下の階にはツキノワグマが住んでいる

鞠目

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はじめましての一年目

変わるもの、変わらないもの

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 実家からの帰り道、前に住んでいた賃貸マンションに寄ってみた。カワウソが火事を起こしたあのマンションだ。
 マンションに行くことに特に意味はない。でも、なんだか急に行ってみたくなったのだ。粉雪がちらちらと舞い降る中を私はふらりふらりと歩く。
 マンションに着いて驚いた。火事があった一階の部屋は真っ黒のままだった。大家さんは修理しなかったのかしら。私は気になってそっと部屋の中を覗いてみた。そしてまた驚いた。
 真っ黒の部屋の中にはトラネコと大家のおじさんがいた。一匹と一人は缶ビール片手に七輪を囲み一緒に魚を炙っている。なんだかとっても楽しそうだった。
「仲良くなったんだ」
 私は思わず呟いてしまった。すると、ぴくんとトラネコが耳を動かし私を見た。覗いたのバレてしまった。
 どきっとして私が冷や汗をかきながら固まっていると、トラネコは私に向かってパチンとウインクした。そして何事もなかったかのように再び魚を炙り出した。
 美味しそうな匂いをかぎながら私はそーっとその場を後にして帰ることにした。

 変わらないと思っていた。
 母は私のことが嫌いになり、私は二度と実家には帰れないと思っていた。それは仕方のないことでそういうものだと諦めていた。そもそも帰りたいと思う日が来るなんて考えたこともなかった。
 変わらないと思っていた。でも実際は変わっていた。私は実家に帰りたくなった。そして母と会いお話をした。親子丼のお願いまでした。私は知らぬ間に変わっていた。
 変わらないものもあるだろう。実家の見た目は変わらなかった。周りの景色も家の中も同じだった。黒焦げになったマンションの部屋がまさかそのままとは思わなかったけれど焦げたままだった。
 でも、母も私も変わっていた。トラネコと大家さんの関係も変わっていた。なんだ、みんな変わってるじゃない。
 くだらない小さなこと。でもなんだろうその小さな変化が今の私には愛おしく思えた。トラネコと大家さんの関係は私にあまり関係ないけれど。いや、私と母の関係とトラネコと大家さんの関係は全く別物か。
 頭の中をとりとめなく考えが巡る。おかしな私。でもそれはそれでいいような気がする。

 今の我が家が見えた時、なんだかどっと疲れがやって来た。やっぱりかなり緊張していたようだ。
 階段を上がる時、クマの家にかかった『冬眠中』の看板が見えた。
「ありがとう。それから、ただいま」
 私は看板に向かって小声で言った。
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