35 / 48
マンションですごす二年目
三毛猫のお店の試食会
しおりを挟む
「今日は女子会ですねー!」
満面の笑みのクマが言い、それに対して「あんたは女子じゃないだろう」と三毛猫が笑いながら訂正し、「強いて言うなら女子会みたいでしょう」と私が言うと、キツネが目を細めながらふふふと笑った。
肌寒くなってきた秋の終わりのお昼過ぎ、隣町の三毛猫の定食屋にはお出汁のような美味しそうな香りがして漂っている。お店の前には『臨時休業』の立て看板が出ていて、店内はがらんとしている。
がらんとしているといっても誰もいないわけではなく、一番日の当たるテーブルに私、クマ、キツネのお姉さんが座っている。キツネのお姉さんは三毛猫の姉貴分らしい。三毛猫が一人でお店を切り盛りし始めた頃、よく相談に乗ってくれたそうだ。
深い紫色の着物を品よく着こなしたキツネのお姉さん、年齢はわからないけれど私の母と同じぐらいかしら。でも母とはなんか違う。何が違うのかうまく説明できないけれど、品があるというか、洗練された女性というか。『こんな大人の女性になれたらいいな』と思う雰囲気がある。
今日、私たちは三毛猫の試食会に来ている。
「今年の冬はきのこ料理をいろいろ試してみようと思うのよ」
先日、ご飯を食べに行ったら食後に三毛猫から素敵なお誘いを受けた。新しいメニューの試食会、私には断る理由がなかった。私は即座に参加を表明した。私の表明を聞き、テーブルの向かい側で食後の温かいお茶を片手にうつらうつらと船を漕いでいたクマが、ぱちりと目を覚ました。クマは寒くなってきたので最近よく眠たくなるそうだ。
「私も参加します!」
クマはにこにこしながら言ったが、言った直後、顔から徐々に笑顔が消えていき、最後はきょとんとした顔になり、それからうーむと首を傾げた。
「あら、どうしたの?」
「えっと、何があるんですか?」
こいつ、話を聞いてなかったくせに参加するって言ったのか。
「あんたねえ……まあいいわ、クマも一緒に来るの。いいわね?」
思わず呆れてしまったけれど、まあクマらしいっちゃクマらしい。私はとりあえずクマと一緒に食べに来ることにした。
「はい!」
こいつ、なんのお誘いか分かってないくせに元気よく『はい!』って言いやがった。何も説明しないで誘った私も自分でもどうかと思うがクマよ、それでいいのか……
呆れる私を余所に、クマは楽しそうに顔を輝かせている。そんな私たちを見て三毛猫がころころと笑っていた。
そんなこんなで試食会当日、クマと一緒にお店に来ると『臨時休業』の看板が出ていた。少し不安になり、そーっとドアを開けて中を覗くと着物のキツネがいた。
「あら、人間のお嬢さん。こんにちは」
「こ、こんにちは」
綺麗な着物をまとったキツネの凛とした雰囲気に、私は思わず緊張してしまった。そんな私の後ろから、「こんにちはー」と言いながら、のそりとクマが入ってきた。クマはキツネを見るとぱぁーっと顔が明るくなった。
「わー! キツネさん、お久しぶりです」
「あら、クマさん。こんにちは。久しいわね、元気だった?」
「はい! 私は元気です!」
キツネに会えたのが嬉しいのかクマの顔がいつもより輝いて見える。そんなクマを見て、私は心の中が少し、ほんの少しだけ波打つのがわかった。でも、なんだろう、それ以上に、姉と弟の久しぶりの再会のように見えてなんだか微笑ましくあたたかい気持ちになった。
「あら、いらっしゃい。今日、招待したメンバーは揃ったわね」
店の奥から割烹着を着た三毛猫が出てきた。私たちは三毛猫に日当たりのいいテーブルに案内され、温かいお茶をいただいた。
「今、お料理を持ってくるわね」
営業時間外だからだろうか、三毛猫から漂う雰囲気がいつも以上に温かい。
しかし、少し気になったことが一つ。店の奥から三毛猫が出てきた時、私を見る目がなにか面白いものを見るような、そんな目だったような気がする。一瞬だけだったから、もしかしたら気のせいかもしれない。でも、なんだろう、少し気になる……
満面の笑みのクマが言い、それに対して「あんたは女子じゃないだろう」と三毛猫が笑いながら訂正し、「強いて言うなら女子会みたいでしょう」と私が言うと、キツネが目を細めながらふふふと笑った。
肌寒くなってきた秋の終わりのお昼過ぎ、隣町の三毛猫の定食屋にはお出汁のような美味しそうな香りがして漂っている。お店の前には『臨時休業』の立て看板が出ていて、店内はがらんとしている。
がらんとしているといっても誰もいないわけではなく、一番日の当たるテーブルに私、クマ、キツネのお姉さんが座っている。キツネのお姉さんは三毛猫の姉貴分らしい。三毛猫が一人でお店を切り盛りし始めた頃、よく相談に乗ってくれたそうだ。
深い紫色の着物を品よく着こなしたキツネのお姉さん、年齢はわからないけれど私の母と同じぐらいかしら。でも母とはなんか違う。何が違うのかうまく説明できないけれど、品があるというか、洗練された女性というか。『こんな大人の女性になれたらいいな』と思う雰囲気がある。
今日、私たちは三毛猫の試食会に来ている。
「今年の冬はきのこ料理をいろいろ試してみようと思うのよ」
先日、ご飯を食べに行ったら食後に三毛猫から素敵なお誘いを受けた。新しいメニューの試食会、私には断る理由がなかった。私は即座に参加を表明した。私の表明を聞き、テーブルの向かい側で食後の温かいお茶を片手にうつらうつらと船を漕いでいたクマが、ぱちりと目を覚ました。クマは寒くなってきたので最近よく眠たくなるそうだ。
「私も参加します!」
クマはにこにこしながら言ったが、言った直後、顔から徐々に笑顔が消えていき、最後はきょとんとした顔になり、それからうーむと首を傾げた。
「あら、どうしたの?」
「えっと、何があるんですか?」
こいつ、話を聞いてなかったくせに参加するって言ったのか。
「あんたねえ……まあいいわ、クマも一緒に来るの。いいわね?」
思わず呆れてしまったけれど、まあクマらしいっちゃクマらしい。私はとりあえずクマと一緒に食べに来ることにした。
「はい!」
こいつ、なんのお誘いか分かってないくせに元気よく『はい!』って言いやがった。何も説明しないで誘った私も自分でもどうかと思うがクマよ、それでいいのか……
呆れる私を余所に、クマは楽しそうに顔を輝かせている。そんな私たちを見て三毛猫がころころと笑っていた。
そんなこんなで試食会当日、クマと一緒にお店に来ると『臨時休業』の看板が出ていた。少し不安になり、そーっとドアを開けて中を覗くと着物のキツネがいた。
「あら、人間のお嬢さん。こんにちは」
「こ、こんにちは」
綺麗な着物をまとったキツネの凛とした雰囲気に、私は思わず緊張してしまった。そんな私の後ろから、「こんにちはー」と言いながら、のそりとクマが入ってきた。クマはキツネを見るとぱぁーっと顔が明るくなった。
「わー! キツネさん、お久しぶりです」
「あら、クマさん。こんにちは。久しいわね、元気だった?」
「はい! 私は元気です!」
キツネに会えたのが嬉しいのかクマの顔がいつもより輝いて見える。そんなクマを見て、私は心の中が少し、ほんの少しだけ波打つのがわかった。でも、なんだろう、それ以上に、姉と弟の久しぶりの再会のように見えてなんだか微笑ましくあたたかい気持ちになった。
「あら、いらっしゃい。今日、招待したメンバーは揃ったわね」
店の奥から割烹着を着た三毛猫が出てきた。私たちは三毛猫に日当たりのいいテーブルに案内され、温かいお茶をいただいた。
「今、お料理を持ってくるわね」
営業時間外だからだろうか、三毛猫から漂う雰囲気がいつも以上に温かい。
しかし、少し気になったことが一つ。店の奥から三毛猫が出てきた時、私を見る目がなにか面白いものを見るような、そんな目だったような気がする。一瞬だけだったから、もしかしたら気のせいかもしれない。でも、なんだろう、少し気になる……
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
心の落とし物
緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも
・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ )
〈本作の楽しみ方〉
本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。
知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。
〈あらすじ〉
〈心の落とし物〉はありませんか?
どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。
あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。
喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。
ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。
懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。
〈主人公と作中用語〉
・添野由良(そえのゆら)
洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。
・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉
人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。
・〈探し人(さがしびと)〉
〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。
・〈未練溜まり(みれんだまり)〉
忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。
・〈分け御霊(わけみたま)〉
生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる