。
――そう言えば、つい最近エウロスの屋敷は客人を泊まらせているという話しを聞いたな。確か人間の娘だとか。サムの奴、すました顔をして隅に置けない。丁度良い機会だから、序でに探りを入れてみるか――
ウィリアムは部屋の窓からひらりと飛び出した。
行く先は、エウロスのセレネーにあるガルシア家の屋敷である。龍体で空路をゆけば時間は然程かからない。エウロスの景色を眺めながらのんびりゆこうか。
――アネモイ学園時代を思い出すのは本当に久し振りだ。
ウィリアムは鼻歌交じりに空を飛びながらしみじみと思い出していた。彼の頬をかすめた風はどこか柔らかかった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる