ナイトステップ

内田ユライ

文字の大きさ
上 下
11 / 41
第三章

臨港パークの吠える犬

しおりを挟む

 梶山が優秀だったのか、運が味方したのか、連絡先はすぐに判明した。

 港が見える、きれいに整備された公園を歩きながら、目的地を目指す。正午を回ったところで、土曜日もあって芝生にシートを敷いて昼食をとる家族や、犬連れの二人組、若いカップル、のんびり散歩している年配者、ジョギング中のスポーツウェア姿などで賑わっていた。
 薄曇りの天候ですこし冷えるが、花壇には色とりどり、種類の違う花がきれいに咲きそろっている。

「ウチの母親がなんでもかんでもしまいこんでる人だったから助かったよ。名刺が残ってたんだ」
「名刺?」
「そう。須藤さんはなんかカルチャースクールの講師をやってるって言ってたんだ。連絡先として名刺もらってた。ダメ元でメールで連絡してみたら」

 梶山は目の前で、二枚の細長い紙――入場チケットをひらつかせた。「こいつが送られてきたってわけだ」

「それ……いったい、なんのチケットだよ」
「大さん橋ホールの手作り品のイベントだってさ」
「そんなのあるのか」
「あるみたいだなー、実際」

 俺も知らなかったよ、と梶山は言った。

「ディーラーとして出てるって書いてあった。出展番号がこれ」
 チケットの裏に書かれた番号。
「わざわざ来てもらうのも気詰まりだろうから、遊びがてらイベント覗いて帰るといいって書いてあった。午後はそれほど混まないから、話も聞けるって」

「なんで久しぶりに会う場所がイベント会場なんだよ」
「ビーズに興味があって、聞きたいことがあるって書いたからだよ」
「それ……、絶対むこうが考えてることと違うと思うぞ。まずくねえか?」

 あのなあ、と梶山が向き直った。

「考えてもみろよ。十年ぶりに甥の友人とか名乗る胡散臭いのがいきなり連絡してきてだぞ、亡くなった甥御さんが持ってたストラップそっくりのシロモノを拾ったんです、増水した川に橋から子どもを投げ落とす犯人から奪ったもので、これが本当に侑永のものなら身内以外持ってるはずがない、だからその殺人未遂犯は侑永のお兄さんだと思います、なんて伝えてみろ、果たして会ってくれると思うか? まず間違いなく頭おかしいって思われるに決まってるだろ」

「いや、まあそうだけど……」
「こっちの説明も間違っちゃいないだろ、見解の相違だよ」

 ミスリードを狙ったくせに、ものは言いようだな、と思う。

 だがこうやって他人がまとめた経緯を聞くと、いかれてるの一語が相応しいように思えてくる。

 それなのにこいつ、オレの話をよく信用したよな。

「でも、本当に大丈夫なのか? 関係者みたいな顔してついて来たけど、オレは須藤の兄弟と一度も面識がないし、話題振られても口を合わせる情報もない。まったくの戦力外だぞ」
「平気だって。シュウは隣で座って頷いてりゃなんとかなる。万が一拾ったものについて経緯を訊かれたら適当に答えりゃいい。あと奥の手も用意してある」

「奥の手――?」
 修哉は梶山へと視線を向けた。同時にアカネが視界に入る。姿が透けて、その向こうの梶山が見える。

「ああ。使うかどうかは相手の出方次第だけどな。ま、無理なく目的さえ達成できればいいんだ」

 梶山は目的地のほうを眺めていた。気楽を装って笑いはしているが、眼鏡の奥の目は緊張しているように思えた。それとも今の気分を投影して梶山を見ているからだろうか。

 須藤家の行き先を聞き出す。侑永の兄に会って、あの日、何故あんなことをしたのか、今はどう思っているのかを質したい。

 アカネはこちらの会話に興味が無いのか、左肩にもたれながら気もそぞろによそ見をしている。このままなにも起こらず、アカネがおとなしくしていてくれればいい。

 若い夫婦と思わしき二人組が連れた、小さな犬が通りすがりに上を向き、しきりと吠え立ててくる。

 おっと、と梶山が驚いて飛び退き、犬を大きく避ける。すると犬の視線は修哉の顔あたりに向いたまま、吠え続けた。
 すみません、と飼い主が頭を下げ、きゃんきゃん鳴く犬をリードで強制的に引っ張っていった。思わず苦笑が浮かぶ。

 理由はわからないが、視えているのか、それとも人と違って気配を感じるのか。動物に威嚇されることが増えた気がする。

「あたし、犬に嫌われるみたい」

 肩の上で、アカネが傷ついた顔をして言った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

朧《おぼろ》怪談【恐怖体験見聞録】

その子四十路
ホラー
しょっちゅう死にかけているせいか、作者はときどき、奇妙な体験をする。 幽霊・妖怪・オカルト・ヒトコワ・不思議な話…… 日常に潜む、胸をざわめかせる怪異── 作者の実体験と、体験者から取材した実話をもとに執筆した怪談短編集。

こちら御神楽学園心霊部!

緒方あきら
ホラー
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。 灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。 それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。 。 部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。 前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。 通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。 どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。 封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。 決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。 事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。 ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。 都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。 延々と名前を問う不気味な声【名前】。 10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。 

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

トゴウ様

真霜ナオ
ホラー
MyTube(マイチューブ)配信者として伸び悩んでいたユージは、配信仲間と共に都市伝説を試すこととなる。 「トゴウ様」と呼ばれるそれは、とある条件をクリアすれば、どんな願いも叶えてくれるというのだ。 「動画をバズらせたい」という願いを叶えるため、配信仲間と共に廃校を訪れた。 霊的なものは信じないユージだが、そこで仲間の一人が不審死を遂げてしまう。 トゴウ様の呪いを恐れて儀式を中断しようとするも、ルールを破れば全員が呪い殺されてしまうと知る。 誰も予想していなかった、逃れられない恐怖の始まりだった。 「第5回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました! 他サイト様にも投稿しています。

ゾンビと片腕少女はどのように死んだのか特殊部隊員は語る

leon
ホラー
元特殊作戦群の隊員が親友の娘「詩織」を連れてゾンビが蔓延する世界でどのように生き、どのように死んでいくかを語る

182年の人生

山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。 人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。 二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。 (表紙絵/山碕田鶴)  ※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。本日「66」まで済。

処理中です...