21 / 48
はじめましての一年目
春はお花見弁当を
しおりを挟む
満開の桜の木の下、コンビニで買った春限定の缶ビールを飲む。ビールのお供はもちろんお花見弁当。お弁当は当然私の手作りではない。三毛猫の定食屋さんのテイクアウトだ。
「春だから新しいことをしてみようと思ってね」
先週お店に行ったら味見をさせてくれた。鰆の西京焼きも菜の花のからし和えもとっても美味しかった。
「すごく美味しい。お花見に行く前に絶対に買いに来ますね」
私がそう言うと三毛猫は澄まし顔で「褒めても何も出ないよ」と言ったけれど尻尾は後ろでぴーんと立っている。よく見ると顔もにやけるのを我慢しているようだった。
お花見弁当は二つ。桜の下のベンチには私一人。クマはまだ来ていない。
春になり桜の見頃がやってきた。
今朝、天気もいいしそろそろお花見にでも行こうかしらと考えながら朝ご飯を食べていると
「やったー! 春だー! ぽかぽかだー!」
と外から大きなクマの声が聞こえた。その声を聞いて私は思わず口に含んだコーヒーを吹き出しそうになった。クマは相変わらず元気みたいだ。
せっかくだからお花見に誘ってみよう。私は思わずにやりとしながら朝ごはんの続きを食べ始めた。そうかやっと起きたんだ。なんだか胸の辺りが温かくなった。
朝ごはんの食器を片付け、洗濯物を干し、掃除機かける。平日に溜まった家事を終わらせると私はそのままの勢いで身支度を始めた。
くすんだデニムのシャツワンピースに黒のパーカーを羽織る。化粧はいつも通り最低限。私はショルダーバッグを下げブーツを履くと家を出た。
階段を降りてクマの家に行くと『食事中』と書かれた看板がドアにぶら下がっていた。冬眠明けでお腹が減ってるのかしら、そう思いながらそっと看板の裏を見てみる。看板の裏には『冬眠中』と書かれていた。
「冬眠中の裏は食事中だったんだ」
面白くて思わず呟いてしまった。食事中ならどうしよう、声をかけると迷惑になるかもしれない。私はインターホンを鳴らすか悩んだ。
「あ、ゆり子さん!」
私が悩んでいると後ろから明るい声がした。振り向くと両手に食べ物でぱんぱんに膨らんだレジ袋を二つずつ持ったクマがいた。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
クマはぺこりと礼儀正しく頭を下げた。
「明けましておめでとう。こちらこそ今年もよろしく」
私もクマに倣って頭を下げた。季節外れなのはわかっているが仕方がないことなのでスルーしよう。
「起きたのね」
「起きました!」
クマは今年も相変わらずニコニコしている。
「食事中?」
「はい、お腹が減って家にあった食べ物をひたすら食べていたんです。そしたら食べ物が底をついちゃって。スーパーに買い出しに行ってました」
冬眠明けのクマの食欲はすごいみたいだ。おそらく私が一ヶ月は余裕で生活できるであろう量を今クマは持っている。重くないのかしらと少し気になった。
「お出かけですか?」
クマが首を傾げる。
「うん。お花見に行こうかなと思って」
「いいですね!」
「クマも一緒にどう?」
「いいんですか!」
クマの顔が輝いた。
「三毛猫の定食屋さんでお花見弁当を買って行くの」
「お花見弁当ですか!」
クマの顔がさらに輝いた。本当にわかりやすいクマだ。
「クマの準備が終わるまで待ってようか?」
私がそう言うとクマは申し訳なさそうな顔になった。
「今、腹八分、いや腹五分目ぐらいなんです。もう少し食べてお腹を落ち着かせてから行きたいんで、すみませんが先に行っててもらえますか?」
「いいわよ。じゃあ先にお弁当もらって待ってるわ。定食屋さんの近くの河川敷に行こうと思ってるの。場所はわかる?」
「はい、そこなら私もわかります」
「じゃあまた後で」
「はい、また後で」
私はクマが家に入るのを見届けると三毛猫の定食屋さんに向かった。
「そう、あの子起きたんだ」
お弁当を買いに来た定食屋さんでクマのことを伝えると三毛猫は嬉しそうに目を細めた。
「そうなんですよ。冬眠明けでお腹が減っているそうです。たくさん食べてお腹を落ち着かせてから来るって」
「そうかい、じゃあこれも持っていきな」
三毛猫はそう言うとお花見弁当が二つ入った袋とは別にもう一つ袋を渡してくれた。中を見ると美味しそうな唐揚げとカラフルな手まり寿司が詰められたパックが入っていた。
「ちょっと作り過ぎちゃってね。置いていても仕方がないから持って行ってちょうだい」
「いいんですか?」
「いいのいいの、おまけだから」
澄まし顔で言う三毛猫。そんな彼女が私にはすごく素敵な女性に見えた。
「春だから新しいことをしてみようと思ってね」
先週お店に行ったら味見をさせてくれた。鰆の西京焼きも菜の花のからし和えもとっても美味しかった。
「すごく美味しい。お花見に行く前に絶対に買いに来ますね」
私がそう言うと三毛猫は澄まし顔で「褒めても何も出ないよ」と言ったけれど尻尾は後ろでぴーんと立っている。よく見ると顔もにやけるのを我慢しているようだった。
お花見弁当は二つ。桜の下のベンチには私一人。クマはまだ来ていない。
春になり桜の見頃がやってきた。
今朝、天気もいいしそろそろお花見にでも行こうかしらと考えながら朝ご飯を食べていると
「やったー! 春だー! ぽかぽかだー!」
と外から大きなクマの声が聞こえた。その声を聞いて私は思わず口に含んだコーヒーを吹き出しそうになった。クマは相変わらず元気みたいだ。
せっかくだからお花見に誘ってみよう。私は思わずにやりとしながら朝ごはんの続きを食べ始めた。そうかやっと起きたんだ。なんだか胸の辺りが温かくなった。
朝ごはんの食器を片付け、洗濯物を干し、掃除機かける。平日に溜まった家事を終わらせると私はそのままの勢いで身支度を始めた。
くすんだデニムのシャツワンピースに黒のパーカーを羽織る。化粧はいつも通り最低限。私はショルダーバッグを下げブーツを履くと家を出た。
階段を降りてクマの家に行くと『食事中』と書かれた看板がドアにぶら下がっていた。冬眠明けでお腹が減ってるのかしら、そう思いながらそっと看板の裏を見てみる。看板の裏には『冬眠中』と書かれていた。
「冬眠中の裏は食事中だったんだ」
面白くて思わず呟いてしまった。食事中ならどうしよう、声をかけると迷惑になるかもしれない。私はインターホンを鳴らすか悩んだ。
「あ、ゆり子さん!」
私が悩んでいると後ろから明るい声がした。振り向くと両手に食べ物でぱんぱんに膨らんだレジ袋を二つずつ持ったクマがいた。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
クマはぺこりと礼儀正しく頭を下げた。
「明けましておめでとう。こちらこそ今年もよろしく」
私もクマに倣って頭を下げた。季節外れなのはわかっているが仕方がないことなのでスルーしよう。
「起きたのね」
「起きました!」
クマは今年も相変わらずニコニコしている。
「食事中?」
「はい、お腹が減って家にあった食べ物をひたすら食べていたんです。そしたら食べ物が底をついちゃって。スーパーに買い出しに行ってました」
冬眠明けのクマの食欲はすごいみたいだ。おそらく私が一ヶ月は余裕で生活できるであろう量を今クマは持っている。重くないのかしらと少し気になった。
「お出かけですか?」
クマが首を傾げる。
「うん。お花見に行こうかなと思って」
「いいですね!」
「クマも一緒にどう?」
「いいんですか!」
クマの顔が輝いた。
「三毛猫の定食屋さんでお花見弁当を買って行くの」
「お花見弁当ですか!」
クマの顔がさらに輝いた。本当にわかりやすいクマだ。
「クマの準備が終わるまで待ってようか?」
私がそう言うとクマは申し訳なさそうな顔になった。
「今、腹八分、いや腹五分目ぐらいなんです。もう少し食べてお腹を落ち着かせてから行きたいんで、すみませんが先に行っててもらえますか?」
「いいわよ。じゃあ先にお弁当もらって待ってるわ。定食屋さんの近くの河川敷に行こうと思ってるの。場所はわかる?」
「はい、そこなら私もわかります」
「じゃあまた後で」
「はい、また後で」
私はクマが家に入るのを見届けると三毛猫の定食屋さんに向かった。
「そう、あの子起きたんだ」
お弁当を買いに来た定食屋さんでクマのことを伝えると三毛猫は嬉しそうに目を細めた。
「そうなんですよ。冬眠明けでお腹が減っているそうです。たくさん食べてお腹を落ち着かせてから来るって」
「そうかい、じゃあこれも持っていきな」
三毛猫はそう言うとお花見弁当が二つ入った袋とは別にもう一つ袋を渡してくれた。中を見ると美味しそうな唐揚げとカラフルな手まり寿司が詰められたパックが入っていた。
「ちょっと作り過ぎちゃってね。置いていても仕方がないから持って行ってちょうだい」
「いいんですか?」
「いいのいいの、おまけだから」
澄まし顔で言う三毛猫。そんな彼女が私にはすごく素敵な女性に見えた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
心の落とし物
緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも
・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ )
〈本作の楽しみ方〉
本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。
知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。
〈あらすじ〉
〈心の落とし物〉はありませんか?
どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。
あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。
喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。
ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。
懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。
〈主人公と作中用語〉
・添野由良(そえのゆら)
洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。
・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉
人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。
・〈探し人(さがしびと)〉
〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。
・〈未練溜まり(みれんだまり)〉
忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。
・〈分け御霊(わけみたま)〉
生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

RD令嬢のまかないごはん
雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。
都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。
そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。
相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。
彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。
礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。
「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」
元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。
大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる