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第三章 過ぎ去りし思い出(過去編)

第四十二話 略取

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 セフィロス達は二階へと移動しバルコニーに出て、外の様子をそっと伺ってみた。来客と思しき者達は全員が茶色の三つ揃えで、見るからにヨーク家の者達と見て取れた。主力と思しきメンバーはぱっと見いなさそうだ。
 
「わたくし達が一緒に立ち会うわ。一体何用か分からないけど、一緒に話しを伺ってみましょう」
 
「ああ。是非そうしてくれ。助かる」
 
 ウィリディスがぽんとセフィロスの背中を軽く叩いた。
 
 
 ※ ※ ※
 
「ヨーク家の傘下に入れば命はとらないだと!? そんな馬鹿な話があるか!! 我々を愚弄するにも程がある。一体何様だと思っているんだ奴等は……!」
 
「本っっ当に最低な奴等ね! おじ様達を騙すように殺した癖に!! 私の黒紫糸で八つ裂きにしてやりたいわ!!」
 
「姐さん……それ冗談に聞こえませんから……!」
 
「あら坊や。私は本気よ。アンタだって必要な時は必殺の金雷刃を発動なさいな。私は止めないから」
 
 ロセウスとウィオラとフラウムが三種三様の意見を出し合っている。怒り心頭に発する二人はそのだだ漏れオーラにより、彼等より数年年少であるフラウムをすっかりビビらせている。
 
 ヨーク家からの使者と対談にはセフィロス達六人とマルロで立ち会った。彼等の言い分によると、ランカスター家は当主が急逝した為、若輩であるセフィロスが筆頭にならざるを得ない状態。領主同士の渡り合いや政治等について不慣れであろうから、ヨーク家が擁護した方が負担がなかろう。その代わりにヨーク家の傘下に入ってもらう。要求をのむなら命はとらない為、一生安泰だと言うことだった。二・三日猶予を持たせるからよく考えて欲しいと言い残し、ヨーク家の使者達は一旦自分達の領地に帰っていった。
 
 どう考えても一人勝ち宣言をしているようなものである。使者が屋敷から出て、門からも出ていったのを見届けてから、ロセウス達の怒りトークが始まった。
 
 暫くああでもないこうでもないと好きに談義を重ねさせていたが、一人、腰を上げた者が出た。若き当主であるセフィロスだった。顔色がイマイチすぐれない。
 
「すまない。考え事がしたい。暫く私一人にしてくれないか」
 
「分かった。もし何か有れば直ぐに呼べよ」
 
 ルフス達は自室に戻るセフィロスにそれ以上にかけられる言葉がなかった。
 
「セフィロス……大丈夫かしら……」
 
 やきもきする心を押さえつけるウィリディス。
 
「昨日も一人の時間がなかったからゆっくりしたいんじゃない? 後でそっと見にいきましょ」
 
「そうね」
 
 彼等はまだまだ若かった。その為、この後に起こることを予想することが出来なかった。
 
 静かに夜が差し迫ってきている時刻だった。
  
 ※ ※ ※
 
 自室に戻ったセフィロスは心を鎮め、色々考え事をしていた。
 
 今までは好き勝手言えたし、余程なことでもない限り何かしでかしても特に何も言われなかった。
 
 だが、今はどうだろう。
 本家筋は自分ただ一人であり、本家現当主は自分以外誰もなれない。
 自分の発言は家全体の発言。
 自分の行動は家全体の行動。
 嫌でも分かっていることだが、一個人としての自由な意見がもう通らないのだ。
 自分の判断一つでランカスター家が大変わりする。
 領地内に住む住人一人の生活にまで全て影響するのだ。
 考えただけで末恐ろしいことである。
 ヘンリーが急逝したことでその負担がセフィロスの双肩にと一気に伸し掛かってきた。
 急なことで、仕事の引き継ぎすらまともになされておらず、右も左も分からない。
 ルフス達は彼の支えにはなれるが、彼等は分家の者達だ。あくまで支持者に過ぎない。
 最終的な決定権も持つのはセフィロスただ一人だ。
 
 ランカスター家を勝手に追い詰めておきながら、身を任せよと甘言を用いてくる。そうやってこちらの領地まで我が物にせんとする、大変卑怯なやり方だ。誰が言いなりになるかと息巻きたいが、現実どう采配すれば良いのやら分からない。
 
 (何が一番良いのだろうか……)
 
 セフィロスは頭を抱えて机に突っ伏していると突然何かが白く光るのが窓から見えた。
 
 ドォオンッッ!!
 ガシャ――ンッッ!!
 
 耳を劈く爆発音が響き、窓硝子が砕け散る音が周囲に響き渡る。セフィロスは爆風に飛ばされ、身体を壁に叩きつけられた。
 
「う……っ!!」
 
 硝子の破片まみれの中でうずくまっていると、何者かの気配を背中に感じ、身体を強張らせた。急に目隠しをされ、視覚を封じられる。
 
 (誰だ!? 何か嫌な感じがする……! )
 
「……想像した通りだ。きっとお前達はこちらの要求をすんなりのまないだろうと」
 
 (低い声が聞こえる。これは誰の声だろう……!? 何故こちらの話しが漏れている!? )
 
 セフィロスは咄嗟にその場を逃げようとしたが、術をかけられたのか指一本まともに動かせない。
 
「悪いがお前にはこちらに来てもらうぞ」
 
「うっ……離せ……っっ!!」
 
 抵抗虚しく自分の傍にいる男は軽々とセフィロスを腕に抱え、あっという間に部屋を飛び出した。
 
 (一体私をどこにつれてゆくつもりだコイツ……!! )
 
 騒音に誰かが気付き部屋へと駆け付けてきたようだが、見えないので状況が把握出来ない。
 
「キャアッ!! セフィロス……!! 誰かぁっ!!」
 
 真っ暗な闇の中、かけられた術の効果の為か、吸い込まれるように彼の意識が遠くなっていった。
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