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マンションですごす二年目
きのこ料理はやはり美味しい
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「これは!」
三毛猫に出された料理を見て驚き、大きな声を出したのはクマ。
「ああ、いい香りですね」
思わず深呼吸したくなるような、美味しそうな秋の匂いにうっとりしつつ言ったのは、クマの隣に座る私。
「日本酒に合いそうな一品ね」
お洒落な笑顔とともに言ったのは、クマの向かいに座るキツネ。このお姉さん、お酒もいける口だったのか。着物を着こなす大人な女性、しかもお酒も飲めるときた。こんなのちょっと強すぎるでしょ。……ん? 強いって思ったけれど、この強さって何の強さなんだろう? ふわっと浮かんだ疑問のせいで、私の頭の中を疑問符がびゅんびゅん飛び交う。
キツネのことはさておき、三毛猫の試食会で一番最初に出てきたお料理は、傘の中になみなみとお汁を乗せた、しいたけの姿焼きだった。
「旨味がしっかり出ているから、そのまま食べてもいいし、お醤油を少し垂らしてもよし。欲しかったらポン酢とかつお節もあるからね」
たくさんのしいたけを乗せた大きな平皿と、三枚の取り分け用の小皿を運んできた三毛猫。お皿を私たちの前に配り終えると、ふふん、と得意げに胸を張った。試食会と聞いたから、もっと自信なさげにお料理が出てきて感想を求められるのかと思ったけれど、三毛猫にそんな雰囲気はかけらもない。
クマは、「三毛猫さん、一品目からかなり自信満々なんですねー」なんて言いながら、にこにこ顔でしいたけをぱくんと一つ食べた。するとその瞬間、私の頭の中にクマが次に取るであろうリアクションが浮かんだ。ああ、どうしてこのクマはこんなにわかりやすいんだろう。そしてやはりその予想が裏切られることはなかった。
「三毛猫さん! このしいたけ、とっても美味しいです!」
お店の中にクマの大きな声が響き、その後を追うように三つの失笑が響いた。クマのリアクションを予想していたのはどうやら私だけじゃなかったようだ。
クマは笑う私たちを見て、不思議そうな顔で首を傾げる。私に「ねえ、どうして笑ってるんです?」と、聞きたげな目線を向けてきたが、私は無視してしいたけを一つ食べてみた。
秋の味だった。しいたけって普段何かのお料理に入れることはあっても、しいたけがメインになることはなかなかないので忘れていた。しいたけがこんなに美味しい食材だったってことを。
ふと、キツネはどんな反応をしているかしらと気になった。そこで、そーっと見てみると、まるで子どものようなかわいらしいほくほく顔でしいたけを頬張っていた。そんなキツネがもうかわいくてかわいくて、私は思わずほっこりしてしまった。クールだと思っていた人の、ちょっとおちゃめなところを見た時と同じような気分だ。
「おすすめの日本酒もあるけど、どうする?」
私たちが「お醤油をかけてもとっても美味しい」、「ポン酢もあっさりですごくいい」なんて言いながら、しいたけをぱくぱくと食べていると、にやりとしながら三毛猫がにくい提案をしてきた。そんなことを言われたら、私たちにはもう選択肢は一つしかなかった。
「飲みます!」
大きな声で即答したのがやっぱりクマ。
「飲みます!」
次に大きな声で即答したのが私。
「いただこうかしら」
こほんと咳払いをしてから、すました顔で言ったのがキツネだった。ふふふ、そんなところもなんだかかわいいなあと思ってしまう。三毛猫はそんな私たちを見てころころ笑った。
数分後、三毛猫は日本酒と一緒に、たくさんのえのきだけのベーコン巻きを乗せたお皿を運んできた。すぐに日本酒に飛びつきたいところだったが、想定外の二品目がその行動に待ったをかけた。
三毛猫は相変わらず自信満々の様子。他のメンバーの様子が気になり、クマを見てみると目が点になっている。やはりクマも驚いているようだ。それからそーっとキツネを見てみると、ちょうどばっちり目が合った。一瞬気まずい気もしたけれど、すぐに私とキツネの間に謎の連帯感が生まれた。私たちはひとまず様子を見ることにした。
「おうちで作るお弁当の一品みたい……」
おそらく私もキツネも思ったであろうその言葉を、クマはぽろりと呟く。そしてそーっとお箸を伸ばしてぱくんと食べた。私とキツネが固唾を呑んで見守る中、クマはすぐに無言のまま満面の笑みになった。幸せそうなクマの表情を見て、私とキツネは顔を合わせると、すぐに一つ食べてみた。
美味しかった。悔しいほどに美味しかった。えのきだけをベーコンで巻いて焼いただけ、ただそれだけなのにこんなに美味しいのはどうして? ごま油のこうばしい香りがこれまた絶妙で、とっても美味しい。ああ、この美味しさはどう表現したらいいんだろう。今の私には語彙力が圧倒的に不足している。
興奮が少し落ち着いてから、私は周りの様子を見てみた。クマは相変わらず満面の笑みで美味しそうに食べているし、キツネもクマと同じように笑顔で食べている。クマとキツネを見ていると、なんだか素敵な姉弟に見えてとっても微笑ましく思えた。
最初は少し緊張したけれど、このお姉さんはとってもいいキツネみたいだ。まあ、クマが懐いているから悪いキツネじゃないとは思っていたけど。私も仲良くなれたらな、そんなことを思いながら私は日本酒をちびちび飲み始めた。
その後もお料理はどんどん出てきた。エリンギのバターソテー、まいたけの唐揚げ、秋鮭ときのこたっぷりのホイル焼き。どれも美味しくお酒にぴったりの味付けばかりだった。
「これはきのこ料理ですか?」
秋鮭のホイル焼きを食べていた時、つい三毛猫に聞いてしまった。これはきのこ料理というより鮭がメインじゃないかなあと思ったけれど、三毛猫は「美味しければ細かいことは気にしなくていいのよ」と、どこ吹く風だった。
たしかに美味しい。すごく美味しい。三毛猫が言う通り、美味しければ細かいことは気にしなくていいのかもしれない。
次々と出てくるお料理とともに、何度も何度もお酒をおかわりし続けていた結果、私はいつの間にか酔っ払っていた。そして酔いが回るにつれて頭の中がほわほわになった私は、今日がきのこ料理の試食会だったことをすっかり忘れていた。
三毛猫に出された料理を見て驚き、大きな声を出したのはクマ。
「ああ、いい香りですね」
思わず深呼吸したくなるような、美味しそうな秋の匂いにうっとりしつつ言ったのは、クマの隣に座る私。
「日本酒に合いそうな一品ね」
お洒落な笑顔とともに言ったのは、クマの向かいに座るキツネ。このお姉さん、お酒もいける口だったのか。着物を着こなす大人な女性、しかもお酒も飲めるときた。こんなのちょっと強すぎるでしょ。……ん? 強いって思ったけれど、この強さって何の強さなんだろう? ふわっと浮かんだ疑問のせいで、私の頭の中を疑問符がびゅんびゅん飛び交う。
キツネのことはさておき、三毛猫の試食会で一番最初に出てきたお料理は、傘の中になみなみとお汁を乗せた、しいたけの姿焼きだった。
「旨味がしっかり出ているから、そのまま食べてもいいし、お醤油を少し垂らしてもよし。欲しかったらポン酢とかつお節もあるからね」
たくさんのしいたけを乗せた大きな平皿と、三枚の取り分け用の小皿を運んできた三毛猫。お皿を私たちの前に配り終えると、ふふん、と得意げに胸を張った。試食会と聞いたから、もっと自信なさげにお料理が出てきて感想を求められるのかと思ったけれど、三毛猫にそんな雰囲気はかけらもない。
クマは、「三毛猫さん、一品目からかなり自信満々なんですねー」なんて言いながら、にこにこ顔でしいたけをぱくんと一つ食べた。するとその瞬間、私の頭の中にクマが次に取るであろうリアクションが浮かんだ。ああ、どうしてこのクマはこんなにわかりやすいんだろう。そしてやはりその予想が裏切られることはなかった。
「三毛猫さん! このしいたけ、とっても美味しいです!」
お店の中にクマの大きな声が響き、その後を追うように三つの失笑が響いた。クマのリアクションを予想していたのはどうやら私だけじゃなかったようだ。
クマは笑う私たちを見て、不思議そうな顔で首を傾げる。私に「ねえ、どうして笑ってるんです?」と、聞きたげな目線を向けてきたが、私は無視してしいたけを一つ食べてみた。
秋の味だった。しいたけって普段何かのお料理に入れることはあっても、しいたけがメインになることはなかなかないので忘れていた。しいたけがこんなに美味しい食材だったってことを。
ふと、キツネはどんな反応をしているかしらと気になった。そこで、そーっと見てみると、まるで子どものようなかわいらしいほくほく顔でしいたけを頬張っていた。そんなキツネがもうかわいくてかわいくて、私は思わずほっこりしてしまった。クールだと思っていた人の、ちょっとおちゃめなところを見た時と同じような気分だ。
「おすすめの日本酒もあるけど、どうする?」
私たちが「お醤油をかけてもとっても美味しい」、「ポン酢もあっさりですごくいい」なんて言いながら、しいたけをぱくぱくと食べていると、にやりとしながら三毛猫がにくい提案をしてきた。そんなことを言われたら、私たちにはもう選択肢は一つしかなかった。
「飲みます!」
大きな声で即答したのがやっぱりクマ。
「飲みます!」
次に大きな声で即答したのが私。
「いただこうかしら」
こほんと咳払いをしてから、すました顔で言ったのがキツネだった。ふふふ、そんなところもなんだかかわいいなあと思ってしまう。三毛猫はそんな私たちを見てころころ笑った。
数分後、三毛猫は日本酒と一緒に、たくさんのえのきだけのベーコン巻きを乗せたお皿を運んできた。すぐに日本酒に飛びつきたいところだったが、想定外の二品目がその行動に待ったをかけた。
三毛猫は相変わらず自信満々の様子。他のメンバーの様子が気になり、クマを見てみると目が点になっている。やはりクマも驚いているようだ。それからそーっとキツネを見てみると、ちょうどばっちり目が合った。一瞬気まずい気もしたけれど、すぐに私とキツネの間に謎の連帯感が生まれた。私たちはひとまず様子を見ることにした。
「おうちで作るお弁当の一品みたい……」
おそらく私もキツネも思ったであろうその言葉を、クマはぽろりと呟く。そしてそーっとお箸を伸ばしてぱくんと食べた。私とキツネが固唾を呑んで見守る中、クマはすぐに無言のまま満面の笑みになった。幸せそうなクマの表情を見て、私とキツネは顔を合わせると、すぐに一つ食べてみた。
美味しかった。悔しいほどに美味しかった。えのきだけをベーコンで巻いて焼いただけ、ただそれだけなのにこんなに美味しいのはどうして? ごま油のこうばしい香りがこれまた絶妙で、とっても美味しい。ああ、この美味しさはどう表現したらいいんだろう。今の私には語彙力が圧倒的に不足している。
興奮が少し落ち着いてから、私は周りの様子を見てみた。クマは相変わらず満面の笑みで美味しそうに食べているし、キツネもクマと同じように笑顔で食べている。クマとキツネを見ていると、なんだか素敵な姉弟に見えてとっても微笑ましく思えた。
最初は少し緊張したけれど、このお姉さんはとってもいいキツネみたいだ。まあ、クマが懐いているから悪いキツネじゃないとは思っていたけど。私も仲良くなれたらな、そんなことを思いながら私は日本酒をちびちび飲み始めた。
その後もお料理はどんどん出てきた。エリンギのバターソテー、まいたけの唐揚げ、秋鮭ときのこたっぷりのホイル焼き。どれも美味しくお酒にぴったりの味付けばかりだった。
「これはきのこ料理ですか?」
秋鮭のホイル焼きを食べていた時、つい三毛猫に聞いてしまった。これはきのこ料理というより鮭がメインじゃないかなあと思ったけれど、三毛猫は「美味しければ細かいことは気にしなくていいのよ」と、どこ吹く風だった。
たしかに美味しい。すごく美味しい。三毛猫が言う通り、美味しければ細かいことは気にしなくていいのかもしれない。
次々と出てくるお料理とともに、何度も何度もお酒をおかわりし続けていた結果、私はいつの間にか酔っ払っていた。そして酔いが回るにつれて頭の中がほわほわになった私は、今日がきのこ料理の試食会だったことをすっかり忘れていた。
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