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はじめましての一年目
手作りマーケットは来週でした
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電車の中はがらりと空いていて私たちは並んで座った。車内はとっても暖かく座っているとすぐに眠くなった。隣を見るとクマは既に気持ちよさそうに寝ていた。そしてクマの膝の上でリスの親子も気持ちよさそうに寝ていた。私はまた胸の奥がぎゅっとなった。
柔らかそうなクマの肩の誘惑に耐えつつ私は15分間電車に揺られた。隣町の駅に着くと私は爆睡しているクマを起こして電車を降りた。そして寝起きのクマを引っ張って改札に向かった。
リスの親子とは改札を出たところでお別れした。私たちが見送っているとリスの子どもが一度振り向いて手を振ってくれた。私は寂しくて少し泣きそうになった。
駅を出たところにある駅前の広場には大きな紅葉の木が立っていた。赤く綺麗な紅葉の木、私たちは思わず見入ってしまった。
「綺麗ね、とっても」
「綺麗ですね、とっても」
私たちはふらふらと紅葉の木の下に吸い寄せられて行った。真下から見上げると木は思っていた以上に大きくて少し驚いた。首が痛くなるまで見上げてから足元を見ると落ち葉が鮮やかな絨毯のように広がっていた。
私はふと目についた綺麗な葉を一枚拾ってポケットに入れた。とっても綺麗だったから連れて帰りたくなったのだ。
「ゆり子さん!」
突然クマが大きな声を出した。私はびっくりしてクマを見ると何故かすごい得意げな顔をしている。
「紅葉を持って帰るなら任せてください!」
「何を?」
私には何を言ってるのかわからなかった。
「もっと綺麗な葉っぱを取ってみせます!」
「私、今のでいいんだけど」
「すぐに終わるので待っててください!」
クマは私の返事も聞かずに風に舞う紅葉を追いかけ始めた。
紅葉を追いかけるクマのダンスは結局30分ぐらい続いた。クマが踊り続ける間、私は飽きることなく眺めていた。
「お待たせしました!」
少し息が上がっているクマ。でも顔は満足気だ。踊り続けた末にクマが取ってくれた葉はすごく綺麗だった。
「ありがとう」
私はクマがくれた葉を鞄に入れていた手帳にそっと挟んだ。
何もなかった。
手作りマーケットが行われているとクマが言った隣町の公園。そこに私たちは駅からふらふらと歩いてやってきた。入り口に到着し中を見渡すとそこには何もなかった。
いや、何もないと言えば語弊がある。ブランコに大きな大きな滑り台、シーソーをはじめとする様々な遊具。座り心地の良さそうなベンチ。綺麗な外観の公衆トイレもある。公園の奥には芝生の生えた広場も見える。
公園はとても広くて野球場ぐらいありそうだ。ボールで遊ぶ家族連れやベンチで休憩中のおじいさん、犬とお散歩中のおばさんなど公園の中はかなり賑わっている。でも何かを売っているようなお店は一つも見当たらない。
「綺麗な公園ね。でも……」
「でしょう! 好きな公園なんですよね、ここ」
クマが食い気味で話してきた。
「奥に芝生が見えるわね。でも……」
「そうなんです! 今日みたいな日にはピクニックにぴったりなんですよ! しかも……」
やっぱりクマは食い気味で話してくる。私はもやっとしたので話を遮ることにした。
「クマ」
「あ、はい」
「お店が一つも出てないわね」
「えっと、それは……」
クマの目が宙を彷徨う。
「ねえ、ゴリラさんのバナナケーキは?」
クマの目がぴたっと止まった。そして目が点になり口があんぐりと開いた。
「クマ?」
「ごめんなさい! 日付を勘違いしてました」
そう言うとクマは突然深く深く頭を下げた。そしてすぐに頭を上げたかと思うとどたどたと公園の奥に向かって走り出した。もちろん二足歩行で。
クマはどんどん遠くまで走っていく。一体どこまで行くのかしら。置いて行かれた私は特にすることもないので小さくなっていくクマの背中を見ていた。
「ゆり子さーん!」
結局クマは公園の端っこまで走って行った。そしてこっちに向かって手を振りながら大声で私の名を呼んだ。当然のことながら公園中に私の名が響いた。
公園にいた人たちがみんな一斉にクマのいる方を見た。そしてまた一斉にクマが手を振る対象である私に好奇の眼差しを向けた。視線に耐えきれず私は思わず俯いた。顔が熱っていくのがわかる。
「恥ずかしい……」
私は俯きながら小走りでクマの元へ向かった。
「ごめんなさい、手作りマーケットは来週でした」
クマの元に辿り着くとクマが申し訳なさそうに掲示板に貼られたポスターを指さした。そこに書かれた開催日は確かに来週だった。
「勘違いしてました。ごめんなさい」
しょぼくれたクマ。俯いた姿はいつもより小さく見えた。そんなことされると怒れないじゃないか。いや、別に怒ってないけれど。
「まあ、そんなこともあるわよ。でも、よくこのポスターの字が見えたわね。クマって視力いいの?」
クマがあんまり落ち込むので私は話を逸らしてやることにした。
「視力ですか? ツキノワグマはあまり視力がよくないそうです」
クマは顔を上げると「どうしてそんなことを聞くの?」と、顔に出しながら私を見た。目は口ほどに物を言うと言うけれど、このクマは目と言うより顔だなあと思う。いや、その前にさっきまでの落ち込んでいた顔をどこにやったのよこいつは。私は心の中でため息をついた。
「じゃあどうしてこの文字が見えたのよ?」
「私はツキノワグマの中では珍しくとても目がいいみたいです」
「……ああ、そうなのね」
クマがあっけらかんと言うので私はそれ以上何も言えなかった。
柔らかそうなクマの肩の誘惑に耐えつつ私は15分間電車に揺られた。隣町の駅に着くと私は爆睡しているクマを起こして電車を降りた。そして寝起きのクマを引っ張って改札に向かった。
リスの親子とは改札を出たところでお別れした。私たちが見送っているとリスの子どもが一度振り向いて手を振ってくれた。私は寂しくて少し泣きそうになった。
駅を出たところにある駅前の広場には大きな紅葉の木が立っていた。赤く綺麗な紅葉の木、私たちは思わず見入ってしまった。
「綺麗ね、とっても」
「綺麗ですね、とっても」
私たちはふらふらと紅葉の木の下に吸い寄せられて行った。真下から見上げると木は思っていた以上に大きくて少し驚いた。首が痛くなるまで見上げてから足元を見ると落ち葉が鮮やかな絨毯のように広がっていた。
私はふと目についた綺麗な葉を一枚拾ってポケットに入れた。とっても綺麗だったから連れて帰りたくなったのだ。
「ゆり子さん!」
突然クマが大きな声を出した。私はびっくりしてクマを見ると何故かすごい得意げな顔をしている。
「紅葉を持って帰るなら任せてください!」
「何を?」
私には何を言ってるのかわからなかった。
「もっと綺麗な葉っぱを取ってみせます!」
「私、今のでいいんだけど」
「すぐに終わるので待っててください!」
クマは私の返事も聞かずに風に舞う紅葉を追いかけ始めた。
紅葉を追いかけるクマのダンスは結局30分ぐらい続いた。クマが踊り続ける間、私は飽きることなく眺めていた。
「お待たせしました!」
少し息が上がっているクマ。でも顔は満足気だ。踊り続けた末にクマが取ってくれた葉はすごく綺麗だった。
「ありがとう」
私はクマがくれた葉を鞄に入れていた手帳にそっと挟んだ。
何もなかった。
手作りマーケットが行われているとクマが言った隣町の公園。そこに私たちは駅からふらふらと歩いてやってきた。入り口に到着し中を見渡すとそこには何もなかった。
いや、何もないと言えば語弊がある。ブランコに大きな大きな滑り台、シーソーをはじめとする様々な遊具。座り心地の良さそうなベンチ。綺麗な外観の公衆トイレもある。公園の奥には芝生の生えた広場も見える。
公園はとても広くて野球場ぐらいありそうだ。ボールで遊ぶ家族連れやベンチで休憩中のおじいさん、犬とお散歩中のおばさんなど公園の中はかなり賑わっている。でも何かを売っているようなお店は一つも見当たらない。
「綺麗な公園ね。でも……」
「でしょう! 好きな公園なんですよね、ここ」
クマが食い気味で話してきた。
「奥に芝生が見えるわね。でも……」
「そうなんです! 今日みたいな日にはピクニックにぴったりなんですよ! しかも……」
やっぱりクマは食い気味で話してくる。私はもやっとしたので話を遮ることにした。
「クマ」
「あ、はい」
「お店が一つも出てないわね」
「えっと、それは……」
クマの目が宙を彷徨う。
「ねえ、ゴリラさんのバナナケーキは?」
クマの目がぴたっと止まった。そして目が点になり口があんぐりと開いた。
「クマ?」
「ごめんなさい! 日付を勘違いしてました」
そう言うとクマは突然深く深く頭を下げた。そしてすぐに頭を上げたかと思うとどたどたと公園の奥に向かって走り出した。もちろん二足歩行で。
クマはどんどん遠くまで走っていく。一体どこまで行くのかしら。置いて行かれた私は特にすることもないので小さくなっていくクマの背中を見ていた。
「ゆり子さーん!」
結局クマは公園の端っこまで走って行った。そしてこっちに向かって手を振りながら大声で私の名を呼んだ。当然のことながら公園中に私の名が響いた。
公園にいた人たちがみんな一斉にクマのいる方を見た。そしてまた一斉にクマが手を振る対象である私に好奇の眼差しを向けた。視線に耐えきれず私は思わず俯いた。顔が熱っていくのがわかる。
「恥ずかしい……」
私は俯きながら小走りでクマの元へ向かった。
「ごめんなさい、手作りマーケットは来週でした」
クマの元に辿り着くとクマが申し訳なさそうに掲示板に貼られたポスターを指さした。そこに書かれた開催日は確かに来週だった。
「勘違いしてました。ごめんなさい」
しょぼくれたクマ。俯いた姿はいつもより小さく見えた。そんなことされると怒れないじゃないか。いや、別に怒ってないけれど。
「まあ、そんなこともあるわよ。でも、よくこのポスターの字が見えたわね。クマって視力いいの?」
クマがあんまり落ち込むので私は話を逸らしてやることにした。
「視力ですか? ツキノワグマはあまり視力がよくないそうです」
クマは顔を上げると「どうしてそんなことを聞くの?」と、顔に出しながら私を見た。目は口ほどに物を言うと言うけれど、このクマは目と言うより顔だなあと思う。いや、その前にさっきまでの落ち込んでいた顔をどこにやったのよこいつは。私は心の中でため息をついた。
「じゃあどうしてこの文字が見えたのよ?」
「私はツキノワグマの中では珍しくとても目がいいみたいです」
「……ああ、そうなのね」
クマがあっけらかんと言うので私はそれ以上何も言えなかった。
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