中島は考えた。廃墟に行けばバズるはずだと

鞠目

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深夜もう一度あの廃墟へ

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「ふう。ちょっと待って」
 何度目かでゲームが終了した時、茂がそう言って、コントローラーを床に置いた。ぷよぷよを始めてから気付けば二時間以上経っていた。両腕を上にあげて伸びをし、数秒後に脱力する。一つ息をつく。
「疲れたか?」
「いや、大丈夫」
 高志もチューハイの缶を手に取ったが、さっき飲み干して空になったことを思い出し、立ち上がった。
「お前もいる?」
「あ、欲しい」
 冷蔵庫から缶を二本取り出して、居間に戻る。ビールを茂に手渡すと、高志も座って新しいチューハイの缶を開けた。一口飲むと、冷蔵庫から出したばかりのそれは随分と冷たく感じられた。
 束の間、沈黙が訪れる。お互いに時折缶を口に運びながら、何を話すこともなく、並んで座っていた。横目で見ると、茂は缶を手に持ったまま少しだけ俯いている。気付かれないうちに視線を外して、高志は再びチューハイを一口飲んだ。
 数秒後、今度は自分に向けられた視線を感じて、高志はまた茂の方を見た。こちらをじっと見ている茂と目が合い、はっとする。その瞬間が間もなく訪れることを察して、高志は身構えた。
 茂は珍しく少し躊躇しているように見えた。しかし、やはり身を起こすと、高志に近付いてきた。そのまま唇が重なる。無意識に高志は身を引いた。柔らかい感触が唇を覆う。この後自分が口にすべき言葉を思い浮かべると、少しだけ胸に圧迫感がせり上がってきた。
 またしばし躊躇ったような間の後に、少し開いた高志の唇から茂の舌が入ってくる。その感触を得た瞬間、分かっているのにするんだな、と高志は諦念にも似た感情を覚えた。自分が今から告げる言葉を、茂は分かっている。分かっているからこそ、今少しだけ迷ったんじゃないのか。分かっているくせに。
 高志は目を閉じると、茂の両肩を掴み、力を込めて身を離した。
「――細谷」
 肩を掴まれて遠ざけられた茂は、驚く様子もなく、高志を見返してきた。自分の鼓動が突然強くなったのを感じながら、高志も茂の顔を見た。
 そして高志は、何度も頭の中で繰り返した問いをついに口にした。今までどうしても聞くことができなかったことを。
「……もし俺が、もうこういうことしたくないって言ったら」
 茂が、薄く開いていた口を閉じる。全て理解しているかのような表情をしている。高志は茂の肩から手を離した。
「お前……友達やめんの」
 茂はしばらく答えなかった。
 結局あの時に戻った。茂が暗闇の中で、明日から友達をやめていい、と言ったあの夜。高志はそこに直面することをずっと避けてきた。答えを出さないようにしていたその努力は、しかし単に先延ばしの効果しか持たなかった。
 しばらく無言で見つめ合う。そして無表情に高志を見る茂の、その目に反射する光がひときわ強くなったように見えた瞬間、茂は目を逸らした。そうして俯く茂を、高志はただ見ていた。他の人間には見せない、多分高志にだけ見せているのかもしれない、茂の素の表情。結構よく泣くんだな、とぼんやりと思う。そして、その高志に対してすら、きっと茂は何か月もずっと意識して笑顔を作っていたに違いなかった。
「……言うなよ」
 茂が、ようやく小さな声で言った。
 それは高志が望んでいた返答ではなかった。そんなことはない、という言葉を高志は待っていた。しかし代わりに与えられたその答えは、茂が今でもその選択肢を手放していないことを言外に伝えてきた。
「……今日で最後にするから」
 それでももうしたくない、と言える覚悟が高志にはなかった。何も言えなかった。

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