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はじめましての一年目
クマから聞いた昔話
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今からとんと昔、ある山に大きな大きなクマがいた。クマがとっても大きいので、他の動物たちはクマとお話しする時はいつも見上げていた。リスやネズミは体が小さいから見上げては首が痛いと嘆いていた。
クマは優しかった。怪我をして動けなくなったものがいれば医者の所まで運んでやった。嵐で家が吹き飛ばされたものがいれば頑丈な家を作ってやった。お腹を減らしたものがいればおいしいはちみつを分けてやった。そんな優しいクマのことがみんな大好きだった。
ある日、クマの家にウサギがやってきた。美味しいクッキーを焼いてやってきた。クマは喜び、ウサギをもてなした。
二匹で仲良くコーヒーを飲みながらクッキーを食べていると、ウサギが突然真面目な顔でクマに聞いた。
「ねえ、クマは何か欲しいものはないの?」
クマは困った。かなり困った。なぜならクマは今まで何かが欲しいと思ったことなんて一度もなかったからだ。
困って困ってうんうん唸った。でも何も思い浮かばなかった。そんなクマを見てウサギはさらに聞いた。
「クマは何が好きなの?」
クマはまた困った。さらに困った。クマには好きなものがたくさんあった。たくさんあり過ぎて選ぶことができず、なんて答えたらいいのかわからなくなった。クマはいっぱいうんうん唸ってみた。でも、やっぱり答えはわからなかった。
クマはウサギがいることを忘れて考えた。ずーっとずーっと考えた。頭を抱えて考えた。うんうん唸って考えた。
ウサギはしばらく考えるクマを見つめていた。でも、だんだん飽きてきていつの間にか寝てしまっていた。
ぼてっ
何かが落ちる音がしてクマはハッとした。気がつけば日は沈み夜になっていた。クマは音の原因を探すためにキョロキョロすると、向かいの椅子の下に寝ぼけたウサギが落ちていた。
クマはウサギを優しく抱きかかえてソファに座らせてやった。それから電気をつけてカーテンを閉めはじめた。そんな時だ。何気なく外を見たクマの目に綺麗な三日月が映った。
「あ、ぼくはお月さまが好きだな」
クマはうっとりしながら小さな小さな声で言った。アリの囁きぐらい小さな声で言った。でもウサギの耳はそれを聞き逃さなかった。
「お月さまか。わかった! じゃあまた!」
ウサギは飛び起きてそう言うと、ぴょこぴょこ帰っていった。クマは遠くに離れて行くウサギの小さな背中に向かって「またねー」と手を振った。
ウサギが遊びに来た一週間後の朝、目覚めて早々クマは驚いた。起きるとクマの胸に三日月模様ができていたのだ。
びっくりしたクマが固まっていると家のドアをノックする音が聞こえた。ドアを開けるとそこにはウサギやタヌキやキツネ、たくさんの動物たちがいた。
「どうしたの?」
クマがびっくりしながら聞くとみんなはにこにこしながら言った。
「お誕生日おめでとう!」
クマは忘れていたが今日はクマの誕生日だった。
「いつもお世話になってるから恩返しがしたくて、みんなでプレゼントを考えたんだ」
嬉しそうにキツネが言った。
「クマがお月さまが好きって言ったからお月さまにお願いしたんだ」
ぴょこぴょこ跳ねながらウサギが言った。
「何をお月さまにお願いしたの?」
クマは自分の胸を見て、それから首を傾げて聞いた。
「お月さまの光を少し分けってもらったんだよ。それでクマの胸にお月さまの光が宿ったのさ」
最年長のカメが教えてくれた。
「そうなんだ。みんなありがとう!」
クマはよくわからないけれど胸がぽかぽかした。胸がぽかぽかしてにこにこ笑った。にこにこと笑うクマを見てみんな嬉しくなった。
「さ、プレゼントのお話はひとまず置いといて、せっかくのお誕生日なんだからみんなでケーキを食べようよ」
ウサギはそう言うと木陰から大きな大きなバースデーケーキを運んできた。それを見てクマもみんなも大喜び。ケーキは山のてっぺんの広場で食べることになった。
みんなでケーキを食べ終えた後はキツネがタルトを、ネズミが紅茶を持ってきてくれた。時間が経つにつれて広場にはどんどんたくさんの動物たちが食べ物や飲み物を持って集まってきた。この日、広場では夜遅くまでパーティーが続いた。
そんなことがあったとかなかったとかで、いつの間にかツキノワグマのご先祖さまができたんだとさ。めでたしめでたし。
クマはそこまで話すと、ふーっと息を吐き、それからコーヒーをぐいっと飲んだ。
「不思議なお話ね」
私は思わず思ったことを言ってしまった。最後、あったとかなかったとかって曖昧だし、お月さまの光ってなんだろう。気になることが多すぎる。
「おばあちゃんが話してくれた昔話です。子どもの頃、毎日毎日寝る前に話してくれたんですよ」
クマは楽しそうにコーヒーサーバーからコーヒーを注ぎ足している。なんだか話し終えて満足そうだ。
「ツキノワグマのご先祖さまって大きいクマだったのね」
「みたいです。だから私もこんなに大きくなりました」
「なるほど……」
私は納得したような、してないような不思議な気持ちになった。ツキノワグマの平均身長を知らないけれど目の前のクマはすごく大きい気がする。
「それでどうして誰かとおうちでコーヒーが飲みたいと思ったの?」
聞いてみた。なんとなくわかるような気もしたけれどクマの口から聞きたくなったから。
「ウサギとクッキーを食べるところが好きなんです。なんだか美味しそうだなあって思って」
クマはマグを両手で抱えコーヒーを見ながら温かく微笑んでいる。
「そうなんだ」
そんなクマを見て私は思わず笑ってしまった。なにこれ、大きなぬいぐるみを見ているみたい。ちょっとかわいい。
「じゃあ今度来る時はクッキーを持ってくるわね」
思わず言ってしまった。
がたん
大きな音にびっくりして前を見るとクマがテーブルに手を着いて立ち上がっていた。
「本当ですか!」
「ええ、もちろん。好きなクッキーはある?」
「どんなクッキーも好きです! もちろんビスケットも大好きです!」
クマは嬉しそうに笑った。本当にこのクマは……。私もつられて笑っていた。
クマは優しかった。怪我をして動けなくなったものがいれば医者の所まで運んでやった。嵐で家が吹き飛ばされたものがいれば頑丈な家を作ってやった。お腹を減らしたものがいればおいしいはちみつを分けてやった。そんな優しいクマのことがみんな大好きだった。
ある日、クマの家にウサギがやってきた。美味しいクッキーを焼いてやってきた。クマは喜び、ウサギをもてなした。
二匹で仲良くコーヒーを飲みながらクッキーを食べていると、ウサギが突然真面目な顔でクマに聞いた。
「ねえ、クマは何か欲しいものはないの?」
クマは困った。かなり困った。なぜならクマは今まで何かが欲しいと思ったことなんて一度もなかったからだ。
困って困ってうんうん唸った。でも何も思い浮かばなかった。そんなクマを見てウサギはさらに聞いた。
「クマは何が好きなの?」
クマはまた困った。さらに困った。クマには好きなものがたくさんあった。たくさんあり過ぎて選ぶことができず、なんて答えたらいいのかわからなくなった。クマはいっぱいうんうん唸ってみた。でも、やっぱり答えはわからなかった。
クマはウサギがいることを忘れて考えた。ずーっとずーっと考えた。頭を抱えて考えた。うんうん唸って考えた。
ウサギはしばらく考えるクマを見つめていた。でも、だんだん飽きてきていつの間にか寝てしまっていた。
ぼてっ
何かが落ちる音がしてクマはハッとした。気がつけば日は沈み夜になっていた。クマは音の原因を探すためにキョロキョロすると、向かいの椅子の下に寝ぼけたウサギが落ちていた。
クマはウサギを優しく抱きかかえてソファに座らせてやった。それから電気をつけてカーテンを閉めはじめた。そんな時だ。何気なく外を見たクマの目に綺麗な三日月が映った。
「あ、ぼくはお月さまが好きだな」
クマはうっとりしながら小さな小さな声で言った。アリの囁きぐらい小さな声で言った。でもウサギの耳はそれを聞き逃さなかった。
「お月さまか。わかった! じゃあまた!」
ウサギは飛び起きてそう言うと、ぴょこぴょこ帰っていった。クマは遠くに離れて行くウサギの小さな背中に向かって「またねー」と手を振った。
ウサギが遊びに来た一週間後の朝、目覚めて早々クマは驚いた。起きるとクマの胸に三日月模様ができていたのだ。
びっくりしたクマが固まっていると家のドアをノックする音が聞こえた。ドアを開けるとそこにはウサギやタヌキやキツネ、たくさんの動物たちがいた。
「どうしたの?」
クマがびっくりしながら聞くとみんなはにこにこしながら言った。
「お誕生日おめでとう!」
クマは忘れていたが今日はクマの誕生日だった。
「いつもお世話になってるから恩返しがしたくて、みんなでプレゼントを考えたんだ」
嬉しそうにキツネが言った。
「クマがお月さまが好きって言ったからお月さまにお願いしたんだ」
ぴょこぴょこ跳ねながらウサギが言った。
「何をお月さまにお願いしたの?」
クマは自分の胸を見て、それから首を傾げて聞いた。
「お月さまの光を少し分けってもらったんだよ。それでクマの胸にお月さまの光が宿ったのさ」
最年長のカメが教えてくれた。
「そうなんだ。みんなありがとう!」
クマはよくわからないけれど胸がぽかぽかした。胸がぽかぽかしてにこにこ笑った。にこにこと笑うクマを見てみんな嬉しくなった。
「さ、プレゼントのお話はひとまず置いといて、せっかくのお誕生日なんだからみんなでケーキを食べようよ」
ウサギはそう言うと木陰から大きな大きなバースデーケーキを運んできた。それを見てクマもみんなも大喜び。ケーキは山のてっぺんの広場で食べることになった。
みんなでケーキを食べ終えた後はキツネがタルトを、ネズミが紅茶を持ってきてくれた。時間が経つにつれて広場にはどんどんたくさんの動物たちが食べ物や飲み物を持って集まってきた。この日、広場では夜遅くまでパーティーが続いた。
そんなことがあったとかなかったとかで、いつの間にかツキノワグマのご先祖さまができたんだとさ。めでたしめでたし。
クマはそこまで話すと、ふーっと息を吐き、それからコーヒーをぐいっと飲んだ。
「不思議なお話ね」
私は思わず思ったことを言ってしまった。最後、あったとかなかったとかって曖昧だし、お月さまの光ってなんだろう。気になることが多すぎる。
「おばあちゃんが話してくれた昔話です。子どもの頃、毎日毎日寝る前に話してくれたんですよ」
クマは楽しそうにコーヒーサーバーからコーヒーを注ぎ足している。なんだか話し終えて満足そうだ。
「ツキノワグマのご先祖さまって大きいクマだったのね」
「みたいです。だから私もこんなに大きくなりました」
「なるほど……」
私は納得したような、してないような不思議な気持ちになった。ツキノワグマの平均身長を知らないけれど目の前のクマはすごく大きい気がする。
「それでどうして誰かとおうちでコーヒーが飲みたいと思ったの?」
聞いてみた。なんとなくわかるような気もしたけれどクマの口から聞きたくなったから。
「ウサギとクッキーを食べるところが好きなんです。なんだか美味しそうだなあって思って」
クマはマグを両手で抱えコーヒーを見ながら温かく微笑んでいる。
「そうなんだ」
そんなクマを見て私は思わず笑ってしまった。なにこれ、大きなぬいぐるみを見ているみたい。ちょっとかわいい。
「じゃあ今度来る時はクッキーを持ってくるわね」
思わず言ってしまった。
がたん
大きな音にびっくりして前を見るとクマがテーブルに手を着いて立ち上がっていた。
「本当ですか!」
「ええ、もちろん。好きなクッキーはある?」
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