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マンションですごす二年目
一人で過ごすはずだった大晦日
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大晦日。こたつである。
目の前にはコンロにかけられた鍋があり、白い湯気がもくもくと立ち上る。鍋の中身は今年何度目か忘れたキムチ鍋がぎっしり詰まっていて、豆腐や豚肉、長ネギや白菜たちがくつくつと揺れている。そして、鍋とわたしの間には取り皿と大きなエビの天ぷらが二本乗った年越しそばがある。
キムチ鍋と年越しそば。謎の組み合わせである。どちらも美味しそうだけれど、一緒に食べたことはないし、きっとそういう人は多いと思う。
「さあ、伸びてしまう前に食べましょう!」
こたつの向かいでにこにこ顔のクマはそう言うと、ずずずとそばをすすり始めた。このクマは相変わらずマイペースだ。
「起きてくださーい。お届け物でーす」
大晦日の夕方。大掃除を終え、昨日捨て忘れた古紙の山をビニール紐でくくり、近所のヤギさんちにある古紙回収ボックスへ捨てに行くために家を出ると、大きな声が下の階から聞こえた。階段を降りると『冬眠中』の看板を下げたクマの家の前で、濃い緑色の制服を着た黒猫が大きな段ボール箱を小脇に抱えて立っていた。
「お届け物でーす」
インターフォンを鳴らしながら、「うー寒い寒い」と小声でもらす黒猫は、小さく体を震わせている。クマが冬眠中なのはわかっているみたいだけど、一体どうしたんだろう。少し気になる。
「すみません、お待たせしちゃって。ありがとうございます」
私が黒猫の配達員さんに声をかけようとした時、がちゃりとドアが開いて寝ぼけ顔のクマが顔を出した。久しぶりに見たクマの顔は当たり前だが冬眠前と何も変わらなかった。
「いえいえ、冬眠中だけど起こしてお渡しするように伺っていましたので。あ、ここに受け取りのサインをお願いします」
「はい!」
そんな黒猫とクマのやりとりを私は驚きながら見ていた。なんでまだ春じゃないのにクマが起きているの? 爽やかな笑顔で足速に去っていく黒猫の配達員さんを見送ってから、私はクマを見た。
「クマ、久しぶりね」
「ゆり子さん! おはようございます! いや、こんばんはですね」
「こんばんは。ねえクマ、どうして起きてるの?」
私はストレートに今一番聞きたいことを聞いた。するとクマは照れ臭そうに頭をぽりぽりとかきながらうつむいた。
「あの、これ、一緒に食べませんか?」
さっき黒猫から受け取った箱をクマが見せてきた。なんの箱だろうと思いながら送り状を見てみると、大きな文字で『たべもの 年越しそばセット』と書いてあった。
私はどういうことなのかよくわからず、クマを見た。すると「とっても美味しそうだなあと思い買ってみたんです。それでゆり子さんと一緒に食べられたらいいなーと思って二食分買ってみました」と言いながらクマが顔を少し赤くして照れていた。
「クマ、あんたねえ、私がもし予定を入れていたり実家に帰っていたらどうするのよ?」
私は思わずむっとした声を出してしまった。
「えっと、その時は一人で二人分食べようと思ってました」
このクマは本当にどうしていつもこんな感じなんだろう。まあ、そこがいいところでもあるんだけれど。私はやれやれと思いつつも「いいわよ、一緒に食べましょう」と返事をした。
「本当ですか! やったー!」
クマはそう言うと嬉しそうに顔を輝かせて足踏みをした。ぐらぐらと地面が揺れるのを感じながら、そうか冬眠中はこの揺れはなかったなあと思った。
夕飯の準備をクマに任せ、私はヤギさんちに向かった。ヤギさんの家の隣には『古紙回収ボックス』の看板を下げたコンテナがある。そこに古紙を入れておくと、ヤギさんが綺麗に処分してしてくれるのだ。
「いつもありがとうねえ」
古紙を持っていくと、ちょうどヤギさんがボックスの中の整理をしていた。両手で古紙の束を抱えながら、もさもさと紙を食べている。
「とんでもない。こちらこそ今年もお世話になりました」
そう言いながら私が持ってきた古紙の束を渡すと「あら、美味しそうね」と言ってヤギさんは嬉しそうに笑ってくれた。
「ゆり子ちゃん、これ持って帰ってよ」
挨拶を済ませて帰ろうとしたら、後ろからヤギさんに呼び止められた。なんだろうと思い振り返るとみかんがぎっしり入ったビニール袋を手渡された。
「ありがとうございます。こんなにたくさん、いいんですか?」
「いいのいいの。クマさんと一緒に食べてよ」
ヤギさんはそう言うとにっこり笑った。
「ありがとうございます。でも、ヤギさん、クマが起きたの知ってたんですか?」
私が不思議に思い聞いてみると、ヤギさんは、ふふふと笑いながら家に帰っていった。優しいヤギなんだけれどどこか不思議なヤギさん。きっと来年も私はヤギさんを見て、不思議なヤギだなあと思うんだろうなと思った。
ヤギさんにもらったみかんを持って帰る途中、どこからともなくキムチ鍋の匂いがした。どこかのお家は今夜キムチ鍋なんだ、そんなことを思いながらクマの家にお邪魔するとキムチ鍋があった。
どうしてキムチ鍋があるんだろう? 不思議に思いクマを見ると、「なんだか急に食べたくなっちゃいまして」とにこにこしながら言われた。
目の前にはコンロにかけられた鍋があり、白い湯気がもくもくと立ち上る。鍋の中身は今年何度目か忘れたキムチ鍋がぎっしり詰まっていて、豆腐や豚肉、長ネギや白菜たちがくつくつと揺れている。そして、鍋とわたしの間には取り皿と大きなエビの天ぷらが二本乗った年越しそばがある。
キムチ鍋と年越しそば。謎の組み合わせである。どちらも美味しそうだけれど、一緒に食べたことはないし、きっとそういう人は多いと思う。
「さあ、伸びてしまう前に食べましょう!」
こたつの向かいでにこにこ顔のクマはそう言うと、ずずずとそばをすすり始めた。このクマは相変わらずマイペースだ。
「起きてくださーい。お届け物でーす」
大晦日の夕方。大掃除を終え、昨日捨て忘れた古紙の山をビニール紐でくくり、近所のヤギさんちにある古紙回収ボックスへ捨てに行くために家を出ると、大きな声が下の階から聞こえた。階段を降りると『冬眠中』の看板を下げたクマの家の前で、濃い緑色の制服を着た黒猫が大きな段ボール箱を小脇に抱えて立っていた。
「お届け物でーす」
インターフォンを鳴らしながら、「うー寒い寒い」と小声でもらす黒猫は、小さく体を震わせている。クマが冬眠中なのはわかっているみたいだけど、一体どうしたんだろう。少し気になる。
「すみません、お待たせしちゃって。ありがとうございます」
私が黒猫の配達員さんに声をかけようとした時、がちゃりとドアが開いて寝ぼけ顔のクマが顔を出した。久しぶりに見たクマの顔は当たり前だが冬眠前と何も変わらなかった。
「いえいえ、冬眠中だけど起こしてお渡しするように伺っていましたので。あ、ここに受け取りのサインをお願いします」
「はい!」
そんな黒猫とクマのやりとりを私は驚きながら見ていた。なんでまだ春じゃないのにクマが起きているの? 爽やかな笑顔で足速に去っていく黒猫の配達員さんを見送ってから、私はクマを見た。
「クマ、久しぶりね」
「ゆり子さん! おはようございます! いや、こんばんはですね」
「こんばんは。ねえクマ、どうして起きてるの?」
私はストレートに今一番聞きたいことを聞いた。するとクマは照れ臭そうに頭をぽりぽりとかきながらうつむいた。
「あの、これ、一緒に食べませんか?」
さっき黒猫から受け取った箱をクマが見せてきた。なんの箱だろうと思いながら送り状を見てみると、大きな文字で『たべもの 年越しそばセット』と書いてあった。
私はどういうことなのかよくわからず、クマを見た。すると「とっても美味しそうだなあと思い買ってみたんです。それでゆり子さんと一緒に食べられたらいいなーと思って二食分買ってみました」と言いながらクマが顔を少し赤くして照れていた。
「クマ、あんたねえ、私がもし予定を入れていたり実家に帰っていたらどうするのよ?」
私は思わずむっとした声を出してしまった。
「えっと、その時は一人で二人分食べようと思ってました」
このクマは本当にどうしていつもこんな感じなんだろう。まあ、そこがいいところでもあるんだけれど。私はやれやれと思いつつも「いいわよ、一緒に食べましょう」と返事をした。
「本当ですか! やったー!」
クマはそう言うと嬉しそうに顔を輝かせて足踏みをした。ぐらぐらと地面が揺れるのを感じながら、そうか冬眠中はこの揺れはなかったなあと思った。
夕飯の準備をクマに任せ、私はヤギさんちに向かった。ヤギさんの家の隣には『古紙回収ボックス』の看板を下げたコンテナがある。そこに古紙を入れておくと、ヤギさんが綺麗に処分してしてくれるのだ。
「いつもありがとうねえ」
古紙を持っていくと、ちょうどヤギさんがボックスの中の整理をしていた。両手で古紙の束を抱えながら、もさもさと紙を食べている。
「とんでもない。こちらこそ今年もお世話になりました」
そう言いながら私が持ってきた古紙の束を渡すと「あら、美味しそうね」と言ってヤギさんは嬉しそうに笑ってくれた。
「ゆり子ちゃん、これ持って帰ってよ」
挨拶を済ませて帰ろうとしたら、後ろからヤギさんに呼び止められた。なんだろうと思い振り返るとみかんがぎっしり入ったビニール袋を手渡された。
「ありがとうございます。こんなにたくさん、いいんですか?」
「いいのいいの。クマさんと一緒に食べてよ」
ヤギさんはそう言うとにっこり笑った。
「ありがとうございます。でも、ヤギさん、クマが起きたの知ってたんですか?」
私が不思議に思い聞いてみると、ヤギさんは、ふふふと笑いながら家に帰っていった。優しいヤギなんだけれどどこか不思議なヤギさん。きっと来年も私はヤギさんを見て、不思議なヤギだなあと思うんだろうなと思った。
ヤギさんにもらったみかんを持って帰る途中、どこからともなくキムチ鍋の匂いがした。どこかのお家は今夜キムチ鍋なんだ、そんなことを思いながらクマの家にお邪魔するとキムチ鍋があった。
どうしてキムチ鍋があるんだろう? 不思議に思いクマを見ると、「なんだか急に食べたくなっちゃいまして」とにこにこしながら言われた。
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