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はじめましての一年目
ついつい飲み過ぎる
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「あの、ゆり子さん? ゆり子さんってもしかしてかなりお酒強いです?」
心配そうにクマが私を見ている。私がほとんど一気に飲み干したからかしら? 心配しなくても大丈夫なのに。
「クマ」
「はい」
「はちみつビール美味しいわね」
「あ、はい、美味しいですね。やっぱりビールははちみ……」
「クマ」
「あ、はい」
「おかわり」
私はクマの話を無視して空っぽのジョッキを突き出した。
「クマ用サイズね」
「はいっ」
クマは慌ててぐいーっと自分のジョッキに残ったビールを飲み干すと、すたこらとおかわりを取りに行ってくれた。
クマを待つ間に頼んでいた食べ物が届き私はぱくぱく食べた。それからはちみつビールになんとなく合いそうと思ったサツマイモとカボチャのマヨネーズサラダと唐揚げ、それからモッツァレラチーズのピザを頼んだ。
「取ってきました! わっ! わっ! 美味しそうな食べ物がいっぱい!」
クマが戻ってくるのとほとんど同時にイノシシの店員さんが注文したお料理を運んできてくれた。さっきよりもクマが戻ってくるのに時間がかかったのでちょうどよかった。
テーブルに並べられていくお料理を見てクマは嬉しそうにはしゃいだ。
「でしょー、絶対に美味しいわよ」
「ゆり子さんはやっぱりセンスがありますね。どれも本当に美味しそうだしビールにあいそう」
クマに褒められた私は嬉しくなってビールをぐいっと喉に注いだ。頼んだお料理はどれも美味しかった。特にピザがビールによく合った。美味しくて美味しくて調子に乗った私は何度も何度もクマにビールのおかわりを取りに行かせた。もちろんクマ用のサイズで。
たくさん食べ、たくさん飲んでいるうちに私の視界はぼやけていった。そしていつの間にか私の視界は真っ暗になっていた。
後悔することは無駄だと思う。だっていくら後悔しても過去はやり直せないから。後悔するより過ぎたことは忘れて前を見ていたい。いつもそう思う。
でも、今それができないでいる。三時間、いや一時間でいい。時間を巻き戻したい。
「思い出しましたか?」
私をおんぶしているクマが聞いてくる。顔が見えないからわからないけれど割と気にかけてくれているみたいだ。
「思い出しました……」
「それはよかった」
クマの体が小刻みに震え出した。声も少し笑いを堪えきれていない。私は腹が立ち無言でクマの肩をぽかぽか殴った。クマの肩は柔らかくて叩くとなんだか面白かった。
「そうだ、お会計は?」
クマの肩を叩いているとふとお会計のことを思い出した。食事券をもらったからビアガーデンに行ったのに私は食事券を出した記憶がない。
「ゆり子さんがちゃんと食事券を出してくれましたよ」
「そう、よかった」
私は胸を撫で下ろした。でもすぐに嫌な予感がした。クマがまたぷるぷると体を震わせ出したから。
「ゆり子さん、帰る前にヒグマさんをテーブルに呼び出したこと覚えてないんですか?」
「なにそれ? 嘘でしょ?」
そんなの全く記憶にない。ヒグマさんを呼び出す? 私が? まさかそんなことする訳がない。
「本当に覚えてないんですか? お酒とお料理のことをいっぱい褒めた後に『釣りはいらねえ!』って言って食事券をテーブルに叩きつけたんですよ」
「嘘でしょ……」
「食事券出して釣りはいらねえって……見ていて楽しかったですよ」
クマがくくくと笑っているが怒る気になれなかった。私は夜空を見上げて自分の愚行に絶望した。
「ああ、誰でもいいから時間を巻き戻して。もう今すぐに!」
少し大きめの声で空に向かって言ってみた。だけど私の願いが叶えられることはなかった。クマがさらにくくくと笑った。
私たちのマンションが遠くに見えてきた。相変わらず私はクマにおんぶしてもらっている。
たまにすれ違う人の視線にも慣れてきた。最初は恥ずかしかったけれど今はちょっと自慢したい気持ちになってきている。だってクマにおんぶしてもらえることなんてなかなかないもの。
「私、酔っ払って他に変なことしてない?」
だいぶ頭が回るようになった私は心配になって聞いてみた。まだ食事券をテーブルに叩きつけた記憶はどう頑張っても思い出せない。もしかしたら他にも何かやらかしてるんじゃないかとだんだん不安になってきた。
「大丈夫ですよ、お店を出た後すぐに寝ちゃったんでおんぶさせてもらいました」
「そっか。ならよかった」
私はふーっと息を吐いた。よかった。いや、よくはないけれどこれ以上変なことをしていたらもう私は恥ずかしすぎておかしくなってしまうと思う。お酒の飲み過ぎには本当に気をつけなきゃ。
「あ、そうだ……」
「え、なに?」
クマが思い出したかのように話し出した。
「何度か寝言を言ってましたよ」
「もう最悪……私なんて言ってた?」
「ほとんど聞き取れませんでしたがいろいろ言ってましたよ。そうそう、何度か『お母さん』って言ったのは聞き取れました」
私は一気に酔いが覚めた。鏡を見なくてもわかる。今は誰にも顔を見られたくない。絶対にひどい顔をしているから。今日初めてクマにおんぶしてもらっててよかったと思った。
「ゆり子さん? どうかされました?」
「え? ああ、ごめん。大丈夫よ」
しっかりしなきゃ。自分がまさかそんなことを口に出すなんて思ってなかったからつい動揺してしまった。
そうこうしているうちに私たちはマンションに着いた。
心配そうにクマが私を見ている。私がほとんど一気に飲み干したからかしら? 心配しなくても大丈夫なのに。
「クマ」
「はい」
「はちみつビール美味しいわね」
「あ、はい、美味しいですね。やっぱりビールははちみ……」
「クマ」
「あ、はい」
「おかわり」
私はクマの話を無視して空っぽのジョッキを突き出した。
「クマ用サイズね」
「はいっ」
クマは慌ててぐいーっと自分のジョッキに残ったビールを飲み干すと、すたこらとおかわりを取りに行ってくれた。
クマを待つ間に頼んでいた食べ物が届き私はぱくぱく食べた。それからはちみつビールになんとなく合いそうと思ったサツマイモとカボチャのマヨネーズサラダと唐揚げ、それからモッツァレラチーズのピザを頼んだ。
「取ってきました! わっ! わっ! 美味しそうな食べ物がいっぱい!」
クマが戻ってくるのとほとんど同時にイノシシの店員さんが注文したお料理を運んできてくれた。さっきよりもクマが戻ってくるのに時間がかかったのでちょうどよかった。
テーブルに並べられていくお料理を見てクマは嬉しそうにはしゃいだ。
「でしょー、絶対に美味しいわよ」
「ゆり子さんはやっぱりセンスがありますね。どれも本当に美味しそうだしビールにあいそう」
クマに褒められた私は嬉しくなってビールをぐいっと喉に注いだ。頼んだお料理はどれも美味しかった。特にピザがビールによく合った。美味しくて美味しくて調子に乗った私は何度も何度もクマにビールのおかわりを取りに行かせた。もちろんクマ用のサイズで。
たくさん食べ、たくさん飲んでいるうちに私の視界はぼやけていった。そしていつの間にか私の視界は真っ暗になっていた。
後悔することは無駄だと思う。だっていくら後悔しても過去はやり直せないから。後悔するより過ぎたことは忘れて前を見ていたい。いつもそう思う。
でも、今それができないでいる。三時間、いや一時間でいい。時間を巻き戻したい。
「思い出しましたか?」
私をおんぶしているクマが聞いてくる。顔が見えないからわからないけれど割と気にかけてくれているみたいだ。
「思い出しました……」
「それはよかった」
クマの体が小刻みに震え出した。声も少し笑いを堪えきれていない。私は腹が立ち無言でクマの肩をぽかぽか殴った。クマの肩は柔らかくて叩くとなんだか面白かった。
「そうだ、お会計は?」
クマの肩を叩いているとふとお会計のことを思い出した。食事券をもらったからビアガーデンに行ったのに私は食事券を出した記憶がない。
「ゆり子さんがちゃんと食事券を出してくれましたよ」
「そう、よかった」
私は胸を撫で下ろした。でもすぐに嫌な予感がした。クマがまたぷるぷると体を震わせ出したから。
「ゆり子さん、帰る前にヒグマさんをテーブルに呼び出したこと覚えてないんですか?」
「なにそれ? 嘘でしょ?」
そんなの全く記憶にない。ヒグマさんを呼び出す? 私が? まさかそんなことする訳がない。
「本当に覚えてないんですか? お酒とお料理のことをいっぱい褒めた後に『釣りはいらねえ!』って言って食事券をテーブルに叩きつけたんですよ」
「嘘でしょ……」
「食事券出して釣りはいらねえって……見ていて楽しかったですよ」
クマがくくくと笑っているが怒る気になれなかった。私は夜空を見上げて自分の愚行に絶望した。
「ああ、誰でもいいから時間を巻き戻して。もう今すぐに!」
少し大きめの声で空に向かって言ってみた。だけど私の願いが叶えられることはなかった。クマがさらにくくくと笑った。
私たちのマンションが遠くに見えてきた。相変わらず私はクマにおんぶしてもらっている。
たまにすれ違う人の視線にも慣れてきた。最初は恥ずかしかったけれど今はちょっと自慢したい気持ちになってきている。だってクマにおんぶしてもらえることなんてなかなかないもの。
「私、酔っ払って他に変なことしてない?」
だいぶ頭が回るようになった私は心配になって聞いてみた。まだ食事券をテーブルに叩きつけた記憶はどう頑張っても思い出せない。もしかしたら他にも何かやらかしてるんじゃないかとだんだん不安になってきた。
「大丈夫ですよ、お店を出た後すぐに寝ちゃったんでおんぶさせてもらいました」
「そっか。ならよかった」
私はふーっと息を吐いた。よかった。いや、よくはないけれどこれ以上変なことをしていたらもう私は恥ずかしすぎておかしくなってしまうと思う。お酒の飲み過ぎには本当に気をつけなきゃ。
「あ、そうだ……」
「え、なに?」
クマが思い出したかのように話し出した。
「何度か寝言を言ってましたよ」
「もう最悪……私なんて言ってた?」
「ほとんど聞き取れませんでしたがいろいろ言ってましたよ。そうそう、何度か『お母さん』って言ったのは聞き取れました」
私は一気に酔いが覚めた。鏡を見なくてもわかる。今は誰にも顔を見られたくない。絶対にひどい顔をしているから。今日初めてクマにおんぶしてもらっててよかったと思った。
「ゆり子さん? どうかされました?」
「え? ああ、ごめん。大丈夫よ」
しっかりしなきゃ。自分がまさかそんなことを口に出すなんて思ってなかったからつい動揺してしまった。
そうこうしているうちに私たちはマンションに着いた。
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